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腎盂腎炎のときによく使う抗菌薬セフトリアキソンを極める!【とことん極める!腎盂腎炎】第6回

腎盂腎炎のときによく使う抗菌薬セフトリアキソンを極める!Teaching point(1)セフトリアキソンは1日1回投与が可能で、スペクトラムの広さ、臓器移行性のよさ、腎機能での調整が不要なことから、腎盂腎炎に限らず多くの感染症に対して使用される(2)セフトリアキソンとセフォタキシムは、スペクトラムがほぼ同じであるが、投与回数の違い、腎機能での調整の有無の違いがある(3)セフトリアキソンは利便性から頻用されているが、効かない菌を理解し状況に合わせて注意深く選択する必要があることや、比較的広域な抗菌薬で耐性化対策のために安易に使用しないことに注意する(4)セフトリアキソンは、1日1回投与の特徴を活かして、外来静注抗菌薬療法(OPAT)に使用される1.セフトリアキソンの歴史セフトリアキソンは、1978年にスイスのF. Hoffmann-La Roche社のR. Reinerらによって既存のセファロスポリン系薬よりさらに強い抗菌活性を有する新しいセファロスポリンの研究開発のなかで合成された薬剤である。特徴としては、強い抗菌活性と広い抗菌スペクトラムならびに優れたβ-ラクタマーゼに対する安定性を有し、かつ既存の薬剤にはない独特な薬動力学的特性をも兼ね備えている。血中濃度半減期が既存のセファロスポリンに比べて非常に長く、組織移行性にも優れるため、1日1回投与で各種感染症を治療し得る薬剤として、広く使用されている。わが国においては、1986年3月1日に製造販売承認後、1986年6月19日に薬価基準収載された。海外では筋注での投与も行うが、わが国においては2024年8月時点では、添付文書上は認められていない。2.特徴セフトリアキソンは、セファゾリン、セファレキシンに代表される第1世代セファロスポリン、セフォチアムに代表される第2世代セファロスポリンのスペクトラムから、グラム陰性桿菌のスペクトラムを広げた第3世代セファロスポリンである。多くのセファロスポリンと同様に、腸球菌(Enterococcus属)は常に耐性であることは、同菌が引き起こし得る尿路感染や腹腔内感染の治療を考える際には重要である。その他、グラム陽性球菌としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に耐性がある。グラム陰性桿菌は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Stenotrophomonas maltphilia、偏性嫌気性菌であるBacteroides fragilisはカバーせず、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)も感受性があることが少ない。ESBL(extended-spectrum β-lactamase:基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)産生菌やAmpC過剰産生菌といった耐性菌に対しては感受性がない。グラム陽性桿菌は、リステリア(Listeria monocytogenes)をカバーしない。血漿タンパク結合率が85~95%と非常に高く、半減期は健康成人で8時間程度と長いため、1日1回投与での治療が可能な抗菌薬となる。タンパク結合していない遊離成分が活性をもつ。そのため、重症患者ではセフトリアキソンの実際のタンパク結合は予想されるより小さいとされているが1)、その臨床的意義は現時点では不明である。排泄に関しては、尿中排泄が緩徐であり、1gを投与12時間までの尿中には40%、48時間までには55%の、未変化体での排泄が認められ、残りは胆汁中に、血清と比較して200~500%の濃度で分泌される。水溶性ではあるが、胸水、滑液、骨を含む、組織や体液へ広く分布し、髄膜に炎症あれば脳脊髄移行性が高まり、高用量投与で髄膜炎治療が可能となるため、幅広い感染症に使用される。3.腎盂腎炎でセフトリアキソンを選択する場面は?腎盂腎炎の初期抗菌薬治療は、解剖学的・機能的に正常な尿路での感染症である「単純性」か、それ以外の「複雑性」かを分類し、さらに居住地域や医療機関でのアンチバイオグラム、抗菌薬使用歴、過去の培養検査での分離菌とその感受性結果を踏まえて抗菌薬選択を行う。いずれにしても腎盂腎炎の起因菌は、主に腸内細菌目細菌(Enterobacterales)となり、大腸菌(Escherichia coli)、Klebsiella属、Proteus mirabilisが主な起因菌となる2)。セフトリアキソンは一般的にこれらをすべてカバーするため、多くのマニュアルにおいて第1選択とされている。しかし、忘れられがちであるが、セフトリアキソンは比較的広域な抗菌薬であり、これらの想定した菌の、その地域でのアンチバイオグラム上のセファゾリンやセフォチアムの耐性率が低ければ、1日1回投与でなければいけない事情がない限り、後述の耐性化のリスクや注意点からも、セファゾリンやセフォチアムといった狭域の抗菌薬を選択すべきである。アンチバイオグラムを作成していない医療機関での診療の場合は、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infections Surveillance:JANIS)の都道府県別公開情報3)や、国立研究開発法人国立国際医療研究センター内のAMR臨床リファレンスセンターが管理する感染対策連携共通プラットフォーム(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology:J-SIPHE)の公開情報4)を参考にする。国内全体を見た場合にはセファゾリンに対する大腸菌の耐性率は高く、多くの施設において使用しづらいのは確かである。一方で、セフトリアキソンは、前述の通り耐性菌である、ESBL産生菌、AmpC過剰産生菌、緑膿菌はカバーをしないため、これらを必ずカバーをする必要がある場面では使用を避けなければいけない。4.セフトリアキソンとセフォタキシムとの違いは?同じ第3世代セファロスポリンである、セフトリアキソンとセフォタキシムは、スペクトラムがほぼ同じであり、使い分けが難しい薬剤ではあるが、2剤の共通点・相違点について説明する。セフトリアキソンとセフォタキシムとのスペクトラムについては、尿路感染症の主な原因となる腸内細菌目細菌に対してのスペクトラムの違いはほとんどなく、対象菌を想定しての使い分けはしない。2剤の主な違いは、薬物速度、排泄が大きく異なる点である。セフォタキシムは投与回数が複数回になること、主に腎排泄であり腎機能での用法・用量の調整が必要であり、利便性からはセフトリアキソンのほうが優位性がある。しかし、セフトリアキソンが胆汁排泄を介して便中に排出され、腸内細菌叢を選択するためか5)、セフォタキシムと比較し、腸内細菌の耐性化をより誘導する可能性を示す報告が少なからずある6,7)。そのため、投与回数や腎機能などで制限がない限り、セフトリアキソンよりセフォタキシムの使用を優先するエキスパートも存在する。5.投与量論争? 1gか2gかサンフォード感染症治療ガイドでは、化膿性髄膜炎を除く疾患では通常用量1〜2g静注24時間ごと、化膿性髄膜炎に対しては2g静注12時間ごと、Johns Hopkins ABX guidelineでは、化膿性髄膜炎を除く通常用量1〜2g静注もしくは筋注24時間ごと(1日最大4mg)での投与と記載されている。米国での集中治療室における中枢神経感染症のない患者でのセフトリアキソン1g/日と2g/日を後方視的に比較評価した研究において、セフトリアキソン1g/日投与患者で、2g/日投与患者より高い治療失敗率が観察された8)。腎盂腎炎ではないが、非重症市中肺炎患者を対象としたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、1g/日と2g/日の直接比較ではないが、同等の効果が期待できる可能性が示唆された9)。日本における全国成人肺炎研究グループ(APSG-J)という多施設レジストリからのデータを用いたpropensity score-matching研究において、市中肺炎に対するセフトリアキソン1g/日投与は2g/日と比較し、非劣性であった10)。以上から、現時点で存在するエビデンスからは、重症患者であれば、2g/日投与が優先され、軽症の肺炎やセフトリアキソンの移行性のよい臓器の感染症である腎盂腎炎であれば、1g/日も許容されると思われるが、1g/日投与の場合は、慎重な経過観察が必要と考える。6.セフトリアキソン使用での注意点【アレルギーの考え方】セファロスポリン系では、R1側鎖の類似性が即時型・遅延型アレルギーともに重要である11)。ペニシリン系とセファロスポリン系は構造的に類似しているが、分解経路が異なり、ペニシリン系は不完全な中間体であるpenicilloylが抗原となるため、ペニシリン系アレルギーがセファロスポリンアレルギーにつながるわけではない。セフトリアキソンは、セフォタキシム、セフェピムとR1で同一の側鎖構造(メトキシイミノ基)を有するため、いずれかの薬剤にアレルギーがある場合は、交差アレルギーが起こり得るので、使用を避ける。ただし、異なるR1側鎖を有する複数のセファロスポリン系にアレルギーがある場合は、β-ラクタム環が抗原である可能性があり、β-ラクタム系薬以外の抗菌薬を選択すべきである。【胆泥、偽性胆道結石症】小児で問題になることが多いが、セフトリアキソンは胆泥を引き起こす可能性があり、高用量での長期使用(3週間)により胆石症が報告されている。胆汁排泄はセフトリアキソンの排泄の40%までを占め、胆汁中の薬物濃度は血清の200倍に達することがある12,13)。過飽和状態では、セフトリアキソンはカルシウムと錯体を形成し、胆汁中に沈殿する。この過程は、経腸栄養がなく胆汁の停留がある集中治療室患者では、増強される可能性がある。以上から、重症患者、高用量や長期使用の際には、胆泥、胆石症のリスクになると考えられるため、注意が必要である。【末期腎不全・透析患者とセフトリアキソン脳症】脳症はセフトリアキソンの副作用のなかではまれであるが、報告が散見される。セフトリアキソンによる脳症の病態生理的メカニズムは完全には解明されていないが、血中・髄液中のセフトリアキソン濃度が高い場合に、β-ラクタム系抗菌薬による中枢神経系における脳内γ-アミノ酪酸(GABA)の競合的拮抗作用および興奮性アミノ酸濃度の上昇により、脳症が引き起こされると推定されている。セフトリアキソン関連脳症の多くは腎障害を伴い、患者の半数は血液透析または腹膜透析を受けていることが報告され、これらの患者のほとんどは、1日2g以上のセフトリアキソンを投与されていた14)。セフトリアキソンの半減期は、血液透析患者では正常腎機能患者と比較し、8~16時間と倍増することが判明しており15)、透析性の高いほとんどのセファロスポリンとは異なり、セフトリアキソンは血液透析中に透析されない14)。以上から、末期腎不全患者の血中および髄液中のセフトリアキソン濃度が高い状態が持続する可能性がある。サンフォード感染症治療ガイドやJohns Hopkins ABX guidelineなど、広く使われる抗菌薬ガイドラインでは、末期腎不全におけるセフトリアキソンの減量については言及されておらず、一般的には腎機能低下患者では投与量の調節は必要ないが、末期腎不全患者ではセフトリアキソンの減量を推奨するエキスパートも存在する。また1g/日の投与量でもセフトリアキソン脳症となった報告もあるため16)、長期投与例で、脳症を疑う症例があれば、その可能性に注意を払う必要がある。7.外来静注抗菌薬療法(OPAT)についてOPATはoutpatient parenteral antimicrobial therapyの略称で、外来静注抗菌薬療法と訳され、外来で行う静注抗菌薬治療の総称である。外来で点滴抗菌薬を使用する行為というだけではなく、対象患者の選定、治療開始に向けての患者教育、治療モニタリング、治療後のフォローアップまでを含めた内容となっている。OPATという名称がまだ一般的ではない国内でも、セフトリアキソンは1日1回投与での治療が可能という特性から、外来通院や在宅診療でのセフトリアキソンによる静注抗菌薬治療は行われている。外来・在宅でのセフトリアキソン治療は、本薬剤による治療が最も適切ではあるものの、全身状態がよく自宅で経過観察が可能で、かつアクセスがよく連日治療も可能な場合に行われる。OPATはセフトリアキソンに限らず、インフュージョンポンプという持続注射が可能なデバイスを使用することで、ほかの幅広い薬剤での外来・在宅治療が可能となる。詳細に関しては、馳 亮太氏(成田赤十字病院/亀田総合病院感染症内科)の報告を参考にされたい17)。1)Wong G, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013;57:6165-6170.2)原田壮平. 日本臨床微生物学会雑誌. 2021;31(4):1-10.3)厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業:道府県別公開情報.4)感染対策連携共通プラットフォーム:公開情報.5)Muller A, et al. J Antimicrob Chemother. 2004;54:173-177.6)Tan BK, et al. Intensive Care Med. 2018;44:672-673.7)Grohs P, et al. J Antimicrob Chemother. 2014;69:786-789.8)Ackerman A, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2020;64:e00066-20.9)Telles JP, et al. Expert Rev Anti Infect Ther. 2019;17:501-510.10)Hasegawa S, et al. BMC Infect Dis. 2019;19:1079.11)Castells M, et al. N Engl J Med. 2019;381:2338-2351.12)Arvidsson A, et al. J Antimicrob Chemother. 1982;10:207-215.13)Shiffman ML, et al. Gastroenterology. 1990;99:1772-1778.14)Patel IH, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1984;25:438-442.15)Cohen D, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1983;24:529-532.16)Nishioka H, et al. Int J Infect Dis. 2022;116:223-225.17)馳 亮太ほか. 感染症学雑誌. 2014;88:269-274.

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消毒の難しい器具の消毒、消毒用ワイプvs.UV+過酸化水素

 理学療法で用いられる器具の消毒は、消毒液を含浸したワイプを用いた消毒では不十分である可能性が示された。米国・デューク大学のBobby G. Warren氏らは、理学療法で使用される消毒の難しい器具について、消毒方法の効果を評価した。その結果、消毒液を含浸したワイプによる消毒では病原体が残存する可能性が高かったが、深紫外線(UV-C)と過酸化水素を用いた消毒方法は病原体の残存が抑制された。本研究結果は、Infection Control & Hospital Epidemiology誌オンライン版2024年7月26日号で報告された。 研究グループは、成人および小児の理学療法で使用される器具を対象として、2段階の前向き比較試験を実施した。第1段階では、使用後の器具を消毒液を含浸したワイプで消毒して(消毒用ワイプ消毒)、汚染状況を評価した。第2段階では、使用後の器具を左右対称に分割し、一方は消毒を実施せず(無消毒)、もう一方はUV-Cと6%過酸化水素水を用いたキャビネットで消毒して(キャビネット消毒)、汚染状況を評価した。 主な結果は以下のとおり。・消毒用ワイプ消毒後に臨床的に重要な病原体(CIP)を保持する割合は43%(52/122サンプル)であった。とくに、歩行補助具(72%)、治療用ボール(66%)の汚染率が高かった。・キャビネット消毒後にCIPを保持する割合は2%(3/196サンプル)であった(無消毒は19%[37/196サンプル])。・キャビネット消毒後のCIPのコロニー形成単位(CFU)中央値は0(四分位範囲:0~55)であり、無消毒の977(同:409~2,547)、消毒用ワイプ消毒後の527(同:117~1,218)と比較して有意に低かった(いずれもp<0.00001)。 本研究結果について、著者らは「理学療法で用いられる器具は、消毒用ワイプによる標準的な消毒後も、病原体による汚染がみられた。これは、形状や素材、消毒液の塗布が難しいことに起因すると考えられ、これらの器具では、UV-Cと6%過酸化水素水を用いたキャビネットでの消毒が効果的であることが支持された」とまとめた。

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日本BDが血培ボトル出荷調整、学会が対応を注意喚起

 日本ベクトン・ディッキンソンは7月3日のリリースにて、「BDバクテック血液培養ボトル」8製品を出荷調整することを発表した。米国本社より、供給元からの同製品の原材料であるプラスチックボトルの供給に3ヵ月程度の遅延が発生したため、今後の製造と出荷が通常時の50%程度に制限される見込みであるとの報告があり、当面の間、世界的にすべての需要を満たすことが困難な状況となった。本報告を受けて、日本臨床微生物学会と日本感染症学会は同日、医療機関側でも出荷調整の数ヵ月間を大きな混乱なく診療ができるように、対応について告知した。 両学会は、「特にこのような情報を受け取った場合、自分の病院だけはなんとか十分量を確保しようとする動きが出てきますが、それが病院間のアンバランスを生み、極端に血液培養ボトルが不足する医療機関が生じかねない状況を生んでしまいます。そのため、国内の医療機関が歩調を合わせて被害を少なくするため、下記の点について会員の皆様に徹底をお願いします」と注意を促している。 両学会による注意喚起は以下のとおり。1. 血液培養ボトルの発注量の適正化 これまで発注していたレベル以上の発注や在庫の確保を目的とした発注については、極力控えていただくようお願いします。2. 血液培養の対象の見直し 血液培養の対象となる優先順位から考えて、菌血症・敗血症患者への2セット採取は必要と考えます。ただし、その一方で、菌血症の陰性化確認は対象を限定するか1セットでの採取はやむを得ないと思われます。また、状態が比較的安定している患者や他の培養検査で原因菌の検索が可能と思われるような患者においては、血液培養の対象からはずすこともご検討ください。3. 院内ルールの設定と周知の徹底 各医療期間によって血液培養の実施状況は異なるため、各施設に応じた院内ルールを決めていただく必要があります。現在よりも半数程度に血液培養を抑えるために、どの部分を減らせるかについては微生物検査室やASTなどで相談していただき、妥当な院内ルールの案をご検討ください。そしてそのルールが守られるよう院内における周知徹底をお願いします。

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発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応【1分間で学べる感染症】第5回

画像を拡大するTake home message発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応を7つ覚えよう。発熱性好中球減少症は対応が遅れると致死率が高いため、迅速な対応が求められます。入院中の患者の場合、基本的には緑膿菌のカバーを含めた広域抗菌薬の投与が初期治療として推奨されていますが、それに加えてグラム陽性菌に対するカバーを追加するかどうかは悩みどころです。そこで、今回はガイドラインで推奨されている以下の7つの適応を理解するようにしましょう。1)血行力学的不安定または重症敗血症の場合2)血液培養からグラム陽性菌が陽性の場合3)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の保菌がある場合4)重症粘膜障害(フルオロキノロン系抗菌薬予防内服)の場合5)皮膚軟部組織感染症を有する場合6)カテーテル関連感染症を臨床的に疑う場合7)画像上、肺炎が存在する場合上記のうち、1)2)に関してはとくに疑問なく理解できると思います。3)に関しては、患者のこれまでの記録をカルテで確認することで、そのリスクを判断します。4)5)6)に関しては、身体診察でこれらを疑う場合には、すぐに追加を検討します。6)はカテーテル局所の発赤や腫脹、疼痛などがあれば容易に判断できますが、血液培養が陽性となるまでわからないこともあるため注意が必要です。7)に関してはMRSAによる肺炎を懸念しての推奨です。グラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応に関しては、上記7つをまずは理解したうえで、その後のde-escalationを行うタイミングや継続の有無に関しては、その後の臨床経過や検査結果から総合的に判断しましょう。1)Freifeld AG, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:e56-e93.

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第217回 耐性菌阻止のみならず耐性を破りさえする化合物を発見

耐性菌阻止のみならず耐性を破りさえする化合物を発見細菌の抗菌薬に対する耐性を防ぎ、さらには耐性をすでに獲得した細菌への抗菌薬の効果をも復活させうる化合物を英国オックスフォード大学のチームが生み出しました1,2)。抗菌薬の手に負えない細菌(薬剤耐性菌)が世界で増えていることは、人類の健康や発展を脅かす一大事の1つです。よくある感染症の多くがますます治療困難になっており、薬剤耐性菌を直接の原因として年間127万例が死亡しています3)。間接的なものも含めるとその数は4倍ほどの495万例にも上り、新たな抗菌薬の開発なしではそれら薬剤耐性菌を発端とする死亡例は今後増加の一途をたどるとみられています。細菌が抗菌薬への耐性を獲得する仕組みの1つは、それら細菌の遺伝配列に新たな変異が生じることです。フルオロキノロンなどの抗菌薬は細菌DNAを傷つけることで細菌を死なせます。DNAが傷つけられた細菌はその傷を修復して変異を増やすSOS反応と呼ばれる経路を発動します。SOS反応は酵素複合体AddABやRecBCDを皮切りに始まります。前者のAddABは主にグラム陽性細菌に備わり、後者のRecBCDはグラム陰性細菌にあります。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を用いた研究によると、AddABは感染、変異を増やすDNA修復、薬剤耐性に携わります。配列がわかっている細菌のほとんど(約95%)がAddABかRecBCDのいずれかを保有しており、AddABやRecBCDの阻害薬は細菌全般に広く効きそうです。また、都合がよいことに哺乳類にRecBCDやAddABに似通う相同配列は見つかっておらず、それらの阻害薬のヒトへの影響は少なくて済みそうです。AddAB/RecBCD阻害薬の報告はすでにいくつかあり、2019年に発見が報告されたIMP-1700という名称の化合物はその1つで、MRSAのSOS反応をいくらか阻害することが確認されています。オックスフォード大学のチームはIMP-1700の加工品一揃いを作り、フルオロキノロン抗菌薬であるシプロフロキサシンと一緒にMRSAにそれらを投与して効果のほどを検討しました。その検討が実を結び、DNA損傷を促進しつつシプロフロキサシン耐性出現を阻害する化合物OXF-077が見つかりました。シプロフロキサシンやその他の抗菌薬とOXF-077を組み合わせると、それらの抗菌薬はより少ない量でMRSAの増殖を阻害できました。また、シプロフロキサシンとOXF-077の組み合わせは耐性出現を有意に抑制し、SOS反応の阻害薬で細菌の薬剤耐性を抑制しうることが初めて証明されました。OXF-077は耐性抑制にとどまらず、耐性をすでに獲得してしまっている細菌への抗菌薬の効果を復活させる役割もあります。シプロフロキサシンの耐性を獲得した細菌にOXF-077と共にシプロフロキサシンを与えたところ、シプロフロキサシンの効果が非耐性細菌への効果と同程度に回復しました。薬剤耐性菌の世界的な脅威に対抗する細菌DNA修復/SOS反応阻害薬の今後の開発にOXF-077が役立つだろうと著者は結論しています。参考1)Bradbury JD, et al. Chemical Science. 2024 May 16. [Epub ahead of print]2)New molecule found to suppress bacterial antibiotic resistance evolution / University of Oxford 3)Antimicrobial Resistance Collaborators. Lancet. 2022;399:629-655.

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肺炎診療GL改訂~市中肺炎の改訂点は?/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版からの約7年ぶりの改訂となる。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、岩永 直樹氏(長崎大学病院 呼吸器内科)が市中肺炎(CAP)に関する改訂のポイントを解説した。非定型肺炎の鑑別を大切にすることに変わりはない CAPへの初期の広域抗菌薬投与や抗MRSA薬のエンピリックな使用は予後を改善せず、むしろ有害であるという報告がある。そのため、エンピリックな耐性菌カバーは予後を改善しない可能性がある。そこで、今回のガイドラインでは、非定型肺炎の鑑別を大切にするという方針を前版から継承し、CAPのエンピリック治療薬の考え方を示している。そこでは、外来患者や一般病棟入院患者では抗緑膿菌薬や抗MRSA薬は使用せず、これらの薬剤は重症例や免疫不全例に検討することとしている(詳細は本ガイドラインp.34図4を参照されたい)。 近年、CAPではウイルスが検出されることが多いことも報告されている2)。そのような背景から、今後は同時多項目遺伝子検査の活用が重要となってくることが考えられる。そこで、今回のガイドラインでは、多項目遺伝子検査に関するクリニカルクエスチョン(CQ)が設定された。多項目遺伝子検査は従来法と比較して原因微生物の同定率が高く(67.5% vs.42.7%)、「行うことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」とされた(CQ19)。なお、多項目遺伝子検査の対象について、岩永氏は「主にCAPがターゲットとなると考えている。とくに免疫不全例では典型的な病像を呈さないことも多いため、これらの症例に有用性があるのではないか」と意見を述べた。CAPのCQとポイント CAPに関するCQとポイントは以下のとおり。・CAPの重症度評価の方法(CQ1) A-DROPスコアはCURB-65スコアやPSIスコアと同等の予測能を示した。A-DROPスコアによる評価は本邦でよく用いられており、簡便であることから「A-DROPスコアによる重症度評価を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・注射用抗菌薬から経口抗菌薬への変更(スイッチ療法)(CQ2) CAPに対するスイッチ療法は注射用抗菌薬の継続と比較して、同等の肺炎治癒率を示し、副作用発現頻度は有意差がないが減少傾向で、入院期間を有意に短縮した。また、医療費についてはシステマティックレビュー(SR)を実施していないが、3件の無作為化比較試験(RCT)においていずれも低下させる傾向にあった。以上から「スイッチ療法を行うことを強く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。・短期抗菌薬治療(CQ3) CAPのアジスロマイシンによる治療とアジスロマイシンを含まない治療のいずれにおいても、短期治療(1週間以内)は標準治療(1週間超)と比較して、死亡率と肺炎治癒率に差がなかった。また、肺炎再燃率や副作用発現率も同等であった。医療費についても、SRは実施していないが、3件のRCTではいずれも低下させる傾向にあった。以上から「初期治療が有効な場合には短期治療を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。ただし多くのRCTが軽症〜中等症を対象としており、重症例、集中治療を要する症例、高齢者などは注意が必要である。・β-ラクタム系薬へのマクロライド系薬の併用(CQ4) 重症例では、β-ラクタム系薬にマクロライド系薬を併用することで死亡率と肺炎治癒率の改善が認められた。1件の観察研究でコストは増加する傾向にあったが、耐性菌発生率は変化しなかった。非重症例では、併用療法により死亡率や肺炎治癒率、入院期間、耐性菌発生率のいずれも変化しなかった。また、1件の観察研究でコストは増加する傾向にあった。以上から、「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・抗菌薬へのステロイドの併用(CQ5) 全身性ステロイド薬投与は重症例では死亡率を低下させ、非重症例では死亡率を低下させなかった。CAP全体では、併用により肺炎治癒率は変化せず、入院期間が短縮した。以上から、「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。

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病院・施設の除菌対策、MDRO保菌や感染症入院が低下/JAMA

 地域内で協力して行った、病院の患者(接触感染予防で入院した患者に限定)と長期介護施設入居者に対するクロルヘキシジン浴(清拭・シャワーを含む)とヨードホール消毒薬の経鼻投与の除菌対策(universal decolonization)により、多剤耐性菌(MDRO)の保菌者割合、感染症の発生率、感染関連の入院率、入院関連費用および入院死亡率が低下したことが示された。米国・カリフォルニア大学アーバイン校のGabrielle M. Gussin氏らが、地域内35ヵ所の施設で行った医療の質向上研究の結果を報告した。MDROによる感染症は、罹患率、死亡率、入院の長期化および費用の増大と関連している。地域介入によって、MDRO保菌および関連する感染症の軽減が図られる可能性が示唆されていた。JAMA誌オンライン版2024年4月1日号掲載の報告。カリフォルニア州オレンジ郡のヘルスケア施設35ヵ所で試験 研究グループは2017年7月1日~2019年7月31日に、カリフォルニア州オレンジ郡の35ヵ所のヘルスケア施設を通じて試験を行った。長期介護施設入居者と、接触感染予防で病院に入院している患者を対象に、クロルヘキシジン浴とヨードホール消毒薬の経鼻投与を実施し、地域内のMDRO保菌率などを検証した。 主要アウトカムは、(1)試験参加施設におけるベースラインと試験終了時のMDRO保菌率、(2)試験参加・非参加施設におけるMDRO臨床培養の陽性率(スクリーニングを除く)、(3)試験参加・非参加ナーシングホームの入居者における感染関連の入院率と入院関連費用、入院死亡率だった。MDRO保菌率、長期介護施設で52%減少、病院でも25%減少 試験参加施設は計35施設(病院16、ナーシングホーム16、長期急性期病院[long-term acute care hospitals:LTACH]3)だった。 試験参加施設のMDROの平均保菌率は、ナーシングホームではベースラインの63.9%から介入により49.9%に、LTACHでは80.0%から53.3%にそれぞれ減少した(両施設のオッズ比[OR]:0.48、95%信頼区間[CI]:0.40~0.57)。接触感染予防で病院に入院する患者のMDRO保菌率も、同じく64.1%から55.4%に減少した(OR:0.75、95%CI:0.60~0.93)。 月当たり平均のMDRO臨床培養陽性件数(SD)は、ナーシングホームの場合、試験参加施設では月平均2.7(1.9)件から1.7(1.1)件に減少し、非参加施設では1.7(1.4)件から1.5(1.1)件に減少した(群×期間交互作用の減少:30.4%、95%CI:16.4~42.1)。病院の場合は、試験参加病院では25.5(18.6)件から25.0(15.9)件に減少したが、非参加病院では12.5(10.1)件から14.3(10.2)件へ増加した(群×期間交互作用の減少:12.9%、95%CI:3.3~21.5)。LTACH(全施設が試験に参加)では、14.8(8.6)件から8.2(6.1)件に減少した(期間減少:22.5%、同:4.4~37.1)。 ナーシングホームの感染関連入院率は、試験参加施設では1,000入居者日当たりでベースラインの2.31件から介入により1.94件に減少し、非参加施設では同1.90件から2.03件に増加した(群×期間交互作用減少:26.7%、95%CI:19.0~34.5)。また、ナーシングホームの感染関連入院費用も、試験参加施設では1,000入居者日当たり6万4,651ドルから5万5,149ドルに減少したが、非参加施設では5万5,151ドルから5万9,327ドルに増加した(群×期間交互作用減少:26.8%、95%CI:26.7~26.9)。ナーシングホームの感染関連入院死亡率も、試験参加施設では1,000入居者日当たり0.29件から0.25件に減少したが、非参加施設での変化は0.23件から0.24件だった(群×期間交互作用減少:23.7%、95%CI:4.5~43.0)。

8.

ナーシングホーム入所者に対するユニバーサル除菌は感染症による入院を予防できるか?(解説:小金丸博氏)

 ナーシングホームに入居する高齢者では、感染症による入院リスクや薬剤耐性菌(MRSA、ESBL産生菌など)の保菌率が高いことが懸念されている。今回、ナーシングホーム入所者に対して除菌を行うことで感染症による入院を減らすことができるかを検討したランダム化比較試験の結果が、NEJM誌オンライン版2023年10月10日号に報告された。除菌を行った群では感染症による入院が減少し(ベースライン期間と介入期間のリスク比:0.83、95%信頼区間:0.79~0.88)、日常ケア群とのリスク比の差は16.6%だった。ランダムに抽出した入所者に対して行った多剤耐性菌の保菌率は除菌を行った群で減少を認め、日常ケア群と比較した相対リスクは0.70(95%信頼区間:0.58~0.84)だった。感染症による入院を1件防ぐのに必要な治療数(NNT)は9.7件であり、ナーシングホーム入所者に対するユニバーサル除菌は有効性の高い予防法である可能性が示唆された。 過去の研究において、ICUセッティングや種々の医療機器装着患者に対する除菌により感染リスクが低減することが示されていたが、同様の結果が高齢者介護施設入所者においても示された。今後、日本においても介護施設を利用する高齢者の増加が予想されており、除菌という介入を行うことで施設からの病院受診や入院を減らすことができるのであれば、医療経済の観点からも有用な知見と考える。 本研究で実施された除菌では、10%ポビドンヨードの鼻腔内塗布(隔週ごとに1日2回5日間)およびシャワー入浴時に4%クロルヘキシジン含有洗浄剤(ベッドでの清拭にはリンス不要の2%クロスヘキシジン含有クロス)を使用した。除菌による有害事象として発疹が34件、咽頭炎が1件報告されているものの重篤なものは認めておらず、安全性に関しても大きな問題はなさそうである。今後、本試験で行われたような高齢者施設入所者に対する除菌を実効性のある介入方法とするには、使用する消毒薬剤のコストの問題を解決することや、ケアを行う介護者の負担軽減が不可欠になると考える。

9.

関節形成術の感染予防、バンコマイシン追加は有効か/NEJM

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌が確認されていない関節形成術を受ける患者において、セファゾリンによる標準的な周術期抗菌薬予防投与にバンコマイシンを追加しても手術部位感染予防効果は改善しないことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のTrisha N. Peel氏らが、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Australian Surgical Antibiotic Prophylaxis trial:ASAP試験」の結果を報告した。現行ガイドラインでは、関節形成術における感染予防としてセファゾリンや第2世代セファロスポリン系抗菌薬の投与が推奨されているが、MRSAやメチシリン耐性表皮ブドウ球菌の感染は予防できない恐れがある。バンコマイシンの追加で手術部位感染が減少する可能性があるが、有効性および安全性は不明であった。NEJM誌2023年10月19日号掲載の報告。術後90日以内の手術部位感染の発生を評価 研究グループは、関節形成術を受ける18歳以上の患者で、MRSAの感染/コロニー形成が証明されていない、またはその疑いがない患者を、セファゾリンによる標準的な周術期抗菌薬予防投与に加えて、バンコマイシン1.5g(体重50kg未満の患者では1g)を静脈内投与する群(バンコマイシン群)または生理食塩水を投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、術後90日以内のすべての手術部位感染(表層切開創、深部切開創および臓器/体腔感染)の発生。安全性アウトカムは、急性腎障害、抗菌薬に対する過敏反応、180日死亡などであった。 2019年1月15日~2021年10月29日に4,239例が無作為化された(新型コロナウイルス感染症の流行により手術が長期にわたり中断されたため、計画された4,450例の98.0%に当たる4,362例が登録された時点で試験終了となった)。 4,239例中、割り付けられて手術を受けた4,113例(膝関節形成術2,233例、股関節形成術1,850例、肩関節形成術30例)が修正ITT集団に組み入れられた。バンコマイシン上乗せの有効性は認められず、膝関節形成術ではむしろ感染が増加 修正ITT集団4,113例において、手術部位感染はバンコマイシン群で2,044例中91例(4.5%)、プラセボ群で2,069例中72例(3.5%)に発生し、相対リスクは1.28(95%信頼区間[CI]:0.94~1.73、p=0.11)であった。 膝関節形成術における手術部位感染の発生率は、バンコマイシン群5.7%(63/1,109例)、プラセボ群3.7%(42/1,124例)、相対リスクは1.52(95%CI:1.04~2.23)であった。一方、股関節形成術における手術部位感染の発生率はそれぞれ3.0%(28/920例)、3.1%(29/930例)、相対リスクは0.98(95%CI:0.59~1.63)であった。 有害事象は、バンコマイシン群で2,010例中35例(1.7%)、プラセボ群で2,030例中35例(1.7%)に発現した。過敏反応はそれぞれ24例(1.2%)、11例(0.5%)(相対リスク2.20、95%CI:1.08~4.49)、急性腎障害は42例(2.1%)および74例(3.6%)(相対リスク0.57、95%CI:0.39~0.83)に認められた。

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介護施設の入浴時ユニバーサル除菌、感染症入院リスクを低下/NEJM

 ナーシングホームにおいて、全入所者に対するクロルヘキシジンの使用とポビドンヨード経鼻投与による除菌は、通常ケアよりも感染症による入院リスクを有意に低下することが示された。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のLoren G. Miller氏らが、ナーシングホーム28ヵ所の入所者計2万8,956人を対象に行ったクラスター無作為化試験で明らかにした。ナーシングホームの入所者は、感染・入院および多剤耐性菌の保菌率が高いといわれる。NEJM誌オンライン版2023年10月10日号掲載の報告。ベースライン18ヵ月、介入期間18ヵ月を設定 研究グループは、ナーシングホームにおける入浴について、ユニバーサル除菌法と通常ケアを比較した。試験対象のナーシングホーム28ヵ所を無作為に割り付け、それぞれ18ヵ月のベースライン期間と、18ヵ月の介入期間を設定した。除菌群の介入期間にのみ、入浴とシャワーにクロルヘキシジンを使用し、また入所後5日間、1日2回鼻にポビドンヨードを、その後は2週間ごとに5日間、1日2回鼻にポビドンヨードを投与し除菌を行った。 主要アウトカムは、感染症による病院への移送。副次アウトカムは、理由を問わない病院への移送だった。各アウトカムについて一般化線形混合モデルを用い、ITT集団(as-assigned)について差分の差分(difference-in-differences)分析を行い、ベースライン期間と介入期間を比較した。感染症による入院、両群間でリスク比の差は16.6% ナーシングホーム28ヵ所から入所者2万8,956人のデータを入手し解析した。 通常ケア群における病院への移送者のうち、感染症の割合(全施設平均)は、ベースライン期間が62.2%、介入期間が62.6%だった(リスク比:1.00、95%信頼区間[CI]:0.96~1.04)。除菌群では、ベースライン期間の同割合は62.9%、介入期間は52.2%と、介入期間で低く(リスク比:0.83、95%CI:0.79~0.88)、通常ケア群と比較したリスク比の差は16.6%だった(95%CI:11.0~21.8、p<0.001)。 ナーシングホームからの退所者のうち、あらゆる理由で病院へ移送された人の割合は、通常ケア群ではベースライン期間で36.6%、介入期間で39.2%だった(リスク比:1.08、95%CI:1.04~1.12)。除菌群では、ベースライン期間で35.5%、介入期間で32.4%(リスク比:0.92、95%CI:0.88~0.96)で、通常ケア群と比較したリスク比の差は14.6%(95%CI:9.7~19.2)だった。 as-assigned解析からのデータに基づく治療必要数(NNT)は、感染症による入院を1件防ぐのに9.7、理由を問わない入院を1件防ぐのに8.9だった。

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複雑性黄色ブドウ球菌菌血症へのceftobiprole、ダプトマイシンに非劣性/NEJM

 複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の成人患者において、ceftobiproleはダプトマイシンに対し、全体的治療成功に関して非劣性であることが示された。米国・デューク大学のThomas L. Holland氏らが、390例を対象に行った第III相二重盲検ダブルダミー非劣性試験の結果を報告した。ceftobiproleは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の治療に効果的である可能性が示されていた。NEJM誌オンライン版2023年9月27日号掲載の報告。ceftobiproleまたは、ダプトマイシンと必要に応じアズトレオナム投与 研究グループは、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の成人被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはceftobiprole(500mgを静脈内投与、8日間は6時間ごと、その後は8時間ごと)、もう一方の群にはダプトマイシン(6~10mg/kg体重を静脈内投与、24時間ごと)を投与し、ダプトマイシン群では必要に応じてアズトレオナムも投与した。 主要アウトカムは、無作為化70日後の全体的治療成功(生存、血液培養陰性化、症状改善、新たな黄色ブドウ球菌菌血症関連の合併症がない、他の効果がある可能性のある抗菌薬を非投与)だった。非劣性マージンは15%とし、データ評価委員会が判断した。安全性についても評価した。全体的治療成功率、両群ともに69~70% 無作為化された390例のうち、黄色ブドウ球菌菌血症が確認され実薬を投与されたのは387例(ceftobiprole群189例、ダプトマイシン群198例)だった(修正ITT集団)。 全体的治療成功を達成したのは、ceftobiprole群189例中132例(69.8%)、ダプトマイシン群198例中136例(68.7%)であった(補正後群間差:2.0%ポイント、95%信頼区間[CI]:-7.1~11.1)。主なサブグループ解析および副次アウトカムの評価についても、両群の結果は一貫しており、死亡率はそれぞれ9.0%と9.1%(95%CI:-6.2~5.2)、菌消失率は82.0%と77.3%(-2.9~13.0)だった。 有害事象は、ceftobiprole群191例中121例(63.4%)、ダプトマイシン群198例中117例(59.1%)で報告された。重篤な有害事象は、それぞれ36例(18.8%)と45例(22.7%)で報告された。消化器関連の有害事象(主に軽度の悪心)は、ceftobiprole群でより発現頻度が高かった。

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第180回 宮城の病院でレジオネラ症集団感染、病院利用がない地域住民への感染はなぜ起こった?

入院患者、外来患者だけでなく病院利用が全くなかった地域住民にも感染広がるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球は、オリックス・バファローズがパ・リーグ三連覇を決めました。阪神、オリックスがこのままの勢いで行けば、今年の日本シリーズは大阪と兵庫の球場だけで行われる関西シリーズになります。関東在住者としては少々寂しいです。一方、米国のMLBでは、藤浪 晋太郎投手が所属するボルチモア・オリオールズと、前田 健太投手が所属するミネソタ・ツインズが、それぞれアメリカン・リーグの東地区、中地区の優勝を決めました。シーズン後半になって持ち直してきた両投手のポストシーズンでの活躍に期待したいと思います。さて、今回は東北の地方都市にある民間病院で起こった、レジオネラ症の集団感染について書きます。7月に発覚したこの事件、その後の調査で、入院や外来など病院を利用した人の感染だけではなく、病院利用がまったくなかった地域住民にも感染が広がっていました。温泉入浴施設での集団感染事例が多いレジオネラ症ですが、どうして病院で起こったのでしょうか。また、どうして病院利用者以外にも広がってしまったのでしょうか…。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院宮城県は9月11日、県内の病院で、今年6~7月にかけて病院の利用者6人がレジオネラ症に感染し、80代と40代の男女2人が死亡した問題で、病院の利用歴のない近隣住民ら11人も感染していた、と発表しました。県は「病院の集団感染と関連があるとみられる」として、詳しい因果関係を調べているとのことです。宮城県の発表によると、ことの経緯は以下のようなものでした。6月下旬~7 月中旬、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づくレジオネラ症患者の届け出があった6人について、届け出を受理した大崎保健所が調査を行いました。その結果、同一医療機関を利用していたことが判明、健康被害拡大防止と重症化防止のため、7月19日に施設名の公表を行いました。集団感染を起こしたのは、宮城県大崎市の医療法人永仁会・永仁会病院です。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院で、Webサイトによれば、消化器、腎臓、糖尿病、乳腺疾患などを専門としています。その後、同病院の施設調査が行われ、空調設備(空調冷却塔2基の拭取検体)からレジオネラ属菌が検出。1基は安全とされる目安の97万倍、もう1基は68万倍の菌が検出されたとのことです。菌を含んだ水がエアロゾル状となり冷却塔外に舞い散る空調の冷却は冷却塔内のファンを回して行うため、菌を含んだ水がエアロゾル状となって冷却塔外に舞い散り、新型コロナ対策の換気で開放されていた病室の窓などから入り感染につながったとみられています。コロナ予防のための換気対策が逆にレジオネラ症の感染拡大につながったわけです。皮肉なものです。また、遺伝子検査により、6人の患者のうち4人の患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株との遺伝子パターンが一致したため、8月4日にはその事実も公表されました。県はこの事実に基づいて、近隣医療機関に対する注意喚起を行い、併せて同病院に対して、厚労省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」1)に基づき指導を行いました。半径3km以内に住む住民も感染3回目となる9月11日の宮城県の発表では、さらなる感染拡大が明らかになりました。7月に公表された患者6人に加え、7月下旬にレジオネラ症患者の届け出があった1人についても同病院を利用していたことが判明、遺伝子検査でこの患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンの一致が確認されました。ちなみに、計8人の患者の年齢は40〜90代、入院5人、通院3人でした。死亡したのは40代と80代の2人で、残り6人は入院加療により軽快したとのことです。この時の発表では意外な事実も明らかにされました。病院の利用歴がない近隣住民らの感染です。大崎保健所の管内では、同病院を利用していた患者8人とは別に、利用歴がない13人のレジオネラ症患者の届け出が出ていました。これは、大崎管内の例年のレジオネラ症発生状況と比較しても多い数字であったことに加え、13人のうち11人については、自宅や勤務先が同病院に近接(半径3km以内)している事実が判明、うち4人については患者由来菌株と同病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンが一致していました。宮城県は、「当該医療機関の冷却塔が感染源であることは科学的に完全には証明できておりませんが、同種事案の再発防止や県民の健康を守る観点から、県内において冷却塔を有する施設管理者に対し注意喚起を行う」と発表しました。なお、永仁会病院は県の指導の下、7月23日に清掃業者が空調冷却塔2基の清掃と薬品による化学的洗浄を実施、8月以降はこの冷却塔との関連性が疑われるレジオネラ症患者の発生はないとのことです。温泉入浴施設での集団感染が多いレジオネラ症レジオネラ症は感染症法上の4類感染症に分類されており、全数報告対象です。よくニュースになるのは、温泉入浴施設などでの感染です。最近の大きな集団感染事例は、2017年3月に発生した広島県内の温泉入浴施設で起きたもので、入浴客の中から58人の患者が発生し、1人が死亡しています。なお、2002年7月に宮崎県内の温泉入浴施設で起きた集団感染では295人が感染し、7人が死亡しています。厚生労働省のWebサイトによれば、レジオネラ症は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を代表とするレジオネラ属菌による細菌感染症で、その病型は劇症型の肺炎と、肺炎は起こさない一過性のポンティアック熱があるとのことです。もともと土壌や水環境に普通に存在する菌ですが、エアロゾルを発生させる人工環境(ビル屋上に立つ空調冷却塔、ジャグジー、加湿器等)や循環水を利用した風呂などが菌の増殖を促し、感染機会を増やしているとされています。レジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルを吸入すること等で感染し、潜伏期間は2~10日間、ヒトからヒトへ感染することはない、とされています。もっとも、菌に曝露しても誰もが発症するわけではなく、細胞性免疫能の低下した高齢者やがん患者、透析患者などで肺炎を発症しやすいとされています。今回の永仁会病院のケースも、病院屋上の空調冷却塔でレジオネラ属菌が増殖し、それを含んだエアロゾルが拡散、免疫の落ちた患者らが吸引し、感染したと考えられます。同病院は透析病床も多く抱えているので、そのあたりも感染拡大の一因かもしれません。病院の空調設備だけでなく給水設備も汚染源に調べてみると、院内感染によるレジオネラ症は決して珍しいことではなく、世界的にも問題になっているようです。原因は今回問題となった病院の空調設備だけでなく、給水設備も汚染源になり得るようです。たとえば、神奈川県衛生研究所の研究者らが、2015年に神奈川県内の3病院(200床以上)を対象に給水設備(病衣内の蛇口水及びシャワー水と、蛇口及びシャワーヘッドのスワブ)のレジオネラ属菌による汚染を遺伝子の検出と培養により調査した文献によれば、3病院でのレジオネラDNAの検出は水試料では6.7~93.8%、スワブ試料では0~7.1%、培養によるレジオネラ属菌の検出は水試料では26.7〜66.7%、スワブ試料では0~14.3%だったそうです。著者らはこの結果を踏まえ、「医療機関においては高リスクグループに配慮し、感染防止対策と給水設備の管理の徹底が必要である」と結んでいます2)。「藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」と病院それにしても、病院利用者以外への感染はどう考えたらいいのでしょうか。宮城県はその後、調査結果を公表しておらず想像するしかありませんが、空調冷却塔からレジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルが風などに乗って相当広範囲に飛んだのが原因だと考えられます。空調冷却塔は通常、気温が上がり始めた5~9月頃まで使用されます。同病院の場合、冷却塔の洗浄を十分にしないで今シーズンを迎えたのかもしれません。7月20日付の朝日新聞の報道等によれば、病院は「これまで、毎年1回換水し、冷房を使い終わる10月と、使い始める5月ごろに病院職員がデッキブラシなどで清掃していた」と説明し、「今年も5月に清掃した」とのことです。しかし、「冷却塔の動作確認を毎月する際、塔内に藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」そうです。安全とされる目安の100万倍近い菌が棲み着いたエアロゾルが、風に乗って病院から半径3キロ内に飛び散っていたわけです。まさにモダンホラーです。これでは病院の近くにはおちおち住めませんね。駅弁で大騒動のセレウス菌も過去には医療機関で集団感染先週、青森県の駅弁メーカーの弁当で起きたセレウス菌による食中毒もそうですが、集団感染や院内感染は忘れた頃に突然起きます。医療機関以外での集団感染が一般的な感染症も、時として病院などで起こるので注意が必要です。ちなみに、セレウス菌については、病院のリネン類(外部に洗濯を依頼していた清拭タオルなど)を介した集団感染が時折起きています。大きく報道されたところでは、2006年の自治医科大学附属病院、2013年の国立がん研究センター中央病院の事例が有名です。いずれも死亡例が出ています。病院管理者の皆さん、病院が思わぬ菌の感染源とならないためにも、MRSA対策だけでなく、レジオネラ属菌やセレウス菌にも気を付けて下さい。参考1)レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針/厚労省2)大屋日登美ほか.医療機関の給水設備におけるレジオネラ属菌の汚染実態.感染症誌.2018;92:678~685.

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輸血ドナーの性別、レシピエントの死亡率には影響せず/NEJM

 血液ドナーの特性が輸血レシピエントのアウトカムに影響を及ぼす可能性を示唆する観察研究のエビデンスが増えているという。カナダ・モントリオール大学のMichael Chasse氏らは「iTADS試験」において、女性の赤血球ドナーからの輸血を受けた患者と男性の赤血球ドナーからの輸血を受けた患者で、生存率に有意差はないことを示した。研究の詳細は、NEJM誌2023年4月13日号で報告された。カナダの二重盲検無作為化試験 iTADS試験は、カナダの3施設が参加した二重盲検無作為化試験であり、2018年9月~2020年12月の期間に患者の登録が行われた(カナダ保健研究機構の助成を受けた)。 赤血球輸血を受ける患者が、男性ドナーの赤血球を輸血する群、または女性ドナーの赤血球を輸血する群に無作為に割り付けられた。無作為化は、血液供給業者による過去の配分とマッチさせるため、60対40(男性ドナー群対女性ドナー群)の割合で行われた。 主要アウトカムは生存(無作為化の日から死亡または追跡期間終了の日まで)であり、男性ドナー群が参照群とされた。 8,719例が登録され、輸血前に男性ドナー群に5,190例が、女性ドナー群に3,529例が割り付けられた。ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は66.8±16.4歳、女性が50.7%であった。入院患者が79.9%、外来患者が11.3%、救急患者が6.9%であり、入院患者のうち外科治療が42.2%、集中治療が39.7%を占めた。MRSA感染リスクは女性ドナー群で高い ベースラインの輸血前ヘモグロビン値は79.5±19.7g/Lであった。女性ドナー群の患者は平均5.4±10.5単位の赤血球の投与を受け、男性ドナー群の患者は平均5.1±8.9単位の投与を受けた(群間差:0.3単位、95%信頼区間[CI]:-0.1~0.7)。 平均追跡期間11.2ヵ月の時点で、女性ドナー群の1,141例、男性ドナー群の1,712例が死亡した。生存率は女性ドナー群が58.0%、男性ドナー群が56.1%で、死亡の補正後ハザード比(HR)は0.98(95%CI:0.91~1.06)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.43[log-rank検定])。 30日、3ヵ月、6ヵ月、1年、2年時の生存率にも、両群間に有意差はみられなかった。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染の発生率は、男性ドナー群よりも女性ドナー群で高かった(HR:2.00、95%CI:1.15~3.46)。入院患者における平均入院日数は、女性ドナー群が21.0±26.6日、男性ドナー群は20.8±27.3日だった(群間差:0.2日、95%CI:-1.1~1.5)。 著者は、「サブグループ解析では、男性ドナー群の男性患者に比べ女性ドナー群の男性患者で死亡リスクが低く(HR:0.90、95%CI:0.81~0.99)、20~29.9歳のドナーから輸血を受けた患者においては男性ドナー群に比べ女性ドナー群の患者で死亡リスクが高かった(HR:2.93、95%CI:1.30~6.64)が、これらの知見は偶然によるものと考えられる」としている。

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多剤耐性抗結核治療薬を用いた薬剤感受性結核の治療期間短縮トライアル(解説:栗原宏氏)

Strong point 8週間(標準治療24週の1/3の治療期間)でも非劣性が示された標準治療と比較して死亡、治療失敗、有害事象に有意差なしWeak point リファンピシン感受性結核菌に対し多剤耐性抗結核薬を使用している高額な治療コスト日本国内ではベダキリン、リネゾリドは薬剤感受性結核には適応外 結核は、発展途上国を中心に年間約1千万人が発症、約160万人が死亡する疾患である。日本国内では減少傾向ではあるものの、2021年には約1.1万人が新規に登録され、約2千人が死亡している。 結核の治療は結核菌の耐性化予防が非常に重要であり、多剤併用、長期間投与が基本となる。一方、複雑な治療方法や長期間の治療は患者の服薬アドヒアランスの低下、ひいては治療失敗、耐性化の原因にもなり得る。このような背景の下、結核治療は治療期間の短縮が模索されてきた。 1950年代前半に登場した3剤併用レジメンが24ヵ月であった。新薬の開発とともにエビデンスが積み上げられ、1980年代に登場した現在行われている標準治療レジメンでは6ヵ月になった。最近ではrifapentineを用いたレジメンで4ヵ月に短縮できたという報告もある1)。現在も短縮は模索されており、本研究もその1つである。 本研究で使用された薬剤について簡単に解説する。rifapentine(本邦未発売):いくつかの調査から治療期間の短縮が期待されている1),2)。副作用として好中球減少、肝機能障害、C.ディフィシル腸炎が知られている。ベダキリン:本邦では2018年に承認された多剤耐性結核治療薬。耐性発現を防ぐため、適正使用が強く求められ、製造販売業者が行うRAP(Responsible Access Program)に登録された医師・薬剤師のいる登録医療機関・薬局において、登録患者に対して行うこととされている。副作用としてQT延長を来す。リネゾリド:本邦ではMRSA治療薬として使用されるが、世界的には多剤耐性結核の治療薬としても用いられており、今後国内でも認可される可能性がある。副作用として骨髄抑制が有名。 本研究での対象は多剤耐性結核菌ではなくリファンピシン感受性結核菌である点、多剤耐性結核菌に対するレジメンで使用される治療薬であるベダキリン、リネゾリドを用いている点に留意する必要があるが、治療期間が8週間と標準治療24週の1/3に短縮できる可能性が示された。治療終了後96週時点で標準治療と比較して、ベダキリン+リネゾリド レジメンでは死亡例、治療失敗例の数、有害事象ともに有意な差がなかった。 一方、先行研究で治療期間短縮が有望視されているrifapentineを用いたレジメンは調査に組み込まれていたが、プロトコルにより途中で登録が中止されており評価対象とならなかった。また、完遂したレジメンのうち、日本国内でも使用可能なリファンピシンを、高用量(体重によって異なるが大まかに標準レジメンの3倍)で用いたレジメンでは非劣性を示すことができなかった。 治療期間短縮は魅力的であるが、日本国内では現時点において、多剤耐性結核治療薬であるベダキリンおよび適応外使用となるリネゾリドを用いる本レジメンは薬剤感受性結核菌の治療に直ちに適用できるものではない。日本国内における多剤耐性結核の治療成功率は40~70%とされる。開発が容易ではない多剤耐性結核治療薬は非常に貴重であり、今後も使用適応は限定されると思われる。 参考までに、本レジメンでの治療コストは、ベダキリンとリネゾリドの主要薬剤2剤で約230万円となり、結核治療としてはかなり高額になる。

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黄色ブドウ球菌感染症にプロバイオティクスが有効な可能性

 プロバイオティクスサプリメントが、重度の薬剤耐性菌感染症を引き起こすことのある黄色ブドウ球菌の体内からの排除に役立つ可能性が、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のMichael Otto氏らの研究で示された。今後さらなる研究は必要だが、専門家らは、今回の研究結果は黄色ブドウ球菌の感染を予防する方法に結び付くかもしれないとの見方を示している。詳細は、「The Lancet Microbe」に1月13日発表された。 黄色ブドウ球菌は健康な人の体にも存在する常在菌で、特に鼻や皮膚に多く存在している。皮膚の感染症の原因菌となることの多い黄色ブドウ球菌だが、血流に入り込むと重度の致死性疾患を引き起こすこともある。特に懸念されるのが、数多くの抗菌薬に耐性を示し、「スーパー耐性菌」とも呼ばれるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)だ。そのため研究者らは、入院患者や透析患者などの高リスクの人たちに対しては、局所抗菌薬や消毒薬を用いて鼻や皮膚の黄色ブドウ球菌を死滅させようとしてきた。 しかしOtto氏によると、黄色ブドウ球菌の実際の「貯蔵庫」は腸であり、鼻や皮膚から黄色ブドウ球菌がいなくなっても、すぐさま腸から新たに黄色ブドウ球菌が補充されるため、このアプローチの効果は限定的であるという。この問題を解決するために、「経口抗菌薬を使用することはできない」と同氏は説明する。なぜなら、経口抗菌薬の使用は、生命に関わる身体機能の維持に寄与している腸内の善玉菌まで無差別に死滅させることにつながるからだ。こうしたことから、腸内に生息する黄色ブドウ球菌のみを標的にした感染予防のための方法が求められている。なお、Otto氏によると、理由は不明だが、黄色ブドウ球菌の永続的な「コロニー」を持っているのは、人口の3分の1程度だという。 Otto氏らは今回の研究で、土壌細菌である枯草菌(Bacillus subtilis)を利用した、これまでとは異なる方法を試した。枯草菌を選んだのは、糞便中にBacillus属細菌の存在が確認された人では、体のどこからも黄色ブドウ球菌が見つからなかったという興味深い研究結果が2018年に報告されていたことが理由の一つであるという。実際に同氏らは先行研究で、枯草菌の多くの菌株を含むほとんどの種類のBacillus属の細菌から、黄色ブドウ球菌が身体に定着するのを特異的に阻害する物質が分泌されていることを突き止めている。 Otto氏らは、鼻と糞便から採取された検体に基づき黄色ブドウ球菌の長期保有者と判定されたタイの健康な18歳以上の成人115人を、30日にわたって枯草菌のプロバイオティクスサプリメントを毎日摂取する群と、プラセボを摂取する群のいずれかにランダムに割り付けた。その結果、サプリメント摂取群では腸内の黄色ブドウ球菌が、糞便検体では平均で96.8%、鼻から採取した検体では65.4%減少したことが明らかになった。また、このプロバイオティクスサプリメントが腸内の正常な細菌叢に対して有害な影響を与えていることを示す兆候は確認されなかった。 今回の研究には関与していない感染症の専門家で、米国感染症学会(IDSA)のスポークスパーソンでもあるAaron Glatt氏は、Otto氏らの研究結果について「極めて興味深い」と話す。しかし、「このプロバイオティクスを長期間使用した場合の安全性と有効性とともに、実際に黄色ブドウ球菌の感染を予防するのか否かについて、今後さらなる研究が必要だ」と指摘している。

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死に至る薬剤耐性菌感染症、最も多い疾患と原因菌は/Lancet

 薬剤耐性(AMR)は、世界中で人々の健康を脅かす主要な原因となっている。これまでのAMR研究は、特定の地域における限られた病原体と薬剤の組み合わせについて、感染症の発生率や死亡数、入院期間、医療費に及ぼすAMRの影響の評価を行い、広範な地域や、病原体と薬剤の網羅的な組み合わせに関する包括的な検討は行われていないという。米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏らAntimicrobial Resistance Collaboratorsは、今回、AMR負担に関して現時点で最も包括的な検討を行い、2019年に世界で495万人が細菌のAMRに関連する感染症で死亡し、このうち127万人は薬剤耐性菌感染症が直接の原因で死亡したことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年1月18日号に掲載された。204の国と地域で、88件の病原体と薬剤の組み合わせを評価 研究グループは、2019年時点の204の国と地域における、23種の病原体および、88件の病原体と薬剤の組み合わせについて、細菌のAMRに起因する死亡と、これによる障害調整生存年数(DALY)などを推算した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの助成を受けた)。 データは、文献の系統的レビュー、病院やサーベイランスのシステム、その他の情報源から収集された。解析には4億7,100万件の患者記録や分離株が含まれ、調査地の数×年数は7,585であった。 予測統計モデルを用いて、データのない場所を含むすべての地域のAMR負担の推定値が算出された。AMR負担には、次の5つの一般的な要素が含まれた。(1)感染症に起因する死亡数、(2)特定の感染性症候群に起因する感染性の死亡の割合、(3)特定の病原体に起因する感染性症候群による死亡の割合、(4)対象となる抗菌薬に対する特定の病原体の耐性の割合、(5)この耐性に関連する死亡または感染期間の過剰リスク。 これらの要素を用いて、2つの反事実的シナリオ(AMR菌に起因する死亡、AMRに関連する死亡)に基づく疾病負担が推定された。世界全体および地域別の最終的な推定値とその95%不確実性区間(UI)が算出された。負担は下気道感染症、関連死は大腸菌、死亡はMRSAで多い 2019年、世界全体における細菌のAMRに関連する死亡数は495万件(95%UI:3.62~6.57)であり、このうちAMR菌に直接起因する死亡数は127万件(91万1,000~171万)と推定された。 地域別のAMR負担は、サハラ以南のアフリカ西部で最も高く、AMR関連の全年齢死亡割合は10万人当たり114.8件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり27.3件であった。これに対し、AMR負担が最も低かったのはオーストララシアで、AMR関連の死亡割合は10万人当たり28.0件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり6.5件だった。 また、2019年の世界全体のAMR負担は、主に3つの感染性症候群(下気道感染症/胸部感染症、血流感染症、腹腔内感染症)の割合が大きく、AMR菌に起因する死亡の78.8%をこれらが占めた。さらに、下気道感染症だけで、AMR関連死亡が150万件以上、AMR菌に起因する死亡は40万件以上に達し、最も負担の大きい感染性症候群だった。 世界全体のAMR関連死亡の最も多い原因となった病原体は大腸菌で、次いで黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、肺炎球菌、Acinetobacter baumannii、緑膿菌の順であった。これら6つの主要な病原体による2019年のAMR関連死亡は357万件(全495万件中)で、AMR菌に起因する死亡は92万9,000件(全127万件中)に達していた。 一方、2019年にAMR菌に起因する死亡数が10万件を超え、DALYが350万年以上であった病原体と薬剤の組み合わせは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(12万1,000件)だけであった。 また、AMR菌に起因する死亡数が5万~10万件の組み合わせは6つあり、死亡数が多い順に、超多剤耐性菌(XDR)を除く多剤耐性(MDR)結核菌(6万4,600件)、第3世代セファロスポリン耐性大腸菌(5万9,900件)、カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii(5万7,700件)、フルオロキノロン耐性大腸菌(5万6,000件)、カルバペネム耐性肺炎桿菌(5万5,700件)、第3世代セファロスポリン耐性肺炎桿菌(5万100件)であった。 著者は、「AMRは、世界各地で主要な死因であり、低医療資源環境では最大の負担となっている。AMR負担と、その原因となる病原菌と薬剤の組み合わせを理解することは、とくに感染予防や管理計画、必須抗菌薬の評価、新たなワクチンや抗菌薬の研究開発に関して、十分な情報を得たうえで地域ごとの施策を決定する際にきわめて重要である。低所得国の多くでは深刻なデータ不足があり、この重要な健康上の脅威に関する理解を深めるためには、微生物学研究所の能力とデータ収集システムの拡充が必要である」と指摘している。

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「ザイボックス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第71回

第71回 「ザイボックス」の名称の由来は?販売名ザイボックス注射液600mgザイボックス錠600mg一般名(和名[命名法])リネゾリド(JAN)効能又は効果○〈適応菌種〉本剤に感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)〈適応症〉敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肺炎○〈適応菌種〉本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム〈適応症〉各種感染症用法及び用量<ザイボックス注射液 600mg>通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。<ザイボックス錠 600mg>通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに経口投与する。通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに経口投与する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。警告内容とその理由警告本剤の耐性菌の発現を防ぐため、「5.効能又は効果に関連する注意」、「8.重要な基本的注意」 の項を熟読の上、適正使用に努めること。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年9月29日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年6月改訂(第17版)医薬品インタビューフォーム「ザイボックス®注射液600mg・ザイボックス®錠600mg」2)Pfizer for Professionals:製品情報

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「塩酸バンコマイシン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第51回

第51回 「塩酸バンコマイシン」の名称の由来は?販売名塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5g※塩酸バンコマイシン散はインタビューフォームが異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])バンコマイシン塩酸塩(JAN)[日局]効能又は効果1.<適応菌種>バンコマイシンに感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)<適応症>敗血症、感染性心内膜炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎、関節炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸、腹膜炎、化膿性髄膜炎2.<適応菌種>バンコマイシンに感性のメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)<適応症>敗血症、感染性心内膜炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎、関節炎、腹膜炎、化膿性髄膜炎3.<適応菌種>バンコマイシンに感性のペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)<適応症>敗血症、肺炎、化膿性髄膜炎4.MRSA 又は MRCNS 感染が疑われる発熱性好中球減少症用法及び用量通常、成人にはバンコマイシン塩酸塩として1日2g(力価)を1回0.5g(力価)6時間ごと又は1回1g(力価)12時間ごとに分割して、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。高齢者には、1回0.5g(力価)12時間ごと又は1回1g(力価)24時間ごとに、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。小児、乳児には、1日40mg(力価)/kgを2~4回に分割して、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。新生児には、1回投与量を10~15mg(力価)/kgとし、生後1週までの新生児に対しては12時間ごと、生後1ヵ月までの新生児に対しては8時間ごとに、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。警告内容とその理由本剤の耐性菌の発現を防ぐため、「効能・効果に関連する使用上の注意」、「用法・用量に 関連する使用上の注意」の項を熟読の上、適正使用に努めること。禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者【原則禁忌(次の患者には投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重に投与すること)】1.テイコプラニン、ペプチド系抗生物質又はアミノグリコシド系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者2.ペプチド系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、テイコプラニンによる難聴又はその他の難聴のある患者[難聴が発現又は増悪するおそれがある。]※本内容は2021年5月12日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年10月改訂(改訂第16版)医薬品インタビューフォーム「塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5g」2)シオノギ製薬:製品情報一覧

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グラム陰性菌血症への抗菌薬、個別vs.7日間vs.14日間/JAMA

 合併症のないグラム陰性菌血症の成人患者において、抗菌薬の投与期間をC反応性蛋白(CRP)に基づいて個別に設定した場合および7日間固定とした場合のいずれも、30日臨床的失敗率は14日間固定に対して非劣性であることが示された。スイス・ジュネーブ大学病院のElodie von Dach氏らが、スイスの3次医療機関3施設において実施した無作為化非劣性臨床試験の結果を報告した。抗菌薬の過度の使用は抗菌薬耐性を引き起こす。グラム陰性菌血症は一般的な感染症で、十分な抗菌薬使用を必要とするが、投与期間で有効性に差があるかは十分に解明されていなかった。JAMA誌2020年6月2日号掲載の報告。CRPによる個別設定投与、7日間投与、14日間投与の3群に無作為化 研究グループは、2017年4月~2019年5月にグラム陰性菌血症で入院した成人患者を登録し、2019年8月まで追跡した。適格基準は18歳以上、24時間以内の発熱および複雑性感染症(膿瘍など)または重度の免疫抑制の所見がなく、血液培養で発酵性グラム陰性細菌が検出され微生物学的に有効な抗菌薬が投与されている患者であった。 有効な抗菌薬が投与されて5日(±1日)目に、投与期間をCRPに基づき設定する群(CRPがピークから75%低下で中止)(以下、CRP群)、7日間固定群(7日群)、14日間固定群(14日群)に、1対1対1の割合で無作為化した。患者および医師は、無作為化から抗菌薬投与中止まで盲検化された。投与開始後30日、60日、90日時に電話で追跡調査を行った。 主要評価項目は、30日以内の臨床的失敗(菌血症の再発、局所の化膿性合併症、最初の菌血症と同じ菌種による遠隔部位の合併症、臨床的悪化によるグラム陰性菌に対する抗菌薬の再投与、全死因死亡のいずれか1つ以上)で、非劣性マージンは10%とした。副次評価項目は、90日以内の臨床的失敗などであった。30日以内の臨床的失敗、14日間投与に対し個別設定および7日間投与は非劣性 2,345例がスクリーニングされ、504例(年齢中央値79歳、四分位範囲:68~86歳)が無作為化された。このうち、493例(98%)が30日間、448例(89%)が90日間の追跡調査を完遂した。CRP群(170例)は、投与期間中央値が7日(四分位範囲:6~10、範囲:5~28)で、30日間の追跡調査を完遂した164例のうち34例(21%)はプロトコール違反(CRP低下前の退院など)があった。 主要評価項目である30日以内の臨床的失敗は、CRP群で164例中4例(2.4%)、7日群で166例中11例(6.6%)、14日群で163例中9例(5.5%)に確認された(CRP群vs.14日群の差:-3.1%[片側97.5%信頼区間[CI]:-∞~1.1、p<0.001]、7日群vs.14日群の差:1.1%[片側97.5%CI:-∞~6.3、p<0.001])。また、90日以内の臨床的失敗は、CRP群143例中10例(7.0%)、7日群151例中16例(10.6%)、14日群153例中16例(10.5%)であった。 なお、著者は、盲検化が無作為化から抗菌薬中止までに限られたことなどを研究の限界として挙げたうえで、「発生したイベントが少ないのに対して非劣性マージンが広く、CRP群でのアドヒアランスの低さや投与期間の幅広さなどから、結果の解釈には限界がある」とまとめている。

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MRSA菌血症におけるβラクタム薬の併用効果(解説:吉田敦氏)-1207

 MRSA菌血症では、限られた抗菌薬の選択肢を適切に使用しても、血液培養陰性化が達成できなかったり、いったん陰性化しても再発したり、あるいは播種性病変を来してしまう割合は高い。in vitroや動物実験の結果を背景とし、抗MRSA薬にβラクタム薬を追加すれば臨床的な効果が上乗せできるのではないかと長らく期待されてきたが、実際は培養結果判明までなど短期間併用されている例は相当数存在するものの、併用のメリット・デメリットが大規模試験で前向きに評価されたことはほとんどなかった。 本試験はオーストラリアで行われ、MRSA菌血症判明例を、βラクタム薬と抗MRSA薬の併用群と抗MRSA単独投与群にランダムに割り付けた。プライマリーエンドポイントは90日後の総死亡、5日目の持続菌血症、菌血症再発、14日目以降の無菌検体からのMRSA検出とし、さらにセカンダリーエンドポイントとして14、42、90日の総死亡、2日目と5日目の持続菌血症、急性腎障害(AKI)、微生物学的な再発・治療失敗、静注抗菌薬の投与期間を解析している。なおβラクタム薬の併用期間は7日間と定めた。 最終的に、用いられた抗MRSA薬のほとんど(99%)はバンコマイシンで、3日目の血中濃度のトラフは20μg/mL程度と十分上昇しており、残りはダプトマイシンの4%であった(重複があると思われる)。βラクタム薬はflucloxacillinないしクロキサシリンが主体で、セファゾリンは少数であった。MRSA菌血症の治療効果に関する指標では、2群間で有意な差はなく、βラクタム薬による上乗せ効果は証明できなかったが、併用群でAKI発症割合が高いことが判明し、この臨床試験は途中で打ち切りとなることが決定した。なお薬剤別のAKI発症割合は、flucloxacillinは28%、クロキサシリンは24%、セファゾリンは4%であった。 途中での打ち切りのために長期的な予後や、症例数を増やした2群間差のさらなる解析は難しくなったが、仮に上乗せ効果が多少ある結果となっても、併用によってAKI発生が増加したことを鑑みると、全体としてβラクタム薬の併用を支持することにはならないと思われる。なお本研究には、抗ブドウ球菌用ペニシリンのnafcillinは含まれていない。さらに本邦は状況が異なり、クロキサシリンはアンピシリンとの合剤として発売されているのみであり、flucloxacillinとnafcillinは利用できない。現実的にはセファゾリンのデータを参考にすることになるが、セファゾリンにはそもそも中枢神経への移行が乏しいという欠点があり、黄色ブドウ球菌菌血症で中枢神経病変が合併しやすい点から好ましいとは言い難い。一方でこれまでの前向きのランダム化試験では、症例数が少ないながらバンコマイシン・flucloxacillinの併用と、バンコマイシン単剤が比較され、併用群で菌血症持続期間が短かったという1)。しかしこの菌血症持続期間は本試験ではアウトカムとされず、再現性があるかは明確にされなかった。 このように本試験自体の限界もあるが、本試験のような大規模比較試験を組み、実行することは容易ではない。過去を含めても、少なくとも併用のメリットを支持する報告(臨床的な比較試験による)が少ないのは一致するところといえ、併用療法に相当のメリットがあることが示されなければ、今後も併用に関する積極的な支持は出にくいと考える。

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