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皮下膿瘍、切開排膿に抗菌薬併用が有効/NEJM

 5cm以下の単純性皮下膿瘍について、切開排膿単独と比較し、切開排膿にクリンダマイシンまたはトリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)を併用することで、短期アウトカムは改善することが示された。米国・シカゴ大学病院のRobert S. Daum氏らが、成人および小児外来患者を対象とした、多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験の結果を報告した。ただし著者は、「この治療のベネフィットとこれら抗菌薬の既知の副作用プロファイルを、比較検討する必要がある」とまとめている。合併症のない皮下膿瘍はよくみられるが、市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の時代における適切な治療は明らかになっていない。NEJM誌2017年6月29日号掲載の報告。クリンダマイシン vs. TMP-SMX vs.プラセボ、10日間投与の治癒率を評価 研究グループは2009年5月~2015年1月に、6施設にて直径5cm以下の単一の皮下膿瘍を有する成人および小児患者(ただし、6~11ヵ月児は3cm以下、1~8歳児は4cm以下)を登録した。外科的に排膿可能な膿瘍の存在、膿瘍の大きさ、皮膚感染部位の数、非化膿性蜂窩織炎の有無で患者を層別化し、膿瘍の切開排膿後に、ブロックランダム化法によりクリンダマイシン群、TMP-SMX群およびプラセボ群に1対1対1の割合で割り付け、試験薬を10日間投与した。 主要評価項目は、治療終了後7~10日時点での臨床的治癒とした。 登録された患者は計786例で、うち成人505例(64.2%)、小児281例(35.8%)であった。また、男性は448例(57.0%)であった。黄色ブドウ球菌(S. aureus)は527例(67.0%)から、MRSAは388例(49.4%)から分離された。治癒率は、プラセボ69%に対し、抗菌薬で82~83%に改善 治療後10日時点のintention-to-treat集団における治癒率は、クリンダマイシン群83.1%(221/266例)、TMP-SMX群81.7%(215/263例)で、実薬群は類似しており(p=0.73)、いずれもプラセボ群の68.9%(177/257例)より高率であった(両群ともp<0.001)。評価可能集団(試験薬を10日間服用し、治療終了後7~10日時点の評価を完遂した患者)における結果も同様であった。なお、この有益な効果は、黄色ブドウ球菌感染者に限定された。 治癒例における追跡1ヵ月後の新規感染率は、クリンダマイシン群(6.8%:15/221例)が、TMP-SMX群(13.5%:29/215例、p=0.03)またはプラセボ群(12.4%:22/177例、p=0.06)より低かった。 有害事象の発現率は、クリンダマイシン群(21.9%:58/265例)が、TMP-SMX群(11.1%:29/261例)およびプラセボ群(12.5%:32/255例)より高かった。主な有害事象は下痢と悪心で、クロストリジウム・ディフィシル関連下痢症は確認されなかった。重篤な有害事象を8例、過敏反応(発熱、発疹、血小板減少症、肝炎)をTMP-SMX群の1例で認めたが、すべての有害事象は後遺症なく消失した。

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蜂窩織炎の初期治療にMRSAカバーは必要か?(解説:小金丸 博 氏)-691

 蜂窩織炎の原因微生物を特定することは一般的に困難であるが、膿瘍形成のない蜂窩織炎の原因菌で最も多いのはA群溶連菌などのβ溶血性レンサ球菌と考えられている。そのため米国感染症学会(IDSA)のガイドラインでは、貫通性の外傷や注射薬物使用者などでない場合、レンサ球菌をターゲットに初期抗菌薬を選択することを推奨している。しかしながら、近年、市中感染型MRSAの増加が問題となっており、蜂窩織炎の初期治療でMRSAをカバーできる抗菌薬を使用すべきか議論になっていた。 本研究は、12歳以上を対象に、単純性蜂窩織炎に対するST合剤併用の有効性を検討した二重盲検ランダム化比較試験である。第一世代セフェム系抗菌薬であるセファレキシンに抗MRSA活性を有するST合剤を併用した群と、セファレキシンにプラセボを併用した群に分け、臨床的治癒率を比較した。すべての被験者で軟部組織エコーを実施し、膿瘍形成がある患者は除外された。Per-protocol集団における14~21日時点での臨床的治癒率は、セファレキシン+ST合剤投与群で83.5%、セファレキシン+プラセボ投与群で85.5%であり、両群間で有意差は認めなかった(群間差:-2.0%、95%信頼区間:-9.7~5.7、p=0.50)。 本研究では、治療開始時に38度以上の発熱を呈していた患者の割合は1%程度と低率であり、経口抗菌薬で外来加療できるレベルの軽症患者が対象となっている。全身状態がそれほど悪くなく、明らかな膿瘍形成がなさそうであれば、蜂窩織炎の初期治療における抗MRSA活性を有する抗菌薬の有用性は高くないと考える。これは、現在の本邦における実臨床の感覚とも一致するものである。 治療失敗例をみてみると、どちらの抗菌薬投与群でも経過中に膿瘍形成した例を多数認めており、抗MRSA活性を有する薬を選択したかどうかは大きな問題ではなさそうである。蜂窩織炎の治療経過が思わしくない場合は膿瘍合併を疑い、ドレナージなど適切な処置を施すことが重要である。 本研究は2009~12年にかけて米国の施設で実施されたものである。市中感染型MRSAの検出率が今後も増加するのであれば、抗菌薬の選択に影響を与えるのは間違いない。本邦の発生動向についても注視していく必要がある。

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伝染性膿痂疹(とびひ)

【皮膚疾患】伝染性膿痂疹(とびひ)◆病状体のあちこちに紅斑、痂皮(かさぶた)、水ぶくれなどが出て、周囲や遠くの部位に次々と拡大する皮膚疾患です。◆原因皮膚表面への細菌感染が原因で、水ぶくれをつくる黄色ブドウ球菌、かさぶたをつくる溶血性レンサ球菌とに分かれます。ほとんどが前者の方です。小児に多く発症します。湿疹や虫刺され、けがなどから始まることがあります。◆治療と予防・抗菌薬の内服と外用薬で治療します。搔きこわして広がっていくことが多いので、ステロイド外用薬を併用することもあります。・抗菌薬の効果をみるため、2~3日後にあらためて診察をします。・多くの薬剤に耐性をもつMRSAなどの菌がついていると治りにくいです。・皮膚を清潔にする、湿疹をきちんと治す、爪を短く切っておく、手をよく洗うなどして予防しましょう。監修:浅井皮膚科クリニック 院長Copyright © 2017 CareNet,Inc. All rights reserved.浅井 俊弥氏

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蜂窩織炎、ST合剤追加は必要か/JAMA

 単純性蜂窩織炎の抗菌薬治療では、セファレキシンにスルファメトキサゾール・トリメトプリム配合薬(ST合剤)を併用しても、臨床的治癒率は改善しないことが、米国・オリーブ・ビューUCLA医療センターのGregory J. Moran氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2017年5月23日号に掲載された。米国では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の出現に伴い、皮膚感染症による救急診療部への受診が増加しているという。排膿がみられない蜂窩織炎は、β溶血性レンサ球菌が主な病原菌と推定されるが、in vitroでMRSA活性を有する抗菌薬レジメンが、MRSA活性のない治療に比べ転帰の改善をもたらすかは不明とされる。ST合剤の上乗せ効果をプラセボ対照試験で評価 研究グループは、セファレキシン+ST合剤による治療が、セファレキシン単剤に比べ単純性蜂窩織炎の臨床的治癒率を改善するかを検討する多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施した(米国国立アレルギー感染病研究所[NIAID]の助成による)。 対象は、年齢12歳以上で、単純性蜂窩織炎(膿瘍、排膿、創傷を伴わない紅斑[erythema]がみられ、感染性の病因が確認されている)と診断された患者であった。登録時に軟部組織の超音波検査が行われ、膿瘍を有する患者は除外された。 被験者は、セファレキシン(500mg、1日4回)+ST合剤(1,600/320mg、1日2回)またはセファレキシン+プラセボを投与する群にランダムに割り付けられ、7日間の治療が行われた。 主要評価項目は、per-protocol(PP)集団における臨床的治癒率とした。臨床的治癒は、フォローアップの受診時に以下の臨床的治療不成功の判定基準を満たさない場合と定義した。(1)第3~4日:発熱(感染症に起因すると考えられる)または紅斑の増大(>25%)、腫脹、圧痛の増悪、(2)第8~10日:発熱または紅斑、腫脹、圧痛の軽減がみられない、(3)第14~21日:発熱または紅斑、腫脹、圧痛が最低限度を超える。95%信頼区間(CI)の下限値が10%を超える場合に、併用群に優越性ありと判定することとした。 2009年4月~2012年6月に、米国の5つの救急診療部に500例が登録され、496例(99%)が修正intention-to-treat(mITT)解析、411例(82.2%)がPP解析の対象となった。PP解析で有意差なし、mITT解析では良好な傾向 PP集団(併用群:218例、プラセボ群:193例)の年齢中央値は40歳(範囲:15~78)、男性が58.4%で、糖尿病が10.9%、MRSA感染の既往が3.9%、登録の前の週の発熱の既往が19.7%にみられた。紅斑の長さと幅の中央値は13.0cm、10.0cmだった。 PP解析では、併用群の臨床的治癒率は83.5%(182/218例)であり、プラセボ群の85.5%(165/193例)と比較して有意な差を認めなかった(群間差:-2.0%、95%CI:-9.7~5.7、p=0.50)。 mITT解析による臨床的治癒率は、併用群が76.2%(189/248例)、プラセボ群は69.0%(171/248例)と、やはり両群間に有意差はみられなかったが、95%CIの範囲内に臨床的に重要な最小限の差(10%)が含まれた(群間差:7.3%、95%CI:-1.0~15.5、p=0.07)。 有害事象および副次評価項目(1泊入院、皮膚感染症の再発、家族との接触による同様の感染症の発症など)にも有意な差はなかった。 著者は、「mITT解析の知見には、併用群の臨床的治癒率が良好な傾向を示す、臨床的に重要な差を含む不正確性がみられたため、さらなる研究を要する可能性がある」と指摘している。

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クランベリーカプセルは尿路感染症予防に有効か/JAMA

 介護施設に入所している高齢女性において、1年間にわたりクランベリーカプセルを投与したが、プラセボと比較して細菌尿+膿尿の件数に有意差は認められなかった。米国・エール大学医学大学院のManisha Juthani-Mehta氏らが、クランベリーカプセル内服の細菌尿+膿尿に対する有効性を評価する目的で行った無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果、報告した。細菌尿+膿尿は介護施設の高齢女性に多く、クランベリーカプセルはこうした尿路感染症(UTI)に対する非抗菌的な予防法として知られているが、その根拠には議論の余地があった。JAMA誌2016年11月8日号掲載の報告。185例に1年間投与、細菌尿+膿尿の頻度をプラセボと比較 研究グループは、2012年8月24日~2015年10月26日に、コネチカット州ニューヘイブンの50マイル(80km)圏内にある介護施設21施設において、長期入所中の65歳以上の女性185例(ベースライン時での細菌尿+膿尿の有無は問わない)を、治療群とプラセボ群に無作為割り付けし比較した。 治療群(92例)は、1カプセル当たり活性成分プロアントシアニジン36mgを含むクランベリーカプセル2個(合計72mg、クランベリージュース20オンスに相当)を、プラセボ群(93例)はプラセボ2個を1日1回内服した。 主要評価項目は、細菌尿(1~2種類の微生物が尿培養で105コロニー形成単位[CFU]/mL以上)+膿尿(尿中白血球陽性)とし、2ヵ月ごとに1年間評価した。副次評価項目は、症候性UTI、全死因死亡数、総入院数、多剤耐性菌(MRSA、VRE、多剤耐性グラム陰性桿菌)の分離数、UTI疑いに対する抗菌薬使用、すべての抗菌薬使用とした。 無作為化された185例(平均年齢86.4歳[SD 8.2]、白人90.3%、ベースラインで細菌尿+膿尿あり31.4%)のうち、147例が試験を完遂し、服薬アドヒアランスは80.1%であった。細菌尿+膿尿の頻度は両群で有意差を認めず 未調整前の解析において、計6回の尿検査で得られた全検体における細菌尿+膿尿の割合は、治療群25.5%(95%信頼区間[CI]:18.6~33.9)、プラセボ群29.5%(同:22.2~37.9)であった。一般化推定方式モデルによる補正後の解析では、両群間に有意差は認められなかった(それぞれ29.1% vs.29.0%、オッズ比[OR]:1.01、95%CI:0.61~1.66、p=0.98)。 症候性UTI発症数(治療群10件 vs.プラセボ群12件)、死亡率(それぞれ17例 vs.16例、100人年当たり20.4例 vs.19.1例、死亡率比[RR]:1.07、95%CI:0.54~2.12)、入院数(33件 vs.50件、100人年当たり39.7件 vs.59.6件、RR:0.67、95%CI:0.32~1.40)、多剤耐性グラム陰性桿菌関連細菌尿(9件 vs.24件、100人年当たり10.8件 vs.28.6件、RR:0.38、95%CI:0.10~1.46)、UTI疑いに対する抗菌薬使用(抗菌薬使用日数692 vs.909日、8.3 vs.10.8日/人年、RR:0.77、95%CI:0.44~1.33)、およびすべての抗菌薬使用(抗菌薬使用日数1,415 vs.1,883日、17.0 vs.22.4日/人年、RR:0.76、95%CI:0.46~1.25)で、有意差は確認されなかった。 著者は研究の限界として、試験登録時の細菌尿+膿尿の有無を制限していなかったことなどを挙げている。

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q36

Q36 成人の化膿性椎体炎の治療期間はどれくらいが適切ですか? 一般的には6週間が目安ですが、ドレナージ不良の膿瘍がある場合やMRSAが原因の場合、末期腎不全がある場合では延長を考慮します。 2015年に成人の化膿性椎体炎の治療期間について、ランドマーク的なランダム化比較試験(RCT)がBernard氏らによって発表されました1)。オープンラベル、非劣性RCTですが、6週間治療は12週間治療にプライマリーアウトカム、セカンダリーアウトカムすべて非劣性という結果でした(プライマリーアウトカム、セカンダリーアウトカムの詳細は論文本文を参照してください)。これを受けて2015年の米国感染症学会の化膿性椎体炎のガイドラインでは治療期間の推奨は軒並み6週間になっています(ブルセラによるものを除く)2)。ただ、6週間では不安が残るケースも実際には経験します。一律に6週間でいいのだろうか? という目でみると、Bernard氏らの報告では黄色ブドウ球菌のうちMRSAは145例中8例のみでした。フランスで行われた多施設研究ですが、MRSAの多い地域で同じ結果になるだろうか? という疑問が残ります。実際、Bernard氏らの研究でも黄色ブドウ球菌が原因菌であることは治療失敗のリスク因子として同定されています(論文のAppendix参照)。2016年に発表された韓国の多施設過去起点コホート研究によると、314症例中31例で再発があり、椎体炎再発のリスクは以下の3つでした3)。末期腎不全(ESRD)(調整オッズ比:6.58、95%CI:1.63~26.54、p=0.008)MRSA感染症(調整オッズ比:2.61、95%CI:1.16~5.87、p=0.02)ドレナージしていない傍脊柱膿瘍/腸腰筋膿瘍(調整オッズ比:4.09、95%CI: 1.82~9.19、p=0.001)これら3つをリスク因子にしてリスク因子すべてなし→低リスク3つのリスク因子のうちどれか1つあり→高リスクと分けた場合、高リスク群では6~8週間の治療でも約3割の再発があったということで、高リスク群では8週間以上治療したほうがよいかもしれません。私自身の経験では、末期腎不全があるだけで治療期間を延長しようと思うことはありませんでしたが、MRSAによるものやドレナージしていない膿瘍がある場合は、6週間では治療不十分になることがあり、結果的に延長していることが多かったので、実感としてしっくりくる研究結果だと思いました。また、Bernard氏らの研究ではフルオロキノロンをベースにして治療していることが多く(約半数)、その他の薬剤で同じことがいえるのかという疑問が残ります。静注期間の中央値が14日間というのもフルオロキノロンが多く使われているためだと思います。貧乏性なせいか、フルオロキノロン以外を使える状況でフルオロキノロンを使うのはもったいないお化けが出てきそうで若干の抵抗はありますが、早めに内服に変更して点滴を外すことができるのは大きなメリットだと思います。Bernard氏らの研究でもう1つ興味深い点は、6週間治療群、12週間治療群ともに1年後も腰痛を訴えた人が30%いたということです。椎体炎治療の指標として腰痛は大切なパラメーターの1つですが、治療自体はうまくいっていそうなのに、腰痛が残る人は一定数います。痛みだけを理由に抗菌薬投与を延ばすときりがなくなることがあります。画像的に悪化がなく、血液検査での炎症反応が落ち着いていれば6~8週間(高リスクの場合は適宜延長を考慮)で抗菌薬を終了し、腰痛が残るようであれば慢性疼痛として管理をするのがよさそうです。 1)Bernard L, et al. Lancet. 2015;385:875-882.2)Berbari EF, et al. Clin Infect Dis. 2015;61:e26-46.3)Park KH, et al. Clin Infect Dis. 2016;62:1262-1269.

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長期介護施設でのMRSA感染を減らす新規プログラム

 薬剤耐性菌は長期介護施設(LTCF)における課題である。米国・シカゴ大学のLance R Peterson氏らは、日常生活動作や社交を妨げない新規の低侵襲的なプログラムで、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)疾患を減らせるかどうかを、前向きクラスター無作為化非盲検試験で検討した。その結果、ターゲットを絞った除菌を伴う現地でのMRSAサーベイランスにより、LTCF居住者における臨床的MRSA感染を有意に減少させた。American journal of infection control誌オンライン版2016年8月1日号に掲載。 著者らは、LTCF 3施設において、1年目に、介護の種類によってユニットを層別化し、介入もしくはコントロールに無作為に割り付けた。2年目にはすべてのユニットで、介入期間の開始時に2回の鼻腔内ムピロシン塗布およびクロルヘキシジン浴(1ヵ月間隔で除菌-浴を2サイクル)で全例除菌する介入に変更した。続いて、初回の除菌後、現地ですべての入所者をリアルタイムPCRでスクリーニングし、MRSA陽性者を除菌したが、隔離はしなかった。ユニットでは毎年、手指衛生について教育を行った。漂白剤による平坦面の拭き取り掃除を4ヵ月ごとに実施した。 主な結果は以下のとおり。・1万6,773件の検査が実施された。・MRSA感染率は、ベースライン(36万5,809患者・日で44件の感染)に比べて、2年目で65%減少し(28万7,847患者・日で12件の感染、p<0.001)、各々のLTCFで有意な減少が認められた(p<0.03)。

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感染症コンサルタント岸田が教える どこまでやるの!? 感染対策

第1回 感染対策総論 第2回 多剤耐性菌って何? 第3回 感染対策の基本はMRSA 第4回 どうする?多剤耐性菌の感染対策 第5回 最も大変!インフルエンザの感染対策 第6回 感染力が強いノロウイルス 第7回 命にかかわる!カテーテル関連血流感染症 第8回 入院中の患者が下痢!クロストリジウム ディフィシル感染症 第9回 ワクチン接種が自分自身と患者を守る 感染対策の理想を言うことは簡単です。でも、実際の医療の現場において、理想的な対策をとることは非常に困難です。また、どんなに感染対策を講じても、感染を“ゼロ”にすることはできません。感染が起こったときに問われることは「どこまでの対策をやったか」ということ。アウトブレイクを防ぐためにも、また、医療訴訟に負けないためにも、理想論ではなく、置かれている医療機関の現状を踏まえ、実際にやるべき感染対策について、感染症コンサルタント岸田が明確にお教えします。第1回 感染対策総論 感染対策の理想をいうことは簡単です。でも、実際の現場において、理想的な対策をとることはできません。そのなかで、置かれている医療機関の現状を踏まえ、本当に何をどこまでやれば良いのか。そのGOALは意外に明確です。第2回 多剤耐性菌って何? MRSAはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌すなわちメチシリンに耐性であるということが明確ですが、多剤耐性緑膿菌、多剤耐性アシネトバクターなどの多剤耐性菌の“多剤”とはどのようなを示すのかご存知ですか?複数の抗菌薬に耐性があることなのでしょうか?これからさまざまな微生物の感染対策に進む前に、定義を確認しおきましょう。対策のためにもちろんですが、「国や自治体への報告の義務」にも関わってくるので、しっかりとして理解が必要です。第3回 感染対策の基本はMRSA なんといっても感染対策の基本はMRSAです。最近ではMRSAに関する報道もなく、MRSAに慣れっこになっていませんか?でも実は日本の医療機関で検出される黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合はなんと50%!まだまだ高いのが現状です。そのMRSAを抑えることができれば、院内感染を“ゼロ”に近づけていくことも可能です。MRSAの感染対策について理想論を語るのではなく、理想と現実のギャップを理解した上で、実際にどうすべきかをお教えします。MRSAを制するものは感染対策を制する!第4回 どうする?多剤耐性菌の感染対策 感染対策の一番の基本である、MRSAの次の微生物といえば多剤耐性緑膿菌(MDRP)です。多剤(薬剤)耐性緑膿菌の定義は覚えていますか?IMP (イミペネム)、AMK (アミカシン)、CPFX (シプロフロキサシン) の3剤に耐性を持つ緑膿菌です。でも、こうなってしまうと、治療の選択肢がなくなってしまうのです。そうなる前に手をうつことが重要です。そうなる前とはどういったことか?そして何をすればいいのか?臨床現場でやるべきことについて詳しく解説します。もちろん緑膿菌だけでなくアシネトバクター、セラチアなどの多剤(薬剤)耐性菌の感染対策についても見ていきます。第5回 最も大変!インフルエンザの感染対策 インフルエンザの感染対策について見ていきましょう。感染対策を考える上で重要なことは、感染経路と感染性のある期間についてキチンと知っておくことです。また対策は、患者さんだけではありません。医療者が発症した場合についても考えておく必要があります。どこで線を引くのか、現実的な対策について、一緒に考えていきましょう。第6回 感染力が強いノロウイルス ノロウイルスは10~100個程度の少量のウイルスで感染が成立、僅かな糞便や吐物から空気を介して経口感染するなど、非常に感染力が強いウイルスです。しかも、手指衛生の基本であるアルコールも無効で感染対策は一筋縄ではいきません。その為、医療者も病院も、そして一般の人たちもノロウイルスの感染対策は重要だと思っているかと思います。でも、ノロウイルスだけが重要なのでしょうか。冬季下痢症の原因はノロウイルスだけではありません。ロタウイルスやアデノウイルスなどさまざまです。それぞれのウイルスに対しての対策を講じるのか?感染症コンサルタントがお答えします。第7回 命にかかわる!カテーテル関連血流感染症 医療関連感染症の中でも、急激な経過をたどることが多い重篤な感染症 カテーテル関連血流感染症(CRBSI:catheter-related bloodstream infection)についてみていきます。CRBSIを疑うと、カテーテルを抜去しないといけないのでしょうか?CRBSIの診断に重要なことは何なのか!予防のためにできることは?そして予防するための特効薬は?実例やエビデンス、そしてコンサルタント岸田の経験を提示しながら、詳しく解説します。第8回 入院中の患者が下痢!クロストリジウム ディフィシル感染症 今回のテーマはクロストリジウム・ディフィシル感染症です。クロストリジウム・ディフィシル(CD)の感染対策については、診断・治療などの臨床の側面を押さえておくことが重要です。入院中の患者さんが突然下痢に!さあ、あなたならどう対応しますか?抗菌薬が入っている、それならばCDIだと、治療と感染対策を進めますか?抗菌薬が入っているからCDIだろうと疑ってかかるのは大きな間違いです!どのように診断をすすめ。治療はどうするか?そして感染対策は?感染症コンサルタントが事例を提示しながら詳しくお教えします。第9回 ワクチン接種が自分自身と患者を守る 受けていますか?ワクチン接種。既に御存知の通り、ワクチン接種は、病気からあなた自身を守ります。もちろん患者さんにもワクチン接種を進めましょう。ですが、医療者として忘れてはならないのは、あなた自身の接種が患者さんを守るということです。医療者がワクチンを接種していないことで起こった実際の事例を取り上げ、やるべき対策とそれを実現するための道筋をお教えします。

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脳卒中後の予防的抗菌薬投与、肺炎を抑制せず/Lancet

 脳卒中ユニットで治療中の嚥下障害がある脳卒中後患者について、予防的抗菌薬投与を行っても肺炎発症は抑制されず、同治療は推奨できないとする見解を、英国・キングス・カレッジ・ロンドンのLalit Kalra氏らがクラスター無作為化試験の結果、報告した。脳卒中後肺炎は、死亡の増大および機能的アウトカムの不良と関連している。研究グループは、予防的抗菌薬の有効性を調べるため今回の検討を行ったが、アルゴリズムに基づく発症率の補正後オッズ比は1.21であるなど、肺炎の発症に有意な差は認められなかったという。Lancet誌オンライン版2015年9月3日号掲載の報告。7日間の抗菌薬投与+通常ケア vs.通常ケアで検討 検討は、英国内48の脳卒中ユニットで、UK National Stroke Auditに認定・包含された18歳以上の新規脳卒中後嚥下障害患者を募って実施された。試験は、前向き非盲検、エンドポイントを盲検化して行われた。対象者について、抗菌薬投与が禁忌、嚥下障害が発症前に既往または感染症が認められる、もしくは14日間の生存が見込めない患者は除外した。 被験者は発症48時間以内にユニット単位で、7日間の抗菌薬投与+通常ケアを行う群、または通常ケアのみを行う(対照)群に、コンピュータで無作為に割り付けられた。割り付けは、入院件数の層別化および専門的ケアを評価するため最小化にて行われた。また、被験者、評価および解析スタッフは、割り付けユニットについて知らされなかった。 主要アウトカムは、当初14日間における脳卒中後肺炎の発生で、intention-to-treat集団にて、階層的アルゴリズムと医師の診断の両者の診断基準に基づく評価を行った。また、安全性についてもintention-to-treat解析を行った。アルゴリズム定義および医師の診断に基づく発生率とも、両群間で有意差みられず 2008年4月21日~2014年5月17日に、48ヵ所の脳卒中ユニット(患者は全ユニット総計1,224例)を2つの治療群(各群24ヵ所)に無作為に割り付けた。無作為化後14日間を待たずに、11ユニットと患者7例が試験中止となった。intention-to-treat解析には残る37ユニット1,217例の患者が組み込まれた(抗菌薬群615例、対照群602例)。 結果、予防的抗菌薬投与は、アルゴリズム定義の脳卒中後肺炎の発生に影響を及ぼさなかった。発生率は、抗菌薬群13%(71/564例) vs.対照群10%(52/524例)で、周辺補正後オッズ比(OR)1.21(95%信頼区間[CI]:0.71~2.08、p=0.489)、クラス内相関係数(ICC)0.06(95%CI:0.02~0.17)であった。なお、アルゴリズム定義の脳卒中後肺炎は、データ損失のため129例(10%)の患者について確認できなかった。 医師の診断に基づく脳卒中後肺炎の発生状況についても、両群間の差は認められなかった。同発生率は、16%(101/615例) vs.15%(91/602例)で、補正後OR:1.01(95%CI:0.61~1.68、p=0.957)、ICC:0.08(95%CI:0.03~0.21)であった。 有害事象は、感染症とは無関係の脳卒中後肺炎(主に尿路感染症)の頻度が最も高かったが、同発生頻度は抗菌薬群のほうが有意に低率であった(4%[22/615例] vs.7%[45/602例]、OR:0.55[95%CI:0.32~0.92]、p=0.02)。 クロストリジウム・ディフィシル感染症の発生は、抗菌薬群2例(1%未満)、対照群4例(1%未満)であった。また、MRSAコロニー形成の発生は、抗菌薬群11例(2%)、対照群14例(2%)であった。

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病院での手指衛生を向上させる介入とは? ―システマティックレビューとネットワークメタアナリシスによる解析―(解説:吉田 敦 氏)-400

 医療関連感染を少なくする最も有効な手段は、スタッフの手指衛生を向上させることである。しかしながら、それが遵守されていない病院は多い。WHOは2005年に、病院での手指衛生の向上を目的とした一連のキャンペーン「Clean Care is Safer Care 清潔なケアがより安全なケア」(WHO-5)を開始した1)。これは以下の5点、(1)組織変革、(2)トレーニング/教育、(3)評価とフィードバック、(4)作業場でのリマインダー、(5)組織的な安全風土、を骨子とし、それらを組み合わせたものである。今回、WHO-5が実際の手指衛生行動を変容させたかについて、システマティックレビューとメタアナリシスによる解析が行われ、BMJ誌に発表された。スタディ抽出とレビュー 1980年から2009年の間に、Medline、Embaseなどの文献ソースに蓄積されたスタディの中から、病院医療従事者の手指衛生のコンプライアンス向上に関する介入が行われ、かつ、一定の質的評価がなされたものを解析した。この中にはランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、介入前後の比較試験、時系列解析が含まれる。さらに、介入と医療従事者に関して偏りなく均一であると考えられる報告の中で、手指衛生のコンプライアンスが直接観察できたものについてネットワークメタアナリシスを行った。さらなる介入により、行動変容が大きく 検索した3,639スタディのうち、41が解析対象としての基準を満足した(ランダム化比較試験6、時系列解析32、非ランダム化比較試験1、介入前後の比較試験2)。2つのランダム化比較試験を用いたメタアナリシスでは、WHO-5に「手指衛生に関するゴール設定」を加えると、コンプライアンスが向上することが判明した。同時に時系列解析を一対比較したところ、22個の比較解析のうち18解析で、介入後にコンプライアンスが向上したという結果を得た。 一方、ネットワークメタアナリシスでは、WHO-5の効果そのものには不確実な部分が存在するものの、「手指衛生に関するゴール設定」「報酬・インセンティブ」「アカウンタビリティ(個人・組織レベルでの責任)」を加えると、より向上が認められた。また19スタディでは臨床的な結果が得られていたが、手指衛生の向上後に感染率が減少したものの、それは微生物によって差があった(例:MRSAでは減少率が大きく、C. difficileはそれに比べ小さかった)。なお、介入にかかったコストは1,000ベッド・日当たり225ドルから4,669ドルであった。有効な介入とは?その評価は? 今回の解析では、WHO-5自体は手指衛生の向上に有効であったものの、実際上ゴール設定など、ほかの方策を組み合わせることが望ましい結果であった。この意味では、複合的かつ合目的な、そして個人の前向きな問題意識・責任感・行動変容を引き出すような戦略が求められているといえよう。一方で、介入の効果の評価にあたっては、必要なデータはまだまだ不足している。今後の蓄積と介入によって、新たな方向性が見えてくる可能性は十分ある。参考文献はこちら1)World Health Organization. WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care. In WHO Guidelines Approved by the Guidelines Review Committee. 2009. 新潟県立六日町病院から邦訳刊行あり。「世界保健機関 医療における手指衛生ガイドライン:要約 最初の世界的患者安全の挑戦 清潔なケアがより安全なケア」

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蜂窩織炎・膿瘍への抗菌薬 治癒率に違いはある? クリンダマイシンvs.トリメトプリム・スルファメトキサゾール

 蜂窩織炎および膿瘍において、クリンダマイシンまたはトリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)を10日間投与したところ、治癒率や副作用プロファイルは同程度であったことが、米国・カリフォルニア大学のLoren G. Miller氏らにより報告された。NEJM誌2015年3月19日号の掲載報告。 皮膚および軟部組織感染症は、外来診療では一般的であるものの、市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する抗生物質レジメンの効果は十分に明らかにされていなかった。 Miller氏らは、蜂窩織炎、5cm以上の膿瘍(小児ではより小さい径も含む)のいずれか、または両方を有する合併症のない単純性皮膚感染症の外来患者を4施設で登録した。すべての膿瘍は切開排膿を行った。 被験者らはクリンダマイシン群またはTMP-SMX群に無作為に1:1で割り付けられ、10日間投与された。被験者と医師にレジメンの割付および微生物学的検査結果は知らされず、二重盲検下で実施された。 主要評価項目は治療終了から7~10日後の臨床的治癒であった。 主な結果は以下のとおり。・合計524例の被験者が登録され、そのうち155例(29.6%)が小児であった。・264例がクリンダマイシン群、260例がTMP-SMX群に登録された。・160例(30.5%)が膿瘍単独、280例(53.4%)が蜂窩織炎単独、82例(15.6%)が膿瘍と蜂窩織炎の両方を罹患していた。・黄色ブドウ球菌は217例(41.4%)の被験者の病変部から分離され、そのうち167例(77.0%)の分離株がMRSAであった。・intention-to-treat 集団における治癒率は、両群で同程度であった(クリンダマイシン群80.3%、TMP-SMX群77.7%、差:-2.6%ポイント、95%信頼区間:-10.2~4.9、p=0.52)。・評価可能であった466例における治癒率も、両群で同程度であった(クリンダマイシン群89.5%、TMP-SMX群88.2%、差:-1.2%ポイント、95%信頼区間:-7.6~5.1、p=0.77)。・サブグループ(小児、成人、膿瘍または蜂窩織炎単独の患者)における治癒率も、両群で同程度であった。・両群でみられた副作用プロファイルに有意な差はみられなかった。

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q8

Q8 周術期の予防的抗菌薬について教えてください。 術創と離れた場所から耐性菌が検出されている患者、たとえば膀胱留置カテーテルからMRSAが分離されているが尿路感染ではなく、頸部の手術を予定しているような場合に、予防的抗菌薬はセファゾリン以外の抗MRSA薬を選択すべきでしょうか? 強い推奨ではありませんが、ガイドラインではバンコマイシンの使用を検討すべきとされています1)。 尿培養からMRSAが検出されている場合、MRSAの定着が尿だけに限局していると考えるのはいささか楽観的すぎるかもしれません。他の部位にも定着している可能性を考えておく必要があります。ただし、このような場合にバンコマイシンの予防投与を行って手術部位感染症(SSI)が本当に減るのかは微妙なところです。 最近のメタ分析によると、グリコペプチド系抗菌薬(バンコマイシン、テイコプラニン)による周術期予防投与はβラクタム薬と比べてSSI全体の発生頻度はほとんど変わりませんでした2)。しかし、耐性ブドウ球菌や腸球菌によるSSIのリスクは、それぞれリスク比0.52(95%信頼区間0.29~0.93)、0.36(95%信頼区間0.16~0.80)とグリコペプチド系のほうが低かったという結果でした2)。逆に、術後の呼吸器感染症はグリコペプチド系のほうが多かった(リスク比1.54、95%信頼区間1.19~2.01)という結果です2)。バンコマイシンはMSSAに対する活性はβラクタム系よりも劣ることと、セファゾリンと比べてグラム陰性桿菌に対する活性がないことにより、効果が相殺されてしまったのではないかと考えられます2)。このため、施設によってはバンコマイシンを使用するときもセファゾリンを併用するところがあるようです1)。また、バンコマイシンを使用する場合にも、その手術部位に応じて推奨されている抗菌薬は併用したほうがよいだろう(たとえば腸管の手術であれば、グラム陰性桿菌や嫌気性菌をカバーするような抗菌薬)とされています1)。ただし、バンコマイシンを併用することが併用しないことよりも全体としてよい結果をもたらすかどうかについてのデータは乏しいので、筆者の場合は相談されたときに個別に判断するようにしています。 参考文献 1) Bratzler DW, et al. Am J Health Syst Pharm. 2013; 70: 195-283. 2) Saleh A, et al. Ann Surg. 2015; 261: 72-80.

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在宅で診る肺炎診療の実際

■在宅高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎在宅高齢者の発熱の原因として最も多いのは肺炎である1)。在宅医療を受けている患者の多くは嚥下障害を起こしやすい、脳血管性障害、中枢性変性疾患、認知症を患っており、寝たきり状態の患者や経管栄養を行っている患者も含まれていて、肺炎のほとんどは誤嚥性肺炎である。日本呼吸器学会は2005年に「成人市中肺炎診療ガイドライン(改訂版)」を、2008年には「成人院内肺炎診療ガイドライン」を作成したが、在宅高齢者の肺炎診療に適するものではなかった。その後、2011年に「医療介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン」が作成された。NHCAPの定義と発症機序は表1 2)および表2 2)に示されるように、在宅療養患者が該当しており、その特徴は市中肺炎と院内肺炎の中間に位置し、その本質は高齢者における誤嚥性肺炎を中心とした予後不良肺炎と、高度医療の結果生じた耐性菌性肺炎の混在したもの、としている。本稿では、NHCAPガイドライン(以下「ガイドライン」と略す)に沿って、実際に在宅医療の現場で行っている肺炎診療を紹介していく。表1 NHCAP の定義1.長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している(精神病床も含む)2.90日以内に病院を退院した3.介護を必要とする高齢者、身障者4.通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬などによる治療)を受けている・介護の基準PS3: 限られた自分の身の回りのことしかできない、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす、以上を目安とする表2 NHCAP の主な発症機序1.誤嚥性肺炎2.インフルエンザ後の2次性細菌性肺炎3.透析などの血管内治療による耐性菌性肺炎(MRSA肺炎など)4.免疫抑制薬や抗がん剤による治療中に発症した日和見感染症としての肺炎を受けている■在宅での肺炎診断在宅患者の診察では、平素より経皮的酸素飽和度(SpO2)を測定しておき、発熱時には変化がないかを必ず確認する。高齢者は、咳や痰などの一般的症状に乏しいが、多くの場合で発熱を伴う。しかし、発熱を伴わない場合もあるので注意する。聴診所見では、必ずしも特異的な所見がなく、脱水を伴っている場合はcoarse crackleは聴取しにくくなる。血液検査では、発症直後でも上昇しやすい白血球数を参考にするが、数が正常でも左方移動がみられれば有意と考える。CRPは、発症直後には上昇しにくいので、発症当日のCRP 値で重症度を評価することはできない。必要に応じてX線ポータブル検査を依頼する。■NHCAPにおける原因菌ガイドラインによると原因菌として表3 2)が考えられている。表3 NHCAP における原因菌●耐性菌のリスクがない場合肺炎球菌MSSAグラム陰性腸内細菌(クレブシエラ属、大腸菌など)インフルエンザ菌口腔内レンサ球菌非定型病原体(とくにクラミドフィラ属)●耐性菌のリスクがある場合(上記の菌種に加え、下記の菌を考慮する)緑膿菌MRSAアシネトバクター属ESBL産生腸内細菌ガイドラインでは、在宅療養している高齢者や寝たきりの患者では、喀出痰の採取は困難であり、また口腔内常在菌や気道内定着菌が混入するため、起因菌同定の意義は低く、診断や治療の相対的な判断材料として用い、抗菌薬の選択にはエンピリック治療を優先すべきである、とされている。実際の現場では、喀出痰が採取できる患者は肺炎が疑われた場合、抗菌薬を開始する前にグラム染色と好気性培養検査を依頼し、初期のエンピリック治療に反応が不十分な場合、その結果を参考に抗菌薬の変更を考慮している。■ガイドラインで示された治療区分とはガイドラインでは、市中肺炎診療ガイドラインで示しているような重症度基準(A-DROP分類)では、予後との関連がはっきりしなかったため、治療区分という考え方が導入された。この治療区分(図1)2)に沿って抗菌薬が推奨されている(図2)2)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するここでのポイントは、耐性菌のリスクの有無(90日以内の抗菌薬の投与、経管栄養があり、MRSAが分離された既往歴)が、問われていることである。■在宅患者における肺炎の重症度判断PSI(pneumonia severity index)は、患者を年齢、既往歴、身体所見・検査所見の異常など20因子による総得点により、最も正確に肺炎の重症度判定ができる尺度として有名である。そこで筆者の診療所では在宅診療対象患者のみを対象に、血液検査・画像所見の結果がなくても肺炎の重症度を推定できる方法はないかを検討した。身体所見や患者背景から得られた総得点をPSI for home-care based patients(PSI-HC)と名付け、この得点を基に患者を分類したところ、血液検査や画像所見がなくても予後を反映するものであった3)。当院ではそれを基に「発熱フェイスシート」を作成し、重症度の把握と家族への説明に利用している(図3)。なお、図中の死亡率は1年間における97人の肺炎患者をレトロスペクティブにみた値であり、今後さらなる検討が必要な参考値である。画像を拡大する■在宅における肺炎治療の実際実際の現場では、治療区分で入院が必要とされるB群でも、連日の抗菌薬投与ができるようであれば在宅での治療も可能である。先述したように、喀出痰が採取できない症例が多いため、在宅高齢者の肺炎の起因菌についての大規模なデータはないが、グラム陰性菌、嫌気性菌が主な起因菌であるといわれている。グラム陰性菌に抗菌力が強く、ブドウ球菌や肺炎球菌などのグラム陽性菌や一部の嫌気性菌を広くカバーする、ニューセフェムやレスピラトリーキノロンを第1選択としている。●経口投与の場合:レボフロキサシン(商品名:クラビット[LVFX])、モキシフロキサシン(同:アベロックス[MFLX])LVFXは1日1回500mgを標準投与量・法とする。腎排泄型の抗菌薬であり、糸球体濾過量(GFR)に応じて減量する。MFLXは主に肝代謝排泄型の抗菌薬であり、腎機能にかかわらず、1日1回400mgを標準投与量とする。●静脈投与の場合:セフトリアキソン(同:ロセフィン[CTRX])血中半減期が7~8時間と最も長いので1日1回投与でも十分な効果を発揮し、胆汁排泄型であることからGFRの低下を認める高齢者にも安心して使用できる。CTRXは緑膿菌に対して抗菌力がほとんどなく、ブドウ球菌、嫌気性菌などにも強い抗菌力はないといわれており、ガイドライン上でも誤嚥性肺炎には不適と記載されているが、筆者らは誤嚥性肺炎を含む、肺炎初期治療としてほとんどの患者に使用し、十分な効果を認めている。また、過去90日以内に抗菌薬の使用がある場合にも、同様に効果を認めている。3日間投与して解熱傾向を認めないときには、耐性菌や緑膿菌を考慮した抗菌薬に変更する。嫌気性菌をカバーする目的で、クリンダマイシン内服の併用やブドウ球菌や嫌気性菌に、より効果の強いニューキノロン内服を併用することもある。■入院適用はどのような場合か在宅では、病院と比較すると正確な診断は困難である。しかし、全身状態が保たれ、介護する家族など条件に恵まれれば、在宅で治療可能な場合が多い。筆者らは、先述した在宅患者の肺炎の重症度(PSI-HC)を利用して重症度の把握、家族への説明を行ったうえで、患者や家族の意思を尊重し、入院治療にするか在宅治療にするかを決定している。在宅高齢者が入院という環境変化により、肺炎は治癒したけれども、認知機能の悪化やADL低下などを経験している場合も少なくない。過去にそのような体験がある場合には、在宅でできる最大限の治療を行ってほしいと所望されることが多い。ただ、医療的には、高度の低酸素血症、意識低下や血圧低下を伴う重症肺炎や、エンピリック治療で正しく選択された抗菌薬を使い、3日~1週間近く治療を行っても改善傾向が明らかでない場合に入院を検討している。また、介護面では重症度にかかわらず、介護量が増えて家族や介護者が対応できない場合にも入院を考慮している。■肺炎予防と再発対策誤嚥性肺炎の治療および予防として表42)が挙げられる。表4 NHCAP における誤嚥性肺炎の治療方針1)抗菌薬治療(口腔内常在菌、嫌気菌に有効な薬剤を優先する)2)PPV 接種は可能であれば実施(重症化を防ぐためにインフルエンザワクチンの接種が望ましい)3)口腔ケアを行う4)摂食・嚥下リハビリテーションを行う5)嚥下機能を改善させる薬物療法を考慮(ACE阻害薬、シロスタゾール、など)6)意識レベルを高める努力(鎮静薬、睡眠薬の減量、中止、など)7)嚥下困難を生ずる薬剤の減量、中止8)栄養状態の改善を図る(ただし、PEG〔胃ろう〕自体に肺炎予防のエビデンスはない)9)就寝時の体位は頭位(上半身)の軽度挙上が望ましいガイドラインではNHCAPの主な発症機序として誤嚥性肺炎のほか、インフルエンザと関連する2次性細菌性肺炎の重要性が提案されており、わが国でも高齢者施設におけるインフルエンザワクチン、そして肺炎球菌ワクチンの効果がはっきり示されたこともあり、両ワクチンの接種が勧められる4)。日々の生活の中では、口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションは重要であり、歯科医師・歯科衛生士や言語聴覚士との連携で、より質の高いケアを提供することができる。●文献1)Yokobayashi K,et al. BMJ Open. 2014 Jul 9;4(7):e004998.2)日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会. 医療・介護関連肺炎診療ガイドライン. 2011.3)Ishibashi F, et al. Geriatr Gerontol Int. 2014 Mar 12 . [Epub ahead of print].4)Maruyama T,et al. BMJ. 2010 Mar 8;340:c1004.●関連リンク日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q3

Q3整形外科医です。術後感染疑いの患者で高熱が3日間続いたため、創部を洗浄して検体採取したところ、グラム陽性球菌が少量検出されました。感染症専門医にコンサルトしてバンコマイシンを開始しています。このような場合、見切り発車でバンコマイシンというのはスタンダードな方法なのでしょうか? 整形外科医の頭では、セフェム系などを投与して、培養でMRSAが出たらバンコマイシンに切り替えるという方法が浮かんでしまいますが、それは間違いでしょうか?患者さんの重症度によると思います。抗菌薬を選択する際には、「どこの臓器」に「どのような微生物」が感染を起こしているのかを考えます。今回は、術後創部感染症(surgical site infection: SSI)について考えます。SSIは深さによってさらに表層切開創SSI、深部切開創SSI、臓器/体腔SSIに分類されます1)。整形外科手術後であれば、SSIの原因菌で頻度の高いものは、黄色ブドウ球菌やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(表皮ブドウ球菌が代表的)です。SSIに対してバンコマイシンを使用するのは、MRSAだけでなくコアグラーゼ陰性ブドウ球菌も考えてのことです。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌はβラクタム剤に耐性をもっていることが多いため、エンピリック治療としてはバンコマイシンが推奨されます。院内で検出される細菌のアンチバイオグラムにもよりますが、SSIという診断が正しそうで、病変部位からグラム陽性球菌が検出されているとなれば、バンコマイシンで治療を開始するのが理にかなっていると思います。そして、検出された細菌がβラクタム剤に感受性を有していることが確認できた後に変更します。これをde-escalation(ディ・エスカレーション)と呼びます。ただし、表層のSSIのみで、患者の状態が軽症で、適切にドレナージもされていて、仮に最初に使用した抗菌薬が外れていたとしても、後からやり直しが効きそうだという条件がそろっていれば、セファゾリンなどのβラクタム剤で開始することは完全な間違いとも言えないと思います。何が「スタンダード」かは、患者さんの状態によっても変わってくると思います。参考文献1)Anderson DJ. Infect Dis Clin North Am. 2011; 25: 135-153.

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バンコのMIC上昇、死亡リスクと関連せず/JAMA

 黄色ブドウ球菌(S aureus)血流感染(SAB)患者では、バンコマイシン(VCM)の最小発育阻止濃度(MIC)の高値例と低値例で死亡リスクに差はないことが、米国・ネブラスカ大学医療センターのAndre C. Kalil氏らの検討で示された。50歳以上の黄色ブドウ球菌感染患者に対しVCMは第一選択の治療薬とされるが、近年、VCMのMICが上昇傾向にあることが複数の研究で明らかにされている(MIC creepと呼ばれる)。また、3件のメタ解析では、VCMのMIC上昇は不良な転帰と関連する可能性が示唆されているが、死亡との関連や、MIC高値の場合はVCMを回避すべきかなどの問いへの解答は明確ではないという。JAMA誌2014年10月15日号掲載の報告。MIC高値と死亡の関連をメタ解析で評価 研究グループは、SAB患者におけるVCMのMIC上昇と死亡との関連を評価するために、系統的なレビューとメタ解析を実施した。2名の研究者が別個に、2014年4月までに5つの医学データベースに登録された文献を検索し、関連論文を選出した。 全体の解析ではVCM MICのカットオフ値を1.5mg/L(μg/mL)に設定し、≧1.5μg/mLを高MIC群、<1.5μg/mLを低MIC群とした。試験の質はNewcastle-Ottawaスケールで評価し、8~9点を最上質と定義した。主要評価項目は全死因死亡とし、ランダム効果モデルを用いて全データを統合した。 前向き試験8件および後ろ向き試験30件(日本の2試験を含む)の合計38試験に登録された8,291件のSABエピソードが解析の対象となった。全体の全死因死亡率は26.1%であった。死亡リスクの上昇、必ずしも排除できないが… SAB患者の推定死亡率は、高MIC群(2,740例)が26.8%、低MIC群(5,551例)は25.8%であり、両群間に差を認めなかった(補正リスク差[RD]:1.6%、95%信頼区間[CI]:-2.3~5.6%、p=0.43)。 最上質の試験(22件、6,486例)における推定死亡率は、高MIC群(2,318例)が26.2%、低MIC群(4,168例)は27.8%であり、やはり両群で同等であった(RD:0.9%、95%CI:-2.9~4.6%、p=0.65)。 メチシリン耐性菌(MRSA)感染に限定した解析(7,232例)でも、推定死亡率は高MIC群(2,384例)が27.6%、低MIC群(4,848例)は27.4%と差はみられなかった(RD:1.6%、95%CI:-2.3~5.5%、p=0.41)。 全死因死亡のサブグループ解析では、試験デザイン(前向き、後ろ向き、症例対照、症例集積)、薬剤感受性試験(微量液体希釈法、Etest)、MICのカットオフ値(1.5、2.0、4.0、8.0μg/mL)、臨床転帰(院内死亡、30日死亡)、菌血症の罹患期間、過去6ヵ月のVCM投与量、VCM治療歴の有無のいずれにおいても、高MIC群と低MIC群の間に差はみられなかった。 研究グループは、これらの知見の実臨床および公衆の保健上の意義として、(1)米国の臨床検査標準協会(CLSI)のVCM MICの標準値を低く設定する必要はほとんどない、(2)MICが1~2μg/mLの場合は通常、その差に意味はない、(3)MICの上昇がみられるが感受性の範囲内にある場合は、他の抗菌薬への変更は不要と思われる、を挙げている。 著者は、「本試験の結果は、MIC高値例における死亡リスクの上昇を明確に排除するものではないが、VCMの感受性の解釈や、MICが上昇するも感受性がある場合の薬剤変更の決定の際に考慮すべきである」と指摘している。

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日本の血液由来MRSAの感受性動向

 北里大学の花木 秀明氏らは、2008年1月~2011年5月の3年間にわたり、全国の病院から集めた血液由来のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)830株について薬剤感受性調査を実施した。その結果、血液由来のMRSAにバンコマイシン軽度耐性黄色ブドウ球菌(VISA)が蔓延していること、バンコマイシンへテロ耐性黄色ブドウ球菌(hVISA)とβラクタム薬誘導性バンコマイシン耐性MRSA(BIVR)の2つの表現型を示す株の割合が高いことが認められた。Journal of infection and chemotherapy誌オンライン版2014年7月22日号に掲載。 薬剤感受性は、CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute:臨床検査標準協会)の推奨基準により判定した。 主な結果は以下のとおり。・MRSA株の99%以上が、テイコプラニン、リネゾリド、スルファメトキサゾール/トリメトプリム、バンコマイシンに対して感受性を示し、97%以上がダプトマイシン、アルベカシンおよびリファンピシンに感受性を示した。・MRSA株の大部分が、ミノサイクリン、メロペネム、イミペネム、クリンダマイシン、シプロフロキサシン、セフォキシチン、オキサシリンに耐性を示した(それぞれの耐性率:56.6%、72.9%、73.7%、78.7%、89.0%、99.5%、99.9%)。・MRSA株のうち72株はバンコマイシンに対する感受性が低下していた。このなかには、8株(0.96%)のVISA、54株(6.51%)のhVISA、55株(5.63%)のBIVRが含まれる。・54株のhVISAと55株のBIVRのうち、45株(それぞれ、83.3%、81.8%)がhVISAとBIVR両方の表現型を示した。

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帝王切開術後のMRSA感染症で重度後遺障害が残存したケース

産科・婦人科最終判決平成15年10月7日 東京地方裁判所 判決概要妊娠26週、双胎および頸管無力症、高位破水と診断されて大学病院産婦人科へ入院となった25歳女性。感染兆候がみられたため抗菌薬の投与下に、妊娠28週で帝王切開施行。術後39℃以上の発熱があり抗菌薬を変更したが、術後5日目に容態が急変し、集中治療室へ搬送し気管内挿管を行った。羊水の培養検査でMRSA(+)のためアルベカシン(商品名:ハベカシン)を開始したものの、術後6日目に心肺停止、MRSA感染症による多臓器不全と診断された。バンコマイシン®投与を含む集中治療によって全身状態は改善したが、低酸素脳症から寝たきり状態となった。詳細な経過患者情報25歳女性、2回目の妊娠、某大学病院産婦人科に通院経過平成8年6月19日妊娠26週検診で双胎および頸管無力症と診断され同日入院となる。高位破水、子宮収縮がみられ、CRP上昇、白血球増加などの所見から子宮内細菌感染を疑う。6月20日羊水移行性の高い抗菌薬セフォタキシム(同:セフォタックス)を開始。6月28日頸管無力症で子宮口が開大したため、シロッカー頸管縫縮術施行。6月30日感染徴候の悪化を認め、原因菌を同定しないままセフォタックス®をイミペネム・シラスタチン(同:チエナム)に変更(帝王切開が行われた7月12日まで)。7月1日子宮口からカテーテルを挿入して羊水を採取し細菌培養検査を行うが、このときはMRSA(-)。7月10日体温36.5℃、脈拍84回/分、白血球12,300、CRP 0.3以下膣内に貯留していた羊水を含む分泌物を細菌培養検査へ提出。7月11日(木)脈拍102回/分、CRP 0.9。7月12日(金)緊急帝王切開手術施行。検査室では7月10日に提出した検体の細菌分離、純培養を終了。白血球10,800、脈拍96回/分、CRP 0.7、体温37.3~38.3℃。術後にチエナム®からアスポキシシリン(同:ドイル)に変更(7月12日~7月15日まで)。第3世代セフェム系抗菌薬であるセフォタックス®やチエナム®などかなり強い抗菌薬の使用をやめて、ドイル®を使用し感染状態の変化を見きわめることを目的とした。7月13日(土)病院休診日(検査室は当直体制)。脈拍80回/分、体温36.5~37.6℃、顔面紅潮あり。7月14日(日)検査室では菌の同定・感受性検査施行。前日には部分的であった発疹が全身へ拡大、白血球20,600、CRP 24.1へと急上昇。BUN 24.8mg/dL、Cr 1.3mg/dLと腎機能の軽度低下。発疹および発熱は抗菌薬によるアレルギーを疑い、ドイル®を中止してホスホマイシン(同:ホスミシン)、チエナム®、セフジニル(同:セフゾン)に変更。血液培養では陰性。このときは普通に話ができる状態であった。7月15日(月)検査室では夕刻の段階でMRSAを確認し感受性テストも終了。白血球24,000、CRP 24、血小板73,000、DICを疑いガベキサートメシル(同:エフオーワイ)投与開始。夜の段階で羊水の細菌培養検査結果が病棟に届くが、担当医には知らされなかった。7月17日(水)白血球34,600、CRP 30.4、血圧80/40mmHg、体温37.7~37.9℃、朝から換気不全、意識レベルの低下などがみられARDSと診断し、気管内挿管などを行いつつICUに入室。この直前に羊水細菌培養検査でMRSA(+)を知り、ARDSはMRSAによる感染症(敗血症)に伴うものと考え、パニペネム・ベタミプロン(同:カルベニン)、免疫グロブリン、MRSAに対しハベカシン®を投与。AST、ALT、LDH、アミラーゼ、BUN、Crなどの上昇が認められMOFと診断。7月18日03:00突然心停止となり、ただちに心肺蘇生を開始して心拍は再開した。ところが低酸素脳症による昏睡状態へと陥る。白血球31,700、CRP 1509:30ハベカシン®に代えてバンコマイシン®の投与を開始。8月5日腹部CTでダグラス窩に膿瘍形成。8月6日切開排膿ドレナージを施行。その後感染症状は軽快。8月23日MRSAは完全に消滅。平成9年1月18日症状固定:言葉を発することはなく、意思の疎通はできず、排便・排尿はオムツ管理で、常時要介護の状態となる。当事者の主張患者側(原告)の主張7月14日に39℃に近い高熱と悪寒、脈拍も86回/分、全身に細菌感染徴候がみられたので、遅くとも7月15日(月)には羊水の細菌培養検査を問い合わせるか、急がせる義務があり、遅くとも7月16日(火)正午までには感受性判定の結果が得られ、その段階から抗MRSA薬バンコマイシン®を早期に適量投与することができたはずである。ところがバンコマイシン®の投与を開始したのは7月18日午前9:30と2日も遅れた。もっとも早くて7月14日、遅くて7月16日夕刻までにMRSA感染症治療としてバンコマイシン®の投与を開始していれば、7月18日の心停止を回避できた可能性は十二分にある。病院側(被告)の主張出産の2週間前から破水した長期破水例のため、感染症のことは当然念頭にあり、毎日CRP、白血球数を検査し、帝王切開手術後も引き続き感染症を念頭において対応していた。しかし、急激に容態が悪くなったのは7月16日の夜からである。患者側は7月10日に採取した羊水の細菌培養検査結果の報告を急がせるべきであったと主張するが、7月16日午後6:30の呼吸苦出現までは感染症はそれほど重症ではなく、検査結果を急がせるような状況にはない。細菌培養の検体提出後、菌の同定、感受性の試験まで行うには5日間は要するが、本件では7月13日、7月14日と土日の当直体制であったため、結果的に報告まで7日かかったことはやむを得ない。担当医は7月16日夜に病棟に届いていた羊水の細菌培養検査結果MRSA(+)を、翌7月17日朝に知ったが、その時点でうっ血性心不全、意識低下と病態急変し、ICU(集中治療室)への収容、気管内挿管、人工換気などに忙殺された。そして、同日午後5:00に抗MRSA薬ハベカシン®を投与し、さらに翌18日からはバンコマイシン®を投与した。したがって、MRSAに対する薬剤投与が遅れたということはない。MRSAを知ってからハベカシン®を投与するまでの約6時間は緊迫した全身状態への対応に追われていた。仮に羊水培養検査結果の報告が届いた7月16日夜にハベカシン®またはバンコマイシン®を投与したとしても、すでにDIC、ARDSがみられ、MOFが進行している病態の下で、薬効の発現に2日ないし4日を要するとされていることを考えると、その後の病態を改善できたかは不明で心停止を回避することはできなかった。裁判所の判断被告病院における細菌培養の検査体制について羊水を分離培養するために要した時間は48時間。自動細菌検査システムVITEK® SYSTEMによれば、MRSA(グラム陽性菌=GpC)の同定に要する時間は4~18時間、感受性試験に要する時間は3~10時間、検査の結果が判明するのに通常要する期間は5日程度であった。被告病院では検査結果が判明したら、検査伝票が検査部にある各科のボックスに入れられ、各科の看護補助員が随時回収し、各科の病棟事務員に渡し、病棟事務員から各担当医師に渡されるという方法がとられている。院内感染対策委員会において策定したMRSA院内感染予防対策マニュアルによれば、MRSA陽性の患者が発生した場合、検査部は主治医へ連絡する、主治医および婦長は関係する職員に情報を伝達するものとされていた。ARDS、DIC、MOFに陥った原因、時期について7月14日(日)には39.8℃、翌7月15日(月)にも39℃の発熱、脈拍数120回/分とSIRSの基準4項目のうち2項目以上を満たし、白血球20,600、CRP 24.1などの所見から、7月15日午前9:00の段階でSIRS、セプシス(敗血症)の状態にあった。原因菌として、7月10日に採取した羊水の細菌培養検査、7月12日の帝王切開手術当日に採取された咽頭、便、胎脂からもMRSAが検出されていること、入院後から帝王切開手術までの間、スペクトラムが広く、抗菌力の強い抗菌薬チエナム®やセフォタックス®が継続使用され、菌交代現象が生じる可能性があったこと、抗菌薬ドイル®、チエナム®が無効であったことなどから、セプシスの原因菌はMRSAである。MRSA感染症治療としてバンコマイシン®をどの時点で投与する義務があったか細菌培養に提出された羊水の検体は、7月10日(水)に採取され、7月12日(金)の午後には分離培養は完了、7月15日(月)に細菌同定、感受性検査を開始、7月16日夕刻にはその結果を報告し合計7日間を要した。細菌検査の結果が判明するのに通常の5日ではなく7日も要したのは、被告病院において土曜・日曜が休診日であったという、人の生命・身体に関する医療とはまったく次元を異にする偶然的な事情によるものであった。一方術後患者は、ショック症状やMOFを経て死亡する場合もあり、早期治療を開始すればするほど治療効果は高くなり、通常の黄色ブドウ球菌感染の治療中に抗菌薬が効かなくなってきた場合は、MRSAと診断される前でも有効な抗菌薬に変更する必要がある。被告病院は高度医療の推進を標榜し、これを期待される医科系総合大学の附属病院であり、病院としてMRSA感染症対策を行っていた。仮に菌の同定を7月13日の作業開始時間である午前9:00から開始したとしても、遅くとも、細菌の同定その後の感受性の判定結果を、その28時間後の7月14日(日)午後1:00には培養検査結果を終了させておく義務があった。その結果、各科の看護補助員が出勤しているはずの7月15日(月)午前9:00頃には細菌培養検査結果の伝票を看護補助員が回収し各科の病棟事務員に渡され、担当医は遅くとも7月15日(月)午前中にはMRSA感染症を知り得たはずである。そして、MRSA感染症治療として被告病院が投与すべきであった抗菌薬は、各種感受性検査からバンコマイシン®であったので、遅くとも7月15日午後7:00頃にはバンコマイシン®を投与する義務があった。ところが、被告病院が実際にバンコマイシン®を投与したのは7月18日午前9:30であり大幅に遅れた。重症敗血症の時点でバンコマイシン®を投与した場合と敗血症性ショックを生じた後にバンコマイシン®を投与した場合について比較すると、重症敗血症の場合の死亡率は約10~20%にとどまるのに対し、敗血症性ショックの場合のそれは約46~60%と、その死亡率は高い。7月15日午後7:00頃の時点では、MRSAを原因菌とするセプシスあるいはそれに引き続いて敗血症に陥っているにとどまっている段階であり、まだ敗血症性ショックには至っていなかったので、遅くとも7月15日午後7:00頃バンコマイシン®を投与していれば、ARDSやDICを発症し、MOF状態となり、心停止により低酸素脳症に陥るという結果を回避することができた高度の蓋然性が認められる。原告側1億5,752万円(プラス死亡するまで1日介護料17,000円)の請求に対し、1億389万円(プラス死亡するまで1日介護料15,000円)の判決考察この判決は、われわれ医師にとってはきわめて不条理な内容であり、まさに唖然とする思いです。病態の進行が急激で治療が後手後手とはなりましたが、あとから振り返っても診療上の明らかな過失はみいだせないと思います。にもかかわらず、結果が悪かったというだけで、すべての責任を医師に押しつけたこの裁判官は、まるで時代のヒーローとでも思っているのでしょうか。この患者さんは出産の2週間前から破水した長期破水例であり、当然のことながら担当医師は感染症に対して慎重に対応し、初期から強力な抗菌薬を使用しました。にもかかわらず敗血症性ショックとなり、低酸素脳症から寝たきり状態となってしまったのは、大変残念ではあります。しかし、経過中にきちんと血液検査、細菌培養を行い、はっきりとした細菌は同定されなかったものの、さまざまな抗菌薬を投与するなど、その都度、そのときに考えられる最良の対応を行っていたことがわかります。けっして怠慢であったとか、大事な所見を見落としていたわけではありません。もう一度振り返ると、平成8年6月19日妊娠26週、高位破水。6月20日セフォタックス®開始。6月30日セフォタックス®をチエナム®に変更。7月1日羊水培養、MRSA(-)7月10日羊水培養提出。7月12日緊急帝王切開、チエナム®をドイル®に変更。7月13日休診日(検査室は当直体制)。7月14日休診日(検査室は当直体制)。 裁判所は検体提出の5日後、日曜日の13:00には感受性検査が終了できたであろうと認定。7月15日検査室で菌の同定・感受性検査施行。 抗菌薬のアレルギーを考えてドイル®を中止、ホスミシン®、チエナム®、セフゾン®に変更。 裁判所は7月15日の朝にはMRSA(+)がわかりバンコマイシン®投与可能と認定。7月16日夜にMRSA(+)の結果が病棟に届く。7月17日容態急変で集中治療室へ。羊水細菌培養検査でMRSA(+)を知り夕方からハベカシン®開始。7月18日ハベカシン®に代えてバンコマイシン®の投与を開始。われわれ医療従事者であれば、細菌培養にはある程度時間がかかることを知っていますから、結果が出次第、担当医師に連絡するように依頼はしても、培養の作業時間を短縮させたり、土日まで担当者を呼び出して感受性検査を急ぐことなどしないと思います。ましてや、土日の当直検査技師は緊急を要する血液検査、尿検査、髄液検査、輸血のクロスマッチなどに追われ、しかもすべての検査技師が培養検査に習熟しているわけでもありません。ここに裁判官の大きな誤解があり、培養検査というのを細菌感染症に対する万能かつ唯一無二の手段と考えて、土日であろうとも培養結果を出すため対応すべきものと勝手に思いこみ、「細菌検査の結果が判明するのに通常の5日ではなく7日も要したのは、被告病院において土曜・日曜が休診日であったという、人の生命・身体に関する医療とはまったく次元を異にする偶然的な事情によるものでけしからん」という判決文を書きました。たしかに、培養検査は治療上きわめて重要であるのはいうまでもありませんが、抗菌薬使用下では細菌が生えてこないことも多く、原因菌不明のまま抗菌薬を投与することもしばしばあります。ここで裁判官はさらに無謀なことを判決文に書いています。「術後患者は、ショック症状やMOFを経て死亡する場合もあり、早期治療を開始すればするほど治療効果は高くなり、通常の黄色ブドウ球菌感染の治療中に抗菌薬が効かなくなってきた場合は、MRSAと診断される前でも有効な抗菌薬に変更する必要がある!」と明言しています。この意味するところは、通常の抗菌薬を使っても発熱が続く患者には予防的にMRSAに効く抗菌薬を使え、ということでしょうか?今回の症例はMRSAが判明するまでは、細菌感染が疑われるものの発熱原因が特定されない、いわば「不明熱」であって、けっして「通常の黄色ブドウ球菌感染の治療中」ではありませんでした。そのため担当医師は抗菌薬(ドイル®)によるアレルギーも考えて抗菌薬を別のものに変更しています。このような不明熱のケースに、予防的にバンコマイシン®を投与しなければならないというのは、結果を知ったあとだからこそいえる行き過ぎの考え方だと思います。ところが「公平な判断を下す」はずの裁判官たちは、ほかにも多数の裁判事例を抱えて多忙らしく、誤解や勉強不足による間違った判決文を書いても、あとから非難を受ける立場には置かれません。そのため、結果責任は医師に押しつければよいという、「一歩踏み込んだ判断」を自負する傾向が非常に強くなっていると思います。残念ながら、このような由々しき風潮を改善するのは非常に難しく、われわれにできることは自己防衛的な対策を講じることくらいでしょう。今回のように、土日をはさんだ細菌培養検査にはどうしても結果が出るまでに時間がかかります。この点はやむを得ないのですが、被告病院の感染症対策マニュアルにも書いてあるとおり、「MRSA(+)の患者が発生した場合、検査部は主治医へ連絡する、主治医および婦長は関係する職員に情報を伝達する」という原則を常に遵守することが大事だと思います。本件では、7月16日夕刻の段階でMRSA(+)が判明しましたが、検査部から担当医師へダイレクトな連絡はありませんでした。通常のルートに乗って、7月16日夜には検査結果を記した伝票が病棟まで届きましたが、その結果を担当医師が確認したのは翌朝11:00頃であり、12時間以上のロスがあったことになります。このような院内体制については改善の余地がありますので、スタッフ同士の院内コミュニケーションを十分にはかることがいかに重要であるか、改めて痛感させられるケースです。産科・婦人科

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MRSA陽性の皮膚・軟部組織感染症患者、4分の1がMSSAに移行

 皮膚・軟部組織感染症(SSTI)でかつメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)陽性患者のうち、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に移行する患者が顕著な頻度で存在することが、米国・オレゴン健康科学大学のAnisha B. Patel氏らによる外来・入院該当患者の後ろ向き調査研究の結果、明らかになった。215例のうち25.6%がMSSAに移行していたという。JAMA Dermatology誌2013年10月号の掲載報告。 外来でのMRSA感染患者の増加は、MRSAに対する経験的抗菌薬治療のさらなる増加をもたらしているが、有効な経口抗菌薬は限られていること、またさらなる耐性菌への懸念から、同治療傾向については議論の的となっている。 そこで研究グループは、MRSA SSTI患者のMSSAへの移行率を調べることを目的とし、同大学病院およびクリニックの入院・外来患者の医療記録を後ろ向きにレビューした。 2000年1月1日~2010年12月31日の間に、MRSA陽性SSTIであったが、その後1ヵ月以降に黄色ブドウ球菌の SSTIが培養で証明されていた患者のデータを対象とした。社会人口統計学的制限は設けなかった。本調査は最低200例を被験者とすることを条件とした。 主要評価項目は、SSTI患者がMRSA陽性のままであったかMSSAに移行したかどうかであった。 主な結果は以下のとおり。・データベースを遡って1,681例の患者の医療記録をレビューした。そのうち215例が試験基準を満たした。・215例のうち64例(29.8%)が、少なくとも1回はMSSAに移行していた。移行後の試験期間中MSSAであった患者は55例(25.6%)であった。・MSSAへの移行を増減する因子についても調べた結果、侵襲的処置ありが唯一、MRSA陽性のままとする、統計的に有意なリスク因子であった(相対リスク:1.20、95%CI:1.02~1.41、p=0.03)。・以上から、MRSA SSTI患者は、その後MSSA SSTIに顕著な頻度で移行する能力を有していることが示された。・MRSAリスク因子に関するさらなる検討と、それらリスク因子のその後の感染への影響が、経験的治療を行う際に役立つ可能性がある。・MRSA陽性であった患者において新たな感染を認めた場合は、黄色ブドウ球菌は変化するということを認識しながらの治療戦略を慎重に行う必要がある。

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ICUの耐性菌感染率、手袋とガウン常用を義務づけても低下せず/JAMA

 ICUにおいて、患者と接する際には常に手袋とガウンを着用することを義務づけても、処置や手術時に着用する通常ケアの場合と比べて、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の感染率について有意な差は認められなかったことが、米国・メリーランド大学のAnthony D. Harris氏らによる無作為化試験の結果、報告された。これまでICUでのユニバーサルな対応が耐性菌の感染を抑制するかどうかは不明であったという。JAMA誌2013年10月16日号掲載の報告より。通常ケアとユニバーサルな着用義務づけ介入とを多施設で比較検討 試験は、ICUにおいて、全患者に対して手袋とガウンの着用を義務づける介入が、通常ケアと比較してMRSAやVREの感染を抑制するかを評価することを目的とした。2012年1月4日~2012年10月4日の間、全米20病院のICUにて行われたクラスター無作為化試験であった。 介入群では、医療従事者は全員、ICUに入室する際に、接触する患者を問わず手袋とガウンを着用することが要求された。 主要アウトカムは、MRSAまたはVREの感染率で、入院時およびICU退出時のサーベイランス培養に基づいて評価した。副次アウトカムとして、VRE、MRSAそれぞれの感染率、医療従事者が入室した回数、手指消毒コンプライアンス、医療従事者が関連した感染、有害イベントなども評価した。MRSA感染率単独では減少みられたが、限定的な結果とみるべき 試験期間中の患者2万6,180例から、主要アウトカムの解析に9万2,241件のスワブが集まった。 介入群の感染率は、ベースライン時1,000患者・日当たり21.35(95%信頼区間[CI]:17.57~25.94)から、試験期間中は同16.91(同:14.09~20.28)に低下していた。一方、対照群も、同19.02(同:14.20~25.49)から16.29(同13.48~19.68)に低下しており、両群に統計的な有意差は認められなかった(1,000患者・日当たりの感染格差:-1.71、95%CI:-6.15~2.73、p=0.57)。 また、副次アウトカムでは、VRE感染率は差がみられなかったが(格差:0.89、95%CI:-4.27~6.04、p=0.70)、MRSA感染率はわずかに減少がみられたが有意差はなかった(同:-2.98、-5.58~-0.38、p=0.46)。 介入群では、医療従事者の入室回数が有意に減り(1時間につき4.28回vs.5.24回、格差:-0.96、95%CI:-1.71~-0.21、p=0.02)、入退室時の手指消毒コンプライアンス率が上昇した(78.3%vs.62.9%、格差:15.4%、95%CI:8.99~21.8、p=0.02)。しかし、有害イベントへの統計的に有意な効果はみられなかった(有害イベント発生率は1,000患者・日当たり58.7件vs. 74.4件、格差:-15.7、95%CI:-40.7~9.2、p=0.24)。 著者は、「ICUにおいて手袋とガウンの常用が通常ケアと比べて、主要アウトカムのMRSAまたはVRE感染率の差には結びつかなかった。MRSA単独では感染率の低下がみられたが、有害イベント発生率には差はみられず、これらの結果は限定的なものであり、さらなる検証が求められる」と結論している。

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MRSA感染症が原因で心臓手術から6日後に死亡したケース

感染症最終判決判例時報 1689号109-118頁概要心臓カテーテル検査で冠状動脈3枝病変が確認され、心臓バイパス手術が予定された63歳男性。手術前に咳、痰、軽度の咽頭痛が出現し、念のため喀痰を培養検査に提出したが、検査結果を待たずに予定通り手術が行われた。術後から38℃以上の発熱が続き、喀痰やスワンガンツカテーテルの先端からはMRSAが検出された。集中治療にもかかわらずまもなくセプシスの状態となり、急性腎不全が原因で術後6日目に死亡した。なお、術後に問題となったMRSAは術前の喀痰培養で検出されたものと同一であった。詳細な経過患者情報既往症として脳梗塞、心筋梗塞を指摘されていた63歳男性経過1991年1月近医の負荷心電図検査で異常を指摘された。2月18日某大学病院外科を紹介受診。ニトロールRを処方され外来通院開始(以後手術まで胸痛はなく病態は安定)。3月4日~3月6日心臓カテーテル検査のため入院。■冠状動脈造影結果左冠状動脈前下行枝完全閉塞左回旋枝末梢の後側壁枝部分で閉塞右冠状動脈50~75%の狭窄心拍出量3.84L左心室駆出率56%左室瘤および心尖部の血栓(+)以上の所見をもとに、主治医はACバイパス手術を勧めた。患者は仕事が一段落するのを待って手術を承諾(途中で海外出張もこなした)。5月28日大学病院外科に入院、6月12日に手術が予定された。6月4日頭部CT検査で右大脳基底核、右視床下部の脳梗塞を確認。神経内科の診察では右上下肢の軽度知覚障害、右バビンスキー反射陽性が確認された。6月8日(手術4日前)咳と喉の痛みが出現。6月9日(手術3日前)研修医が診察し、咳、痰、軽度の咽頭痛などの所見から上気道炎と診断し、イソジンガーグル®、トローチなどを処方。6月10日(手術2日前)研修医の指示で喀痰の細菌培養を提出(研修医から主治医への報告なし)。6月12日09:00~18:00ACバイパス手術施行。6月13日00:00~4:00術後の出血がコントロールできなかったため再開胸止血術が行われた。09:00体温38.7℃、白血球5,46013:00手術前に提出された喀痰培養検査でMRSA(感受性があるのはゲンタマイシン、ミノマイシン®のみ)が検出されたと報告あり。主治医は術後の抗菌薬として(MRSAに感受性のない)パンスポリン®、ペントシリン®を投与。6月14日体温38.6℃、白血球12,900、強い腹痛が出現。6月15日体温38.9℃、白血球11,490、一時的な低酸素によると思われる突然の心室細動、心停止を来したが、心臓マッサージにより回復。6月16日体温39.5℃と高熱が続く。主治医はMRSA感染をはじめて疑い、感受性のあるゲンタマイシンを開始。再度喀痰培養を行ったところ、術前と同じタイプのMRSAが検出された。6月17日顔面、口角を中心としたけいれんが出現し、意識レベルが低下。また、尿量が減少し、まもなく無尿。カリウムも徐々に上昇し最高値8.1となり、心室細動となる。スワンガンツカテーテル先端からもMRSAが検出されたが、血液培養は陰性。6月18日12:30腎不全を直接死因として死亡(術後6日目)。当事者の主張患者側(原告)の主張1.培養検査の結果を待たずに手術を行った過失今回の手術は緊急性のない待機的手術であったのに、喀痰検査の結果を確認することなく、さらにMRSAの除菌を完全に行わずに手術に踏み切ったのは主治医の過失である2.術後管理の過失手術直後からMRSA感染が疑われる状況にありながら、MRSAに効果のある薬剤を開始するのが4日も遅れたために適切な治療を受ける機会を逸した3.死亡との因果関係担当医の過失によりMRSA感染症による全身性炎症反応症候群からショック状態となり、腎不全を引き起こして死亡した病院側(被告)の主張1.培養検査の結果を待たずに手術を行った点について入院病歴から判断して狭心症重症度3度に該当する労作性狭心症であり、左冠状動脈前下行枝完全閉塞、右冠状動脈75%狭窄、心筋虚血のある状態ではいつ何時致命的な心筋梗塞が発症しても不思議ではなかったので、速やかに手術を行う必要があったまた、一般にすべての心臓手術前に細菌培養検査を実施する必要はないので、本件でも術前に行った喀痰培養の結果が判明するまで手術を待つ必要はなかった。確かに術前の喀痰検査でMRSAが陽性であったが、術前はMRSAの保菌状態にあったに過ぎず、MRSA感染症は発症していない2.術後管理について心臓手術後は通常みられる術後急性期の経過をたどっており、MRSA感染症を発症したことを考えるような臨床所見はなかった。そして、MRSAを含めた感染症の可能性を考えて、各種培養検査を行い、予防的措置として広域スペクトラムを持つ抗菌薬を投与するとともに術前の喀痰培養で検出されたMRSAに感受性を示す抗菌薬も開始した3.死亡との因果関係死亡に至るメカニズムは、元々の素因である脳動脈硬化性病変によりけいれん発作が出現し、循環動態が急激に悪化して急性腎不全となり、心停止に至ったものである。MRSAは喀痰およびスワンガンツカテーテルの先端から検出されたが、血液培養ではMRSAが検出されていないのでMRSA感染症を発症していたとはいえず、死亡とMRSA感染症は関係ない裁判所の判断緊急性のない心臓バイパス手術に際し、上気道炎に罹患していることに気付かず、さらに喀痰培養の検査中であることも見落として検査結果を待つことなく手術を行ったのは主治医の過失である。さらに術後高熱が続いているのに、術前の喀痰培養でMRSA、が検出されたことを知った後もMRSA感染症を疑わず、MRSAに感受性のある抗菌薬を投与したのは症状がきわめて悪化してからであったのは術後管理の明らかな過失である。その結果MRSA感染症からセプシスとなり、急性腎不全を併発して死亡するという最悪の結果を迎えた。原告側合計3億257万円の請求に対し、1億5,320万円の判決考察MRSAがマスコミによって大きく取り上げられ社会問題化してからは、多くの病院で「院内感染症対策マニュアル」が整備され、感染症対策委員会を設けて病院全体としてMRSAをはじめとする院内感染に細心の注意を払うようになったと思います。今回の大学病院でも積極的に院内感染症対策に取り組み、緊急の場合を除いて感染症の所見があれば(たとえ軽症であっても)MRSA感染の有無を確認し、もしMRSA感染が判明すれば侵襲の大きい手術は行わないという原則が確立していました。こうしたMRSAに対する十分な配慮が行われていたにもかかわらず、なぜ今回のような事故が発生したのでしょうか。その答えとして真っ先に思い浮かぶのが、「院内のコミュニケーション不足」であると思います。今回の手術に際して、患者さんと頻繁に接していたのはネーベンである研修医であったと思います。その研修医が患者さんから手術の3日前に「喉が痛くて咳や痰がでる」という症状の申告を受けたため、イソジンガーグル®によるうがいを励行するように指導し、トローチを処方しました。そして、「念のため」ではあると思いますが、痰がでるという症状に対し細菌感染を疑って喀痰培養を指示しました。以上の対応は、研修医としてはマニュアル化された範囲内でほぼ完璧であったと思います。ところが、この研修医はオーベンである主治医に培養検査を行ったことを報告しなかったうえに(実際には報告したのにオーベンが忘れていたのかもしれません)、おそらく培養検査を提出したこと自体を失念したのでしょうか、検査結果がでるのを待たずに予定通り手術が行われてしまいました(通常の培養検査は結果が判明するまでに3~4日はかかりますので、手術の2日前に培養検査を提出したのであれば、培養結果の報告は早くても手術当日か手術直後になることを当然予測しなければなりません)。その背景として、複数の患者を受け持つ一番の下働きである研修医は、日常のオーダーを出すだけでもてんてこ舞いで、寝る時間も惜しんで働いていたであろうことは容易に想像できます。そのためにたかが風邪に対する喀痰培養検査に重きを置かなかったことは、同じ医師としてやむを得ない面はあると理解はできます。一方で、研修医に間違いがないかどうかをチェックするのがオーベンの重要な仕事であるのに、今回のオーベンは術前に喀痰培養検査が行われたことなどつゆ知らず、ましてや手術の翌日に「術前喀痰培養でMRSA陽性」と判明した後も何ら対策をとりませんでした。おそらく、「MRSAが検出されたといっても、院内に常在する細菌なので単なる「保菌状態」であったのだろう、術前には大きな問題はなかったのでまさかMRSA感染症にまで発展するはずはない」と判断したのではないかと思います。つまり本件では、「術前に喀痰培養を行ったので、手術をするにしても培養結果がでてからにしてください」とオーベンにいわなかった研修医と、「研修医が術前に喀痰培養を行った」ことをまったく知らなかった(普段から研修医の出す指示をチェックしていなかった?)オーベンに問題があったと思います(なお裁判では監督責任のあるオーベンだけが咎められて、研修医は問題になっていません)。心臓手術のように到底一人の医師だけではすべてを担当できないような病気の場合には、チームとして治療に当たる必要があります。つまり一人の患者さんに対して複数の医師がかかわることになりますので、医師同士のコミュニケーションをなるべく頻繁にとり、たとえ細かいことであってもできる限り情報は共有しておかなければなりません。そうしないと今回の事例のような死角が生じてしまい、結果として患者さんはもちろんのこと、医師にとってもたいへん不幸な結果を招く可能性があるという、重要な教訓に与えてくれるケースであると思います。感染症

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