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2024/07/10
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世界初、がん疼痛に使える経皮吸収型NSAIDs「ジクトルテープ75mg」【下平博士のDIノート】第76回

世界初、がん疼痛に使える経皮吸収型NSAIDs「ジクトルテープ75mg」今回は、持続性がん疼痛治療薬「ジクロフェナクナトリウム経皮吸収型製剤(商品名:ジクトルテープ75mg、製造販売元:久光製薬)」を紹介します。本剤は、がん疼痛に適応を有する世界初の経皮吸収型NSAIDs製剤であり、簡便かつ効率的に疼痛をコントロールすることが期待されています。<効能・効果>本剤は、各種がんにおける鎮痛の適応で、2021年3月23日に承認され、5月21日に発売されました。<用法・用量>通常、成人に対し、1日1回2枚(ジクロフェナクナトリウムとして150mg)を胸部、腹部、上腕部、背部、腰部または大腿部に貼付し、1日(約24時間)ごとに貼り替えます。なお、症状や状態により1日3枚(ジクロフェナクナトリウムとして225mg)まで増量可能です。本剤使用時はほかの全身作用を期待する消炎鎮痛薬との併用は可能な限り避け、やむを得ず併用する場合は必要最小限の使用にとどめ、患者の状態に十分注意する必要があります。<安全性>国内臨床試験において、臨床検査値異常を含む主な副作用として、適用部位そう痒感(5%以上)、適用部位紅斑、上腹部痛、AST上昇、ALT上昇、クレアチニン上昇(1~5%未満)などが報告されています。重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、出血性ショックまたは穿孔を伴う消化管潰瘍、消化管の狭窄・閉塞、再生不良性貧血、溶血性貧血、無顆粒球症、血小板減少症、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、紅皮症(剥脱性皮膚炎)、急性腎障害(間質性腎炎、腎乳頭壊死など)、ネフローゼ症候群、重症喘息発作(アスピリン喘息)、間質性肺炎、うっ血性心不全、心筋梗塞、無菌性髄膜炎、重篤な肝機能障害、急性脳症、横紋筋融解症、脳血管障害が設定されています(いずれも頻度不明)。<患者さんへの指導例>1.1日1回、通常2枚を、胸、おなか、上腕、背中、腰、太もものいずれかの部位に貼って使用します。症状によって枚数が増えることもありますが、医師から指示された枚数を守り、一度に3枚を超えないように使用してください。2.創傷面または湿疹・皮膚炎などが見られる部位および放射線照射部位への貼付は避けてください。皮膚への刺激を減らすために、貼り替える際は、前回とは異なる部位を選択してください。3.この薬は1枚ずつ包装されています。貼る直前まで開封しないでください。途中で薬がはがれ落ちた場合は、ただちに新しいものを貼り、次の貼り替え予定時間には、再度新しいものに貼り替えてください。4.使用中に眠気、めまいが生じたり、かすみがかったように見えたりする場合は、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には従事しないでください。貼った部位に赤みや痒みが出るなどつらいことがありましたら、早めにご相談ください。5.自己判断によるほかの消炎鎮痛薬との併用は避けてください。市販の風邪薬などを使用する場合は事前に相談してください。6.過去に風邪薬や消炎鎮痛薬を使用して喘息のような症状が現れたことがある方や、妊婦または妊娠している可能性のある女性は使用できません。<Shimo's eyes>本剤は、世界初のNSAIDsの経皮吸収型持続性がん疼痛治療薬です。同成分を含む局所作用型製剤ジクロフェナクナトリウムテープ(商品名:ボルタレン)とは異なり、全身投与型の製剤です。有効成分が全身の血中に移行するため、禁忌はジクロフェナク経口薬とほぼ同じように設定されています。NSAIDsなどの非オピオイド鎮痛薬は、「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」において、軽度のがん疼痛に対する導入薬として推奨されています。中等度~高度のがん疼痛で、オピオイド鎮痛薬では十分な鎮痛効果が得られない、または有害事象のためオピオイド鎮痛薬を増量できない場合などでは、非オピオイド鎮痛薬とオピオイド鎮痛薬の併用が推奨されています。本剤は、1日1回の貼り替えで持続的な効果が期待できるため、患者・介護者の双方にとって利便性が高いと考えられます。3枚貼付時のジクロフェナクの全身曝露量が、同成分の徐放性カプセル剤(商品名:ナボールSRカプセル37.5)と同程度ですが、血中濃度が定常状態に達するまで7日ほどかかるため、効果判定のタイミングに注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 ジクトルテープ75mg

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慢性掻痒でピンッとくるべき疾患は?【Dr.山中の攻める!問診3step】第3回

第3回 慢性掻痒でピンッとくるべき疾患は?―Key Point―皮膚に炎症がある場合は皮膚疾患である可能性が高い82歳男性。2ヵ月前から出現した痒みを訴えて来院されました。薬の副作用を疑い内服薬をすべて中止しましたが、改善がありません。抗ヒスタミン薬を中止すると痒みがひどくなります。一部の皮膚に紅斑を認めますが、皮疹のない部位もひどく痒いようです。手が届かない背中以外の場所には皮膚をかきむしった跡がありました。皮膚生検により菌状息肉腫(皮膚リンパ腫)と診断されました。この連載では、患者の訴える症状が危険性のある疾患を示唆するかどうかを一緒に考えていきます。シャーロックホームズのような鋭い推理ができればカッコいいですよね。◆今回おさえておくべき疾患はコチラ!【慢性掻痒を起こす疾患】(皮膚に炎症あり)アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、乾皮症、虫刺され、乾癬、疥癬、表在性真菌感染(皮膚に炎症なし)胆汁うっ滞、尿毒症、菌状息肉腫、ホジキン病、甲状腺機能亢進症、真性多血症、HIV感染症、薬剤心因性かゆみ(強迫神経症)、神経原性掻痒(背部錯感覚症、brachioradial pruritus)【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】慢性掻痒の原因を見極める、診断へのアプローチ■鑑別診断その1皮膚に目立った炎症があるアトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、乾皮症、虫刺され、乾癬、疥癬、表在性真菌感染家族や施設内に同様の掻痒患者がいる場合には疥癬を疑う。皮疹の部位が非常に重要である。陰部、指の間、腋窩、大腿、前腕は疥癬の好発部位である。皮膚に問題がない場合でも、慢性的にかきむしると苔癬化、結節性そう痒、表皮剥脱、色素沈着が起きることがある。■鑑別診断その2正常に近い皮膚なら全身性疾患によるそう痒を考え、以下を考慮する胆汁うっ滞、尿毒症、菌状息肉腫、ホジキン病、甲状腺機能亢進症、真性多血症、HIV感染症、薬剤薬剤が慢性掻痒の原因となることがあるかゆみを起こす薬剤:降圧薬(カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、サイアザイド)、NSAIDs、抗菌薬、抗凝固薬、SSRI、麻薬上記の鑑別疾患時に必要な検査と問診検査:CBC+白血球分画、クレアチニン、肝機能、甲状腺機能、血沈、HIV抗体、胸部レントゲン写真問診:薬剤歴■鑑別診断その3慢性的なひっかき傷がある時は、以下の疾患を想起すること心因性かゆみ(強迫神経症)、神経原性掻痒(背部錯感覚症、brachioradial pruritus)背部錯感覚症は背中(Th2~Th6領域)に、brachioradial pruritusは前腕部に激烈なかゆみを起こす。原因は不明。【STEP3】治療や対策を検討する薬が原因の可能性であれば中止する。以下3点を日常生活の注意事項として指導する。1)軽くてゆったりした服を身に着ける2)高齢者の乾皮症(皮脂欠乏症)は非常に多い。皮膚を傷つけるので、ナイロンタオルを使ってゴシゴシと体を洗うことを止める3)熱い風呂やシャワーは痒みを引き起こすので避ける入浴後は3分以内に皮膚軟化剤(ワセリン、ヒルドイド、ケラチナミン、亜鉛華軟膏)や保湿剤を塗る。皮膚の防御機能を高め、乾皮症やアトピー性皮膚炎に有効である。アトピー性皮膚炎にはステロイド薬と皮膚軟化剤の併用が有効である。副作用(皮膚萎縮、毛細血管拡張、ステロイドざ瘡、ステロイド紫斑)に注意する。Wet pajama療法はひどい皮膚のかゆみに有効である。皮膚軟化剤または弱ステロイド軟膏を体に塗布した後に、水に浸して絞った濡れたパジャマを着て、その上に乾いたパジャマを着用して寝る。ステロイドが皮膚から過剰に吸収される可能性があるので1週間以上は行わない。夜間のかゆみには、抗ヒスタミン作用があるミルタザピン(商品名:リフレックス、レメロン)が有効ガバペンチン(同:ガバペン)、プレガバリン(同:リリカ)は神経因性のそう痒に有効である。少量のガバペンチンは透析後の痒みに効果がある。<参考文献・資料>1)Yosipovitch G, et al. N Engl J Med. 2013;368:1625-1634.2)Moses S, et al. Am Fam Physician. 2003;68:1135-1142.

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片頭痛でも診療を受けない人は43%も/日本イーライリリー

 日本イーライリリー株式会社は、わが国の片頭痛診療の現状に関する大規模横断的疫学調査を行った。本調査は、日本に居住しかつ片頭痛の診断基準(ICHD-3)に該当するもしくは1年以内に頭痛発作を経験しかつ医師による片頭痛の診断を受けたことがある成人を対象に、わが国おける片頭痛の診断状況、治療パターン、および治療の妨げに関して、記述的に評価することを目的に行われ、その結果を第62回 日本神経学会学術大会で発表した。片頭痛のある17,071人を調査 片頭痛は、1次性頭痛の中でも臨床的に重要な疾患で、典型的には拍動性の中等度から重度の頭痛発作が繰り返し生じ、4~72時間にわたり発作が持続する。頭痛に加えて悪心、嘔吐、光過敏や音過敏などを伴うことが多く、日常動作で頭痛が増悪するため生活に大きな支障を来す。わが国における片頭痛の有病率は8.4%[男女比(女/男):約3.6]であり、男女とも20~50歳代の勤労世代に多くみられることから、患者の日常生活だけでなく社会生活にも影響を及ぼす疾患とされている。 本調査には、片頭痛の症状がある17,071人(平均年齢41歳、男:女=33.5%:66.5%、ICHD-3診断基準を満たした人の割合:82.2%)が登録された。 調査でわかった過去3ヵ月における月あたりの平均頭痛日数は次の通り。【平均頭痛日数/月:人数(比率)】・0~3日:11,498人(67.4%)・4~7日:2,714人(15.9%)・8~14日:1,608人( 9.4%)・15日以上:1,251人( 7.3%) また、片頭痛のために受診を受け、治療を行った医師の主な診療科割合は次の通り。【診療科の割合】・かかりつけ医・内科医:59.9%・脳神経外科医:26.7%・頭痛専門医:13.7%・脳神経内科医:12.3%予防治療薬を使用している人は1割未満 今回の調査でわかったわが国における片頭痛診療の現状として、・これまで1度でもOTC(一般用医薬品)を使用したことがある:80.4%・現在OTCを使用している:75.2%・これまで片頭痛のために医療機関を受診したことがある:57.4%・医師による片頭痛の診断を受けたことがある:56.6%・過去1年に片頭痛のために医療機関を受診した:39.7%・現在NSAIDsが処方されている:36.7%・これまでトリプタンを使用したことがある:20.1%・現在トリプタンを使用している:14.8%・これまでに予防治療薬を使用したことがある:10.2%・現在予防治療薬を使用している:9.2% との回答を得た。調査により片頭痛症状をもつ人の42.6%は医療機関を1度も受診していないことが判明した。また、片頭痛の急性期治療薬について、全体の87.1%の人は現在OTCを含む急性期治療薬を用いて治療していたが、トリプタンで治療している人は全体の14.8%だった。予防治療薬について、予防治療薬の処方の対象となる人は全体の29.0%だったが、現在予防治療薬で治療している人はわずか9.2%だった。片頭痛のある人に適切な医療の実現を この調査のアドバイザーである平田 幸一氏(日本頭痛学会 代表理事、獨協医科大学 副学長)は、「この調査はわが国における片頭痛医療の満たされていない患者ニーズを浮き彫りにしている。新しい片頭痛の治療薬開発が進んでいる日本において、片頭痛の診断、治療パターン、および医療ニーズを理解することが大変重要で、片頭痛のある人に適切な医療を求めるように啓発し、医師が適切な治療選択肢を患者に提案していくことが急務」とコメントを寄せている。 同社では今後も調査結果を検証し、学会や論文などで発表を行っていくとしている。

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片頭痛発作を抑制する初の抗体製剤「エムガルティ皮下注120mgオートインジェクター/シリンジ」【下平博士のDIノート】第74回

片頭痛発作を抑制する初の抗体製剤「エムガルティ皮下注120mgオートインジェクター/シリンジ」今回は、ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤「ガルカネズマブ(遺伝子組み換え)注射液(商品名:エムガルティ皮下注120mgオートインジェクター/シリンジ、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、従来の片頭痛治療で効果が不十分、または副作用などにより使用できない患者の片頭痛発作を抑制し、QOLが改善することが期待されています。<効能・効果>本剤は、片頭痛発作の発症抑制の適応で、2021年1月22日に承認され、4月26日に発売されました。投与対象となる患者は、厚生労働省の最適使用推進ガイドラインに記載されている下記の患者選択基準(1)~(4)すべてを満たす必要があります。(1)国際頭痛分類(ICHD第3版)を参考に十分な診療を実施し、前兆のあるまたは前兆のない片頭痛の発作が月に複数回以上発現している、または慢性片頭痛であることが確認されている。(2)投与開始前3ヵ月以上にわたり、1ヵ月当たりのMHD(頭痛日数:migraine headache days)が平均4日以上である。(3)睡眠・食生活の指導、適正体重の維持、ストレスマネジメントなどの非薬物療法および片頭痛発作の急性期治療などをすでに実施していて、それらの治療を適切に行っても日常生活に支障を来している。(4)わが国で既承認の片頭痛発作の発症抑制薬のいずれかが、下記1~3のうちの1つ以上の理由によって使用または継続できない。1.効果が十分に得られない。2.忍容性が低い。3.禁忌または副作用などの観点から安全性への強い懸念がある。<用法・用量>通常、成人にはガルカネズマブ(遺伝子組み換え)として初回に240mgを皮下投与し、以降は1ヵ月間隔で120mgを皮下投与します。本剤投与中は症状の経過を十分に観察し、本剤投与開始後3ヵ月を目安に治療上の有益性を評価して、症状の改善が認められない場合は本剤の投与中止を考慮します。その後も定期的に投与継続の要否について検討し、頭痛発作発現の消失・軽減などにより日常生活に支障を来さなくなった場合には、本剤の投与中止を考慮する必要があります。なお、日本人を対象とした臨床試験において、18ヵ月を超える本剤の使用経験はありません。<安全性>反復性および慢性片頭痛患者を対象とした日本人および外国人の臨床試験を併合したところ、評価対象2,582例中780例(30.2%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、注射部位疼痛260例(10.1%)をはじめとする注射部位反応(紅斑、そう痒感、内出血、腫脹、硬結など)、悪心30例(1.2%)、疲労27例(1.1%)でした。重大な副作用として、重篤な過敏症反応であるアナフィラキシー、血管浮腫、蕁麻疹など(いずれも頻度不明)が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、片頭痛を引き起こす神経ペプチドを抑え、片頭痛発作が起きないようにする薬です。初回は2本、2回目以降は1ヵ月に1回1本を皮下投与します。2.頭痛発作時は医師の指示に従って、頭痛発作治療薬や痛み止めを使用してください。3.注射部位に現れる痛み、発赤、かゆみ、内出血、腫れなどは、通常数日以内に消失します。症状が長引いたり、悪化したりする場合は早めにご相談ください。4.注射後、発熱、蕁麻疹、口唇周囲の腫れ、息苦しさなどが起きたら、すぐに医療機関にご連絡ください。<Shimo's eyes>片頭痛発作を抑制する初の抗体製剤が登場しました。本剤は、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)に特異的に結合するヒト化抗CGRPモノクローナル抗体です。CGRPは三叉神経節や硬膜上の三叉神経末梢に存在する神経ペプチドで、過剰に発現すると血管拡張や神経原性炎症を引き起こして、片頭痛発作を発症させると考えられています。本剤は1回使い切りの注射製剤であり、オートインジェクターは、デュラグルチド(商品名:トルリシティ皮下注0.75mgアテオス)と同様のデバイスです。2020年7月現在、片頭痛の予防の適応で40ヵ国以上において承認されており、反復性群発頭痛の適応についても米国、アラブ首長国連邦などで承認されています。片頭痛の薬物療法として、急性期の治療には、トリプタン製剤、アセトアミノフェン、NSAIDsなどが推奨されています。急性期治療のみでは片頭痛発作を抑制できず、頻回の発作により生活に支障が出る場合には、予防治療が選択されます。片頭痛の予防薬として適応を有するものには、プロプラノロール(同:インデラル)、ロメリジン塩酸塩(同:ミグシス)、バルプロ酸ナトリウム(同:デパケン)などがあります。これらの予防薬は連日の服用が必要ですが、本剤は月1回の皮下注射で効果が期待できるため、患者の利便性・QOLの向上が期待できます。なお、本剤は、片頭痛の治療に関する十分な知識および経験を有する医師のもとで使用することとされ、投与対象となる患者・施設ともに『最適使用推進ガイドライン』に定められる厳格な要件を満たす場合に限られています。本剤は2022年5月より在宅自己注射が可能となりました。病院で本剤による治療を受けていると聴取した場合は薬歴に記載し、効果や副作用を確認したうえで、ほかの片頭痛治療薬が正しく使えているかも確認しましょう。※2022年5月、添付文書改訂により一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 エムガルティ皮下注120mgオートインジェクター/エムガルティ皮下注120mgシリンジ

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その胸やけ症状、本当に胸焼け?【Dr.山中の攻める!問診3step】第2回

第2回 その胸やけ症状、本当に胸焼け?―Key Point―悪性腫瘍を疑う症状や所見(red flag sign)がないか確認機能性ディスペプシアの診断基準を満たすか検討ピロリ検査が陽性なら除菌。陰性ならプロトンポンプ阻害薬を処方する同僚医師から30代前半の女性の診察を頼まれました。食後の胃もたれと軽い嘔気が1年以上続いているようです。胃カメラでは異常がなく、ヘリコバクター・ピロリ菌感染症もありません。プロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方しましたが、あまり効果がありません。「機能性ディスペプシア」と思われました。原因がわからないまま症状が続くことが、とても辛かったようです。2週間に一度、外来に来ていただき訴えに共感しながら傾聴するよう心がけました。この連載では、患者の訴える症状が危険性のある疾患を示唆するかどうかを一緒に考えていきます。◆今回おさえておくべき症状はコチラ!【悪性腫瘍を疑うred flag sign】予期せぬ体重減少、嚥下障害、吐気/嘔吐、黒色便、貧血、血小板増多、胃がんの家族歴、治療に反応しないディスペプシア。日本では胃がんの発生が多いので、症状がなくても1~2年に1度の胃カメラが薦められている。【STEP1】患者の症状に関する勘違いを修正しよう!患者が症状を勘違いしていること、よくありますよね。【STEP2】ディスペプシアを起こす原因を探る1)逆流性食道炎消化性潰瘍ヘリコバクター・ピロリ菌感染症胃がん胃不全麻痺セリアック病クローン病膵炎膵がん胆石心筋梗塞糖尿病副腎不全など原因がわからないものを機能性ディスペプシア(FD:functional dyspepsia)と呼ぶ薬剤内服歴を確認することが重要。とくにNSAIDs、アスピリン、鉄剤、抗菌薬、レボドパ、ピル、ビスフォスフォネート製剤はよくディスペプシアを起こす胃カメラで見つかる疾患の頻度1)>70%は異常なし → 機能性ディスペプシア<10%は消化性潰瘍<1%が上部消化管悪性腫瘍【機能性ディスペプシア の診断基準 RomeIV】下記のいずれかの症状が6ヵ月以上前からあり、最近3ヵ月持続しているつらいと感じる食後のもたれ感つらいと感じる摂食早期の飽満感つらいと感じる心窩部痛つらいと感じる心窩部灼熱感かつ、症状を説明しうる器質的疾患はない。食後愁訴症候群(PDS:postprandial distress syndrome)と心窩部痛症候群 (EPS:epigastric pain syndrome)に分類される機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群はよく合併する2)【STEP3】治療とその注意点をおさえる2)red flag signがなければ、胃カメラは行わずピロリ菌検査を行う。陽性だったら除菌する。陰性だったらPPI(プロトンポンプ阻害薬)を4~8週間投与する。無効なら少量の三環系抗うつ薬を考慮する日本人の60歳以上では、50%以上はヘリコバクター・ピロリに感染しているピロリ菌感染症は消化性潰瘍、胃がん、胃リンパ腫と関係がある。PPIの機能性ディスペプシアに対するNNT(number needed to treat、治療必要数)は133)であるPPIの副作用4)で最も多いのは下痢と頭痛。 PPIの種類を変えると下痢は良くなることがある。このほか、市中肺炎、急性の腸管感染症、Clostridium difficile感染症、急性間質性腎炎、顕微鏡的大腸炎、骨粗鬆症、ビタミンB12欠乏症を増加させるので注意。ビスフォスフォネート製剤はよくディスペプシアを起こすばかりか、食道潰瘍や胃潰瘍も起こすので要注意。もし、ビスフォスフォネート製剤を飲んでいるならば中止する禁煙やアルコールの減量を薦める消化管運動機能改善薬であるアコチアミドも臨床試験で有効性が示されている漢方では六君子湯や半夏厚朴湯が効果ありと言われている<参考文献・資料>1)Talley NL, et al. N Engl J Med.2015;373:1853-1863.2)Goldman L, et al. Goldman-Cecil Medicine. 2020;856-8573)Pinto-Sanchez MI, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Nov 21;11:CD011194.4)上田剛士著. 日常診療に潜む クスリのリスク.医学書院.p93-99. 2017.日本消化器学会編.機能性消化管疾患診療ガイドライン.2014―機能性ディスペプシア(FD)

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片頭痛へのガルカネズマブ承認、既存薬との使い分けは

 「片頭痛発作の発症抑制」を効能・効果として、ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体薬ガルカネズマブ(商品名:エムガルティ)が1月22日に製造販売承認を取得した。2月25日にオンラインメディアセミナーが開催され(主催:日本イーライリリー)、平田 幸一氏(獨協医科大学 副学長)、坂井 文彦氏(埼玉精神神経センター・埼玉国際頭痛センター長)が登壇。同薬の片頭痛治療における位置づけと臨床試験結果について講演した。片頭痛発生メカニズムと鍵となるCGRP 現在、片頭痛の発生メカニズムとしては「三叉神経血管説」が広く受け入れられている。ストレス・ホルモン等の内因性の刺激、あるいは天候・匂いや光といった外因性の刺激を受けることによって三叉神経終末からCGRPなどの神経ペプチドが放出される。神経ペプチド放出により血管拡張、血漿タンパクの漏出、肥満細胞の脱顆粒などの神経原性炎症が発生し、疼痛シグナルが中枢へと伝達して大脳皮質で痛みとして知覚される。 実際に片頭痛の発作中には、血中および唾液中のCGRPレベルが上昇し、非発作時には低下することが確認されている。三叉神経からCGRPが放出されるとセロトニン1B・D受容体が受け入れ、血管が急速に拡張する。その結果血管周辺の組織に炎症が起こり、頭痛が発現してしまう。片頭痛の慢性化・難治化を防ぐには 片頭痛の治療において重要なのは、何より発作回数を減らすこと、と平田氏。誘因となる音や光といった純粋な外部刺激には、サングラスや耳栓が有効なケースもあるし、内因的要因に対しては、簡単な認知行動療法の有用性も知られている1)。 「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」では片頭痛の薬物療法として、アセトアミノフェンやNSAIDsなど、重症の場合はトリプタンを使うという層別治療が推奨されている。しかし、同氏らが実施した片頭痛発作に対するトリプタンの有効性に対する患者満足度調査の結果では、およそ半数で満足が得られていないという結果であった2)。 とくにひどい片頭痛症状を起こす病態では、薬物の使用過多による頻度の増加や、中枢感作が生じることによる慢性化、難治化につながってしまうケースがある。そうなると既存薬の効果は限定的となり、「慢性化・難治化してしまう前に、片頭痛発生の大元であるCGRPを阻害することが重要となる」と平田氏は話した。ガルカネズマブ投与で発症日数が有意に減少 ガルカネズマブはCGRP に選択的な結合親和性を有し、三叉神経から放出されたCGRPが受容体と結合する前に阻害することを作用機序とする。他剤(2~4種類)で効果不十分な片頭痛患者(日本人患者を含む)を対象とした国際共同第III相試験(CGAW/CONQUER試験)において、ガルカネズマブ投与群では1ヵ月当たりの片頭痛発症日数(3ヵ月平均)が4.1日減少し、プラセボ群(1.0日減少)と比較して有意に減少していた3)。その効果は3ヵ月間持続し、持続期間についてもプラセボ群と比較して有意な差がみられた。これらの効果は、反復性片頭痛および慢性片頭痛患者における部分集団解析においても確認されている。 同様に、反復性片頭痛患者を対象とした国内第II相試験(CGAN試験)においても、ガルカネズマブ投与群では1ヵ月当たりの片頭痛発症日数(6ヵ月平均)が3.6日減少し、プラセボ群(0.6日減少)と比較して有意に減少、その効果は6ヵ月持続していた4)。また、投与1週間目からすでに、片頭痛日数が有意に低下しており、坂井氏は「持続性に加えて即効性も確認されたといえるだろう」と話した。 50%反応率(1ヵ月当たりの片頭痛日数がペースライン値より50%以上減少した患者割合)はガルカネズマブ投与群で49.8%。坂井氏は「患者さんたちは皆さん、片頭痛が半分になるということは大きな意味があると話される」とし、“自分が取り戻せた”という声もあったという。 安全性については、CGAW/CONQUER試験とCGAN試験でともに最も多くみられた副作用は注射部位紅斑であった。CGAN試験でその詳細をみると、ガルカネズマブ投与群で17例(14.8%)、プラセボ群で5例(2.2%)発生し、多くが投与当日に発現した。 なお、ガルカネズマブは初回に2本(240ml)、2カ月目から1ヵ月ごとに1本(120ml)皮下投与を行う。初回のローディングドーズ投与により、初回投与後速やかに血中濃度に到達させる設計となっている。トリプタンや他の予防薬との併用、使い分けは? 急性期片頭痛の治療薬として使われるトリプタンの半減期が約2時間なのに対し、ガルカネズマブは約1ヵ月となっている。坂井氏は、「おのずとそれぞれ急性期治療と予防と、使い方は違ってくる」と説明。「ガルカネズマブで発症を約半分にできるということは、トリプタンを使うタイミングが減って、より上手に使えるようになるのではないか」と期待感を示した。 予防薬としては、現在日本で使われているものは4種類。しかし、効果のある人・ない人の差が大きい。また、これまでの予防薬は脳全体の機能をコントロールするあるいは低下させるというものであったが、ガルカネズマブは片頭痛のメカニズムそのものに作用するという新しい機序を持った薬となる。坂井氏は、状況に応じて併用・使い分けはありうるとの認識を示した。

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低用量アスピリンも、NSAIDsに使用上の注意改訂指示

 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課は2月25日付の課長通知にて、妊婦全般が禁忌になっていない非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)について添付文書改訂を指示した。 改訂内容は妊婦への使用に関するもので、妊婦全般が禁忌になっていないNSAIDsによる胎児の腎障害出現や羊水過少リスク上昇について、国内での論文報告などを受けて行われた。 米国では昨年10月、広く使用されている鎮痛薬を妊娠20週以降に服用すると合併症のリスクが高まる可能性があるとして、食品医薬品局(FDA)が「妊娠20~30週の妊婦に対するNSAIDsの処方は限定的にし、必要な場合にも、最小限の用量で可能な限り最短期間の処方とする旨の注意喚起を行う」と改訂を指示していた。ただし、日本国内において、妊娠時期に関する明記は現段階では避けている。 対象薬剤はシクロオキシゲナーゼ阻害作用を有するNSAIDs(妊婦を禁忌とする薬剤を除く)で、ロキソプロフェンナトリウム水和物(商品名:ロキソニン ほか)、セレコキシブ(商品名:セレコックス ほか)などが含まれ、経口剤や坐剤のみならず、外用剤も該当する。妊婦、産婦、授乳婦等への投与を新たに新設 製剤ごとの追記は以下のとおり。・妊婦全般が禁忌になっていないNSAIDs シクロオキシゲナーゼ阻害剤(経口剤、坐剤)の妊婦への使用により、胎児の腎機能低下及び尿量減少、それに伴う羊水過少症が認められている旨、使用する際には必要最小限の使用とし適宜羊水量を確認する旨の注意喚起を追記。・低用量アスピリン製剤及び局所製剤 シクロオキシゲナーゼ阻害剤(経口剤、坐剤)の妊婦への使用により、胎児の腎機能低下及び尿量減少、それに伴う羊水過少症が認められている旨を追記。

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第25回 その吐血、緊急内視鏡は必要ですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)上部消化管出血を疑うサインを知ろう!2)緊急内視鏡の判断を適切に行えるようになろう!【症例】45歳男性。自宅で洗面器1杯分の吐血を認めたため、両親の運転する車で救急外来を受診した。独歩可能な状態で、その後吐血は認めていない。どのようなマネジメントが適切だろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO297%(RA)体温36.0℃瞳孔3/3 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なしはじめに吐血を主訴に救急外来を受診する患者さんは多く、救急外来が血の海になることも珍しくありません。バイタルサインの管理、内視鏡のタイミング、輸血のタイミングなど悩んだ経験があるのではないでしょうか?今回はまず押さえておくべき上部消化管出血の管理についてまとめておきます。上部消化管出血を疑うサインとは新鮮血の吐血やコーヒー残渣様の嘔吐を認める場合には、誰もが上部消化管出血を疑うと思いますが、それ以外にはどのような場合に疑うべきでしょうか。黒色便、鉄欠乏性貧血などは有名ですね。救急外来などの外来で見逃しがちなのが、訴えがはっきりしない場合です。脱力など自宅で動けない、元気がない、倦怠感などの主訴で来院した場合には、消化管出血に代表される出血性病変を考えるようにしましょう。その他、急性冠症候群、カリウムやカルシウムなどの電解質異常、そして敗血症や菌血症を考えるとよいでしょう。[失神・前失神を見逃すな]失神は以前に「第13回 頭部外傷その原因は?」でも取り上げましたが、診察時には状態は安定しており重症度を見誤りがちです。しかし、心血管性失神を見逃してしまうと致死的となり得ます。また、出血に伴う起立性低血圧も対応が遅れれば、予後はぐっと悪くなってしまうため必ず出血源を意識した対応が必要になります。ちなみに、前失神は失神と同様に危険なサインであり、完全に意識を失っていなくても体内で起こっていることは同様であり軽視してはいけません。意識を失ったか、失いそうになったかは必ず確認しましょう。緊急内視鏡の適応は?目の前の上部消化管出血疑い患者さんの内視鏡はいつ行うべきでしょうか?ショックバイタルでマズい場合には誰もが緊急内視鏡が必要と判断できると思いますが、本症例のように、一見するとバイタルサインが安定している場合には意外と判断は難しいものです。いくつかの指標が存在しますが、今回は“Glasgow Blatchford score(GBS)”(表1)を覚えておきましょう。GBS≦1の場合には入院の必要性はなく、緊急での対応は一般的には不要です1,2)。前述した通り、失神は重要なサインであり、点数も2点と黒色便よりも高く設定されています。失神を認める上部消化管出血は早期の内視鏡治療が必要と覚えておきましょう。1分1秒を争うわけではありませんが、血圧が普段よりも低めであるが故に止まっているだけですので、処置を行うことなく帰宅の判断はお勧めできません。表1  Glasgow Blatchford score(GBS)画像を拡大するちなみに、Hb値は濃度であり、また早期に変化は認められないため、Hb値が問題ないからと出血はたいしたことないと判断してはいけません。黒色便を認める場合には、数日の経過が経っていることが多く、Hb値も普段よりも低下しています。GBSも2点以上となりますが、即刻内視鏡なのか、24時間以内に内視鏡なのか、より具体的な緊急度は、その他バイタルサインやNSAIDs、抗血栓薬などのリスク因子も考慮し判断します。[抗血栓薬内服中の患者ではどうする?]絶対的な指標はありませんが、頭部外傷患者の対応と同様に、内服しているから緊急かというとそうではありません。しかし、リスクの1つではあるため、具体的な処方薬と用量、内服している理由、効果の評価(PT-INRなど)などと共に慎重な経過観察が必要となります。抗血栓薬を止めるのは簡単ですが、そのおかげで脳梗塞などを引き起こしてしまっては困りますよね。明らかな出血を認めている場合に内服を中止することはもちろんですが、その後の具体的な対応をきちんと決めておく必要があります。GBS以外の有名なリスクスコアに“AIMS65”(表2)がありますが、それにはPT-INRの項目が含まれており、緊急度に関わるとされます3)。また、PT-INRが1.5未満であってもDOAC(Direct oral anticoagulants)内服中の患者では、早期の内視鏡が推奨されています。そのような理由から、抗血栓薬を内服している患者さんでは、早期の内視鏡(24時間以内)を行うのが理想的でしょう。※GBSもAIMS65も覚えるのは大変ですよね。私は“MDCalc”というアプリをスマホに入れて計算しています。表2 AIMS65画像を拡大する現実問題として、夜間や時間外などに来院した患者の内視鏡をすぐに行うのか、一晩様子をみてOKなのかどうかを判断する必要があります。上記の内容を頭に入れつつ、施設毎の対応を構築しておきましょう。消化器内科医師などがいつでもすぐに対応可能な施設であれば、GBS≧2でも輸液や輸血でバイタルサインが安定している場合には一晩待てるかもしれませんが、そうではない場合には、「GBSで◯点以上の場合」、「肝硬変患者の吐血の場合」、「抗血栓薬を内服している場合」には緊急で行うなど、具体的なプランを立てておくとよいでしょう。スコアは絶対的なものではありませんが、GBSやAIMS65などを意識しておくと、確認すべき項目を見落とさなくなるでしょう。失神の有無は前述の通り重要ですし、抗血栓薬などの影響から凝固線溶機能に異常を来している場合には拮抗薬など追加の対応が必要なこともありますからね。最後に、上部消化管出血に伴い緊急内視鏡の判断をした場合には、気管挿管など気道の管理が必要ないかは必ず意識してください。ショックや重度の意識障害は気管挿管の適応であり、バイタルサインが不安定な場合には確実な気道確保目的の気管挿管が必須となります。慌てて内視鏡室へ移動し、不穏になり急変、誤嚥して酸素化低下などは避けなければなりません。救急外来で人数をかけ対応することができればベストですが、どうしても少ない人数で対応しなければならない場合には、確実な気道確保を行い万全の状態で内視鏡を行うようにしましょう。まとめ失神・前失神を伴う上部消化管出血は緊急性が高い!GBSやAIMS65を参考に、患者背景・薬の内服理由も考慮し対応を!緊急内視鏡を行う場合には、気管挿管など気道管理の徹底を!1)Blatchford O, et al. Lancet. 2000;356:1318-1321.2)Stanley AJ, et al. BMJ. 2017;356:i6432.3)Saltzman JR, et al. Gastrointest Endosc. 2011;74:1215-1224.

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GERDを増悪させる薬剤を徹底見直しして負のスパイラルから脱出【うまくいく!処方提案プラクティス】第32回

 今回は、胃食道逆流症(GERD)を悪化させる薬剤を中止することで症状を改善し、ポリファーマシーを解消した事例を紹介します。GERDは胸焼けや嚥下障害などの原因となるほか、嚥下性肺炎、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、慢性咳嗽などの呼吸器疾患を発症・増悪させることもあるため、症状や発症時期を聴取して薬剤を整理することが重要です。患者情報70歳、女性(外来患者)基礎疾患発作性心房細動、慢性心不全、高血圧症、逆流性食道炎診察間隔循環器内科クリニックで月1回処方内容<循環器内科クリニック(かかりつけ医)>1.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後2.ビソプロロール錠2.5mg 1錠 分1 朝食後3.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.ニフェジピン徐放錠40mg 1錠 分1 朝食後(1ヵ月前から増量)5.エソメプラゾールマグネシウム水和物カプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後<内科クリニック>1.モンテルカスト錠10mg 1錠 分1 就寝前(2週間前に処方)2.テオフィリン徐放錠100mg 2錠 分2 朝食後・就寝前(2週間前に処方)本症例のポイントこの患者さんは、なかなか胸焼けが治らないことを訴えて、半年前にGERDの診断を受けました。プロトンポンプ阻害薬による治療によって症状は改善したものの、最近はまた症状がぶり返しているとお悩みでした。患者さんの生活状況を聴取したところ、喫煙や飲酒はしておらず、高脂肪食なども5年前の心房細動の診断を機に気を付けて生活していました。心不全を併発していますが、体重は47.5kg程度の非肥満で増減もなく落ち着いていて、とくにGERD増悪の原因となる生活習慣や体型の問題は見当たりませんでした。さらに確認を進めると、最近の変化として、血圧が高めで推移したため1ヵ月前にニフェジピン徐放錠が20mgから40mgに増量になっていました。また、2週間前に咳症状のため、かかりつけの循環器内科クリニックとは別の内科クリニックを受診し、喘息様発作でモンテルカストとテオフィリンを処方されていました。GERDにおける食道内への胃酸の逆流は、嚥下運動と無関係に起こる一過性の下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)弛緩や腹腔内圧上昇、低LES圧による食道防御機構の破綻などにより発生します1)。また、GERDを増悪させる要因として、Ca拮抗薬やテオフィリン、ニトロ化合物、抗コリン薬などのLES弛緩作用を有する薬剤、NSAIDsやビスホスホネート製剤、テトラサイクリン系抗菌薬、塩化カリウムなどの直接的に食道粘膜を障害する薬剤があります1,2)。Ca拮抗薬は平滑筋に直接作用してCaイオンの流れを抑制することで、LES圧を低下させるとも考えられています3)。上記のことより、1ヵ月前に増量したCa拮抗薬のニフェジピン徐放錠がGERD症状の再燃に影響しているのではないかと考えました。その食道への刺激によって乾性咳嗽が生じて他院を受診することになり、そこで処方されたテオフィリンによってさらにLESが弛緩してGERD症状が増悪するという負のスパイラルに陥っている可能性も考えました。かかりつけ医では他院で処方された薬剤の内容を把握している様子がなかったため、状況を整理して処方提案することにしました。処方提案と経過循環器内科クリニックの医師と面談し、別の内科クリニックから乾性咳嗽を主体とした症状のためモンテルカストとテオフィリンが処方されていることと、患者さんの胸焼けや咳嗽がニフェジピン増量に伴うLES弛緩により出現している可能性を伝えしました。医師より、ニフェジピン増量がきっかけとなってGERD症状から乾性咳嗽に進展した可能性が高いので、ニフェジピンを別の降圧薬に変更しようと回答をいただきました。そこで、ACE阻害薬は空咳の副作用の懸念があったため、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を提案し、医師よりニフェジピンをオルメサルタン40mgに変更する指示が出ました。また、現在は乾性咳嗽がないため、心房細動への悪影響を考慮してテオフィリンを一旦中止し、モンテルカストのみ残すことになりました。変更した内容で服用を続けて2週間後、フォローアップの電話で胸焼け症状は改善していることを聴取しました。その後の診察でモンテルカストも中止となり、患者さんは乾性咳嗽や胸焼け症状はなく生活しています。1)藤原 靖弘ほか. Medicina. 2005;42:104-106.2)日本消化器病学会編. 患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド. 2018.3)江頭かの子ほか. 週刊日本医事新報. 2014;4706:67.

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低用量アスピリンによる胃潰瘍リスク低減の提案薬【うまくいく!処方提案プラクティス】第30回

 今回は、意外と見落としがちな低用量アスピリンによる消化管出血の予防についてです。低用量アスピリンはNSAIDsと同様に消化管障害の危険因子であり、原疾患の治療で継続的な服用が避けられない場合には、予防投与としてPPI(プロトンポンプ阻害薬)やH2受容体拮抗薬の併用が必要となります。その際は、年齢や腎・肝機能によって薬剤を使い分けましょう。患者情報96歳、男性(施設入居)基礎疾患陳旧性心筋梗塞、慢性心不全、前立腺肥大症、気分障害、右前胸部皮下腫瘤、大腸がん(ESD後の狭窄あり)介護度要介護4訪問診療の間隔2週間に1回処方内容1.フロセミド錠20mg 2錠 分2 朝昼食後2.アスピリン錠100mg 1錠 分1 朝食後3.ミラベグロン錠50mg 1錠 分1 朝食後4.プレガバリン口腔内崩壊錠25mg 2錠 分2 朝夕食後5.アセトアミノフェン錠200mg 2錠 分1 就寝前6.アルプラゾラム錠0.4mg 1錠 分1 就寝前7.センノシド錠12mg 1錠 分1 夕食後8.ピコスルファート内用液0.75% 便秘時 5滴から調節本症例のポイントこの患者さんは、施設入居前に上記を含む多数の薬剤を服用していましたが、別の薬剤師の介入により薬剤数が減り、定期内服薬は7種類となりました。今回、私が初めて訪問診療に同行することになりましたが、陳旧性心筋梗塞の既往から低用量アスピリンを継続的に服用し続けているにもかかわらず、消化管出血予防の支持療法が併用されていないことが気になりました。胃痛や胃部不快感、黒色便などの自覚症状こそないものの、もし消化管障害を併発した場合は超高齢で基礎疾患の増悪などリスクが高いと考え、医師と直接話すことにしました。なお、過去にPPIやH2受容体拮抗薬を服用していたかどうかは、薬歴やお薬手帳を確認しても不明でした。処方提案と経過同行時、この患者さんの部屋に入る前に医師に処方内容について相談がある旨を伝え、時間をもらいました。そこで、陳旧性心筋梗塞を基礎疾患として低用量アスピリンの服用を継続しているため、消化性潰瘍の支持療法の検討は必要かどうかを確認しました。現在はとくに自覚症状もなく困っているわけではありませんが、もし低用量アスピリン服用による消化性潰瘍を併発した場合にクリティカルになりかねず、患者さんもできるだけ長く施設で余生を過ごしたいと思っていることを伝えたところ、医師よりそもそもの消化性潰瘍の予防薬が入っていないことを見落としていたと返答がありました。そこで、併用薬についてはPPIのランソプラゾール口腔内崩壊錠15mgの処方追加を提案しました。H2受容体拮抗薬を提案しなかったのは、高齢者においては認知機能低下の懸念があり、この患者さんは腎機能が低下(Scr:1.86mg/dL)しているため肝代謝を主としたPPIのほうが望ましいと考えたからです。医師より提案事項の承認を得ることができ、早々にランソプラゾールを開始することになりました。その後、とくに胃部不快感などの症状や、下痢や肝機能障害などのPPIによる有害事象の出現もなく経過しています。Sugano K, et al. J Gastroenterol. 2011;46:724-735.

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消化性潰瘍の予防法が明確に-『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』

 消化性潰瘍全般の国内有病率は減少傾向を示す。しかし、NSAIDs服用患者や抗凝固薬、抗血小板薬服用患者の潰瘍罹患率は増加の一途をたどるため、非専門医による予防対策も求められる。これらの背景を踏まえ、今年6月に発刊された『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』(改訂第3版)では、「疫学」と「残胃潰瘍」の章などが追加。また、NSAIDs潰瘍と低用量アスピリン(LDA:low-dose aspirin)潰瘍の予防に対するフローチャートが新たに作成されたり、NSAIDsの心血管イベントに関する項目が盛り込まれたりしたことから、ガイドライン作成委員長を務めた佐藤 貴一氏(国際医療福祉大学病院消化器内科 教授)に、おさえておきたい改訂ポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で加わった内容 消化性潰瘍診療ガイドライン2020では、主に治療や予防に関する疑問をCQ(clinical question)28項目、すでに結論が明らかなものをBQ(background question)61項目、今後の研究課題についてFRQ(future research question)1項目に記載し、第2版より見やすい構成になっている。CQとFRQにはそれぞれ「出血性潰瘍の予防」「虚血性十二指腸潰瘍の治療法」に関する内容が加わった。佐藤氏は、「NSAIDs潰瘍やLDA潰瘍の治療、とくに予防においてはフローチャートに基づき、プロトンポンプ阻害薬(PPI)による適切な対応をしていただきたい」と話した。 続いて、高齢者診療で慢性胃炎、他剤の副作用回避のために処方されることが多いPPIやヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)の長期処方時に注意すべきポイントについては、「PPI服用による、肺炎、認知症、骨折などの有害事象が観察研究では危惧されているが、昨年報告された3年間にわたるPPIとプラセボ投与の大規模無作為化試験1)で有意差が見られたのは腸管感染症のみだった。とはいえ、必要以上に長期にわたってPPIを投与するのは避けるべき」と漫然処方に対し注意喚起した。一方で、H2RAは、せん妄など中枢神経系の副作用が高齢者でみられることが報告され注意が必要なため、「PPIやH2RAの有害事象を今後のガイドラインに盛り込むかどうか検討していきたい」とも話した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で強く推奨された服用例 H.pylori陰性、NSAIDsの服用がない患者で生じる特発性潰瘍は増加傾向を示し、2000~03年の潰瘍全体の中の頻度は約1~4%であったのが、2012~13年には12%となっている。同じくLDA服用者において、Nakayama氏ら2)が2000~03年と2004~07年の出血性潰瘍症例を比較した結果、 LDA服用者の比率が9.9%から18.8% へと有意に増加(p=0.0366)していたことが明らかになった。この背景について、同氏は「LDA服用例に消化性潰瘍や出血性潰瘍の予防がなされていなければ、それらの患者はさらに増加する恐れがある。LDA服用例の出血性胃潰瘍症例は2000年代前半より後半で有意に増加したと報告されている」とし、「すでに循環器内科医の多くの方はPPIを用いた潰瘍予防を行っている。今後は消化性潰瘍既往のある患者はもちろん、既往のない場合は保険適用外のため個別の症状詳記が必要になるが、高齢者にはPPI併用による潰瘍予防策を講じていただきたい」と話した。消化性潰瘍診療ガイドラインでは、抗血小板2剤併用療法(DAPT)時にPPI併用による出血予防を行うよう強く推奨している。消化性潰瘍診療ガイドライン2020でおさえておきたい項目 今回の消化性潰瘍診療ガイドライン2020の改訂でおさえておきたいもう1つのポイントとして、「BQ5-13:NSAIDsは心血管イベントを増加させるか?」「CQ5-14:低用量アスピリン(LDA)服用者におけるCOX-2選択的阻害薬は通常のNSAIDsより潰瘍リスクを下げるか?」の項目がある。NSAIDsの心血管イベントの有害事象については、これまでナプロキセン(商品名:ナイキサン)服用者のリスクが低いとされてきた。しかし、今回の文献検討では必ずしもそうではなかったと同氏は話した。「潰瘍出血のNSAIDsとLDA服用例で、セレコキシブ(商品名:セレコックス)+PPI群とナプロキセン+PPI併用群の上部消化管出血再発を比較したRCT3)では、セレコキシブ群で再発率が有意に低く心血管イベントの発生には差を認めなかったため、LDA服用の心血管疾患例でNSAIDs併用投与時にはセレコキシブ+PPIが有用」と説明。また、セレコキシブの添付文書には心血管疾患者への投与は禁忌とあるが、これは冠動脈バイパス術の周術期患者のみに該当し、そのほかの心血管患者は慎重投与であることから、個々の患者の状態に応じた柔軟な治療選択を提唱した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020の治療フローチャート このほか、消化性潰瘍の治療フローチャートには治療に残胃潰瘍、特発性潰瘍の診断が消化性潰瘍診療ガイドライン2020に追加された。残胃潰瘍とは、外科的胃切除術後の残胃に生じる潰瘍を示す病態だが、現時点では有病率のデータはない。同氏は「近年では残胃で潰瘍を経験するなど実臨床で遭遇する機会が増えているため、新たに章立てしフローチャートに追加した。胃亜全摘術後の胃と小腸の吻合部分の潰瘍は吻合部潰瘍として知られており、これまで吻合部潰瘍が取り上げられていた。しかし、吻合部だけでなく、残胃内に潰瘍が生じることが多いため、今回取り上げた。その中にはNSAIDs潰瘍もあるが、ピロリ陽性、陰性の潰瘍もある」とコメントした。 最後に佐藤氏は「日常診療において、ピロリ菌除菌時に処方される薬剤、とくにクラリスロマイシンは併用注意薬や併用禁忌薬が多い。そのため、患者の紹介を受けた際には常用薬に該当薬剤が含まれていないか注意しながら治療選択を進めている」と、消化器潰瘍の診察時ならではの見逃してはいけないポイントを話した。

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血圧コントロール不良を契機に漫然投与のNSAIDsを卒業【うまくいく!処方提案プラクティス】第25回

 今回は、血圧上昇を理由にNSAIDsの中止を提案したケースを紹介します。高齢者では、骨折や転倒などによる受傷、手術を契機にNSAIDsが開始となり、そのまま漫然と投薬を続けていることは少なくありません。薬剤師は服薬開始日や理由を薬歴などに記録し、長期的に服用を続ける必要があるかどうかを医師と共同モニタリングしましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患高血圧症、不眠症既往歴75歳時に大腿骨頸部骨折、60歳時に鼠径ヘルニア手術訪問診療の間隔2週間に1回服薬管理施設看護師が管理処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.エナラプリル錠5mg 1錠 分1 朝食後3.酸化マグネシウム錠 500mg 2錠 分2 朝夕食後4.セレコキシブ錠100mg 2錠 分2 朝夕食後5.レバミピド錠100mg 2錠 分2 朝夕食後6.ピコスルファートナトリウム錠2.5mg 1錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんは、普段から穏やかでおとなしい性格で、訪問診療時の血圧は140〜150/80〜90くらいで推移していました。セレコキシブが処方されていますが、日中や夜間の疼痛の訴えはなく、疼痛コントロールは安定していました。長期的にNSAIDsを服用すると、腎機能低下や胃潰瘍などのリスクがあるため、いつからセレコキシブを服用していて、いつまで服用しなければならないのか気になっていました。そのさなか、訪問診療時に血圧が158/96と高めの日があり、医師より降圧薬を追加するのはどうかと相談がありました。そこで、いくつか懸念事項があったので下記のように考えをまとめました。血圧上昇のアセスメント降圧薬を単に追加するのではなく、現行の治療薬で何か血圧に影響しているものはないかを検証することが先決です。そこで、真っ先にNSAIDsであるセレコキシブによる影響を考えました。セレコキシブは、過去の骨折の際に処方が開始となり、変更なくそのまま服用していることをお薬手帳や施設看護師から情報収集しました。通常、NSAIDsはアラキドン酸からプロスタグランジンへの産生を抑制し、水やNaの貯留と血管拡張抑制による影響から血圧を上昇させる可能性があります。血圧への影響や長期的な腎機能障害への影響については、COX-2選択的阻害薬でも非選択的NSAIDsと効果は同等といわれています。さらに、セレコキシブは長期間にわたって酸化マグネシウムと併用されていますが、AUCこそ変動はないものの、併用によってCmaxが低下するため、薬効低下が生じて十分な治療効果が得られていない可能性もあります。そこで、現在疼痛コントロールも安定していることと、血圧上昇の影響も考慮して、セレコキシブを中止する提案をすることにしました。処方提案と経過医師より降圧薬追加の相談を受けて、セレコキシブを中止することで血圧が安定する可能性があることを上記の考察を添えて回答しました。医師が長期間使っていた治療薬を中止することで患者さんの状態が変化することを懸念したため、セレコキシブを中止する代わりにアセトアミノフェン錠500mg 1錠/回 疼痛時の頓用を提案し、承認を得ることができました。セレコキシブと胃粘膜障害を防ぐために併用されていたレバミピドを中止した後も疼痛増悪はなく、アセトアミノフェン錠を服用することなく経過しました。血圧も130〜140/70〜80で落ち着いて推移しているため、その後も降圧薬を追加することなく患者さんは安定した状態を維持しています。1)セレコックス錠100mg/200mg 添付文書2)北村和雄. 宮崎医学会誌. 2008;32:1-5.

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アドヒアランス不良でアセトアミノフェン分3から変更提案した薬剤は?【うまくいく!処方提案プラクティス】第23回

 今回は、アセトアミノフェンの複数回投与が開始になったものの、アドヒアランス不良のため疼痛コントロールが困難であった症例です。良好な疼痛コントロールとアドヒアランスを得るために提案した代替薬とその根拠を紹介します。患者情報93歳、男性(在宅)基礎疾患:うっ血性心不全、右被殻出血(左麻痺あり)、前立腺肥大症、高尿酸血症訪問診療の間隔:2週間に1回服薬管理:お薬カレンダーで管理し、ヘルパーによる毎日の訪問介護時に服薬処方内容1.タムスロシン塩酸塩錠0.2mg 1錠 分1 夕食後2.ボノプラザン錠10mg 1錠 分1 夕食後3.トリクロルメチアジド錠1mg 1錠 分1 夕食後4.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 夕食後5.センノシド錠12mg 2錠 分1 夕食後6.クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 2錠 分1 夕食後7.アセトアミノフェン錠200mg 6錠 分3 朝昼夕食後8.ピコスルファート内用液0.75% 便秘時 就寝前7〜8滴本症例のポイントこの患者さんは、脳出血後の左麻痺によって手先の不自由さがあり、ほぼベッド上で生活していました。そのため、服薬回数をすべて1日1回で統一して一包化し、毎日夕方の訪問介護の時間に服薬していました。ところが先日、トイレへ移動する際に転倒して受傷し、睡眠時や排泄時の疼痛のため、アセトアミノフェン錠200mg 6錠 分3 毎食後が開始となりました。朝・昼のアセトアミノフェンは、ヘルパーさんが夕方の訪問介護時にベッド近くに置いておいて、患者さんご自身で服薬することになりました。しかし、2回分を重複して服用したり服薬を忘れてしまったりと服薬アドヒアランスが維持できず、疼痛が管理できないという問題がありました。同じタイミングでケアマネジャーから、薬をなんとか1回にまとめられないものかと相談があり、アセトアミノフェンの変更提案を検討することにしました。1日1回の服用に適したNSAIDsを検討1日複数回服用することで重複投薬のリスクがあり、飲み忘れによって疼痛コントロールも不十分であるため、ほかの定期薬に合わせて服用できる鎮痛薬を検討しました。ここで候補に挙がったのは長時間作用型NSAIDsのメロキシカムです。長時間作用型という性質上、1日1回で疼痛コントロールできることに加え、服薬回数の負担も軽減できることから当該患者さんの処方薬として妥当だと考えました。半減期が長いため、高齢者や腎・肝機能が低下している場合は注意が必要ですが、この患者さんは心不全の状態が安定していて、直近の検査結果からも腎機能は年齢相応(Scr:0.78mg/dL、eGFR:57.8mL/min/1.73m2)で大きな悪化もないことから薬物有害事象の懸念は少ないと考えました。処方提案と経過医師に上記内容をトレーシングレポートで相談したところ、疼痛コントロールもしっかり行う必要があるが、誤薬のリスクを下げるためにも変更しようと了承いただきました。提案当日に変更対応となり、アセトアミノフェン錠の回収とメロキシカム錠10mgを夕食後投与としてカレンダーにセットしました。そして、患者さんとヘルパーさんへ鎮痛薬の変更があることを説明し、今後は朝・昼の薬はなくなることをお伝えしました。患者さんも複数回の服薬や飲み忘れ、重複投薬のことを気にしていたので、今回の変更を受けて安心していました。その後、患者さんは疼痛コントロールも良好で、疼痛による苦痛も有害事象もなく生活を続けています。

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第14回 治療編(1)薬物療法【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第14回 治療編(1)薬物療法今回は、治療編として薬物療法に焦点を当てて解説していきたいと思います。「痛み」の原因の分類で、炎症性疼痛があります。何らかの原因で炎症症状が発現し、それによって発痛物質が作り出されると、それが神経の痛み受容器を刺激する結果として、患者さんは痛みを訴えて受診されます。末梢性炎症性疼痛に対する治療薬として使用されるのが、NSAIDs、ステロイド性抗炎症薬です。アセトアミノフェンはNSAIDsとは異なる作用機序ではありますが、比較的よく用いられております。痛み治療第1段階の薬物療法3種まず、痛み治療の第1段階で頻繁に用いられているNSAIDsから説明しましょう。NSAIDs(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)1)作用機序アラキドン酸カスケードのシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase:COX)系の働きを抑制することで、プロスタグランジン(prostaglandin:PG)E2の生産を減少させ、抗炎症作用、血管収縮作用などにより鎮痛作用を示します。末梢性に効果を発揮するため、炎症や腫脹が見られる時に、とくに効果があります。2)投与上の注意COXには、全身の細胞に常在する構成型酵素のCOX-1と、炎症によって生じるサイトカインの刺激によって炎症性細胞に発現する誘導型酵素のCOX-2が存在します。COX-1由来のPGが胃粘膜の血流維持や粘液産生増加、腎血流維持に働いており、通常のNSAIDsを使用する場合には、COX-1阻害作用によって胃潰瘍や消化管出血、腎血流障害などを生じる可能性があります。一方、選択的COX-2阻害薬は、COX-2由来の血小板凝集阻止作用を有するプロスタサイクリン産生を減少させ、トロンボキサン(thromboxane:TX)A2の産生を維持するため、血圧上昇や動脈硬化、血栓形成を促進させる可能性があります。そのため、活動性の動脈硬化病変がある不安定狭心症、心筋梗塞、脳血管虚血症状を有する患者さんに投与する場合は、できるだけCOX-2阻害薬を避けることが望ましいです。以下、主なNSAIDsと投与量を示します(図)。画像を拡大するステロイド性抗炎症薬1)作用機序ステロイドはリポコルチンの生合成を促進して、ホスホリパーゼA2の作用を阻害するによって、最終的にCOX-2やサイトカインの生成を抑制し、鎮痛効果を発揮します。2)投与上の注意局所炎症、神経圧迫や神経損傷による急性疼痛に対しては有用ではありますが、慢性疼痛に対する効果の持続は限定されます。経口投与では、プレドニゾロン20~30mg/日で開始し、1週間程度で治療効果が得られなければ、漸次減量していきます。硬膜外腔投与にはデキサメタゾン2~8mg、関節内投与には同0.8~2mgを投与します。アセトアミノフェン1)作用機序NSAIDsとは異なり、中枢系プロスタノイドの抑制、内因性下行性疼痛抑制系の活性化、内因性オピオイドの増加などによる鎮痛機序が推測されています。本薬には末梢性消炎作用は存在しないために、炎症性疼痛に対してはNSAIDsの短期間投与が推奨されています。2)投与上の注意最近、安全性の高さから1日最大投与量が4,000mgと規定されました。しかしながら、最大量のアセトアミノフェンを長期投与する場合には、肝機能への影響が懸念されるため、経時的な肝機能のモニタリングに留意する必要があります。通常開始量は325~500mg を4時間ごと、500~1000mgを6時間ごとに最大量4,000mgとして投与します。高血圧や心筋梗塞、虚血性心疾患、脳卒中、などの心血管疾患系のリスクを有する患者さんで筋骨格系の痛み治療が必要になった場合には、アセトアミノフェンやアスピリンが薦められています。これらが無効な場合にはNSAIDsを考慮します。その際は、プロトンポンプインヒビターなど胃粘膜保護薬を消化管出血の予防に使用します。以上、痛み治療の第1段階における薬物を取り上げ、その作用機序、投与における注意点などを述べました。読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S152-1532)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S1543)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S167

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第19回 侮ってはいけない尿路結石【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)鑑別すべき疾患を知ろう!2)まず、エコーをしよう!3)感染症の合併には要注意!【症例】28歳女性。来院当日の昼食時に左下腹部痛を自覚した。生理痛に対して使用していた市販の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服し様子をみていたが、症状が改善しないため救急外来を受診した。特記既往はなく、定期的な内服薬はない。●搬送時のバイタルサイン意識清明血圧128/75mmHg脈拍100回/分(整)呼吸20回/分 SpO299%(RA)体温36.3℃瞳孔2.5/2.5mm +/+既往歴、内服薬:定期内服薬なし尿路結石の診断尿路結石は頻度が高く、誰もが診たことがあるでしょう。自身で罹ったことがある人もいるかもしれません。痛みが強く救急外来を受診するケースも多く、楽な姿勢がないのでのたうち回っているのが典型的です。指圧が有効なこともあり、痛い部分をぐっと親指で圧迫していることもよくありますね。尿路結石の診断は、CTで検査すればつきますが、疑い症例全例に検査するのはお勧めできません。被曝の影響は常に考えておく必要があり、また、鑑別疾患が想起されていなければ、単純もしくは造影CTを検査するべきかは判断できません。CTを検査しないと診断できないのでは、クリニックなどそもそも検査ができない場所では診断ができなくなってしまいます。STONE score(表)表 STONE score -目の前の患者は尿路結石か-画像を拡大する尿路結石症例は複数回経験すれば、“らしさ”を見積もることができるようになるでしょう。実際に診たことがない、または経験が少ない場合には“STONE score”は頭に入れておきましょう(表)。絶対的なものではありませんが、急性発症の痛みを訴える男性が嘔気・嘔吐や血尿を伴う場合にはらしいことがわかります。腹痛に加えて嘔気・嘔吐を認めると、どうしても消化器疾患を考えがちですが、尿路結石も評価することを忘れないようにしましょう。尿路結石の鑑別疾患は?尿路結石の鑑別疾患は多岐に渡りますが、50歳以上では腹部大動脈瘤切迫破裂を、女性では卵巣茎捻転、異所性妊娠を、右側の痛みであれば虫垂炎や胆石、胆管・胆嚢炎は、必ず意識するようにしましょう。腎梗塞など他の疾患も鑑別に挙がりますが、重症度や緊急度の問題から、前述したものを考え初療にあたることをお勧めします。必要な検査は?:尿検査も大切だが、エコーは超大事尿潜血陽性は、尿路結石を確定させるものではありません。切迫破裂や虫垂炎でも陽性になることはあります。STONE scoreにも含まれており、“らしさ”を見積もる根拠とはなりますが、いかなる検査も検査前確率が重要であって、検査の陽性・陰性のみを理由に疾患を確定・除外できるものではありません。尿路結石らしさを裏付ける検査と共に、鑑別すべき疾患を除外することが必要です。腹部大動脈瘤は破裂してしまうと判断は難しいですが、大動脈瘤を検出するにはエコーが有用です。また、手術が必要な異所性妊娠や卵巣茎捻転ではモリソン窩の液体貯留などをFAST※を施行し確認することが大切です。エコーは非侵襲的かつ迅速に施行可能な検査であり、腹痛患者では必須の検査といえるでしょう。尿路結石の場合には、石自体をエコーで確認することは難しいですが、水腎症を認めることは少なくありません。疼痛部位に一致した側の水腎症を認める場合には、尿路結石らしさが非常に増します。尿路結石? と思ったら鑑別疾患を意識してエコーをあてましょう。※FAST:focused assessment with sonography for trauma尿検査でわかることも多い尿検査は潜血の有無だけでなく、確認すべきことがあります。鑑別疾患を意識すればわかると思いますが、女性では妊娠の可能性を考えておく必要があります。妊娠反応が陽性か否かで、鑑別疾患は異なり、対応も変わるため常に意識しておきましょう。全例に妊娠反応を検査する必要はありませんが、否定できない場合には行うべきでしょう。もう1点、意識しておくべきこととして、感染の関与があげられます。腎盂腎炎は抗菌薬のみで治療可能なことが多いですが、尿路結石など閉塞機転が存在する場合には、いくら広域な抗菌薬を選択しても状態は悪化します。感染の関与を示唆する発熱や呼吸数の増加、悪寒戦慄などを伴う場合には泌尿器科医などと連携し、外科的介入も考慮することを忘れないようにしましょう。CTは尿路結石の既往がある非高齢者では、上記のような合併症がなければ撮影する必要はありません。しかし、エコーでその他の疾患が疑わしく、エコーで確定できない場合には撮影します。また、初発で結石の位置や大きさの把握が必要な場合には撮影も考慮します。常に検査をオーダーするときには、なんのために施行するのかを意識することが重要です。さいごに尿路結石は救急外来など外来診療において非常に頻度の高い疾患です。多くはNSAIDsで症状は改善し、事なきを得ることが多いですが、尿路結石のようでそうではない重篤な疾患であることや、敗血症を伴うことも少なくありません。根拠をもって対応できるように今一度整理しておきましょう。尿路結石の既往がある非高齢者では、発熱などの合併症がなければCTは検査するべきではありません。1)Moore CL, et al. BMJ.2014;348:g2191.

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慢性膵炎に伴う疼痛に対して内視鏡的治療か早期の外科的治療か?(解説:上村直実氏)-1203

 「慢性膵炎に伴う腹痛」に対する治療に関しては、最初に内科的保存治療(脂肪制限食+禁酒+NSAIDs、制酸剤+高用量膵酵素)が施行され、その無効例に対して砕石目的のESWLと主に狭窄部の拡張を目的とした内視鏡的治療(ステント装着および結石除去)が優先され、内視鏡的治療の無効例や再発例に対して外科的治療を選択することが一般的とされていたが、最近報告された観察研究やRCTの結果から外科的治療の有用性が見直されており、今回実施されたオランダの多施設共同RCTの結果、内視鏡的治療を先行して行う方法に比べて早期に実施する外科的治療のほうが、優れた疼痛緩和効果を示したことが再確認されている(Issa Y, et al. JAMA. 2020;323:237-247.)。 日本の『慢性膵炎診療ガイドライン2015』において「ESWLを含む内視鏡的治療は、慢性膵炎の腹痛に対して短期的にはきわめて有効であり長期的にも有効性を示すため、行うことを提案する」と、早期の内視鏡的治療を施行する有用性が記述されている。一方で「膵管の強い狭窄や屈曲蛇行などにより内視鏡的治療が容易ではないと予測される症例では起こりうる偶発症や治療期間も考慮に入れたうえで、当初より外科的治療を含めて治療方針を慎重に検討する必要がある」、さらに「慢性膵炎における膵管ステント治療の継続期間は1年前後をひとつの基準とし、無効例や腹痛が再燃する症例では外科的治療を考慮することを提案する」と、症例によっては早期の外科的治療を推奨している。以上、短期的な内視鏡的治療の有用性は明らかであるが、長期的な視野に立てば、症例によって、早期の外科的治療が考慮されるべきだと思われる。 「本論文において内視鏡的治療群の多くで内視鏡的手技が難しいために膵管の拡張を得られなかった」という成績は重要である。わが国の診療現場においても、種々の内視鏡的治療成績は技術的な施設間や術者間の格差に大きく影響されることが明白であり、今後、内視鏡的手術などの一定以上の専門技術を要する手技の有用性を検討する場合に、「施設間・術者間の技術格差」因子を加味する方法を考慮しなければならない場合もあると思われた。

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クローン病〔CD : Crohn’s disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クローン病(Crohn’s disease: CD)は消化管の慢性肉芽腫性炎症性疾患であり、発症原因は不明であるが、免疫異常などの関与が考えられる。小腸、大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め、腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態を生じる。■ 疫学主として若年者(10代後半~30代前半)に好発する。年々増加傾向にあり、わが国のCDの有病率は最近15年間で約4倍に増加、患者数4万人以上と推測され、日本では1.8:1.0の比率で男性に多い。現在も増加していると考えられる。■ 病因原因はいまだ不明であるが、遺伝的素因と食事などの環境因子の両者が関与し、消化管局所の免疫学的異常により、慢性の肉芽腫性炎症が持続する多因子疾患である。喫煙が増悪因子とされている。ほかに長鎖脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、精製糖質の過剰摂取などが増悪因子として想定されている。■ 症状主症状は腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)である。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。検査値の異常として、炎症所見(白血球数、CRP、血小板数、赤沈)の上昇、低栄養(血清総蛋白、アルブミン、総コレステロール値の低下)、貧血を示す。■ 分類正しい治療を考える上で、病変部位、疾患パターン、活動度・重症度の把握が重要である。病変部位は小腸型、小腸大腸型、大腸型の3つに大きく分類される。日本では小腸型20%、小腸大腸型50%、大腸型30%とされている。疾患パターンとして炎症型、狭窄型、瘻孔形成型の3通りに分類することが国際的に提唱されている。さらに疾患活動性として、症状が軽微もしくは消失する寛解期と、症状のある活動期に分けられる。重症度を客観的に評価するために、CD活動指数CDAI(表1)、IOIBDなどがあるが、日常診療に適した重症度分類は現在のところまだないため、患者の自覚症状、臨床所見、検査所見から総合的に評価する。画像を拡大する■ 予後CDは再燃、寛解を繰り返し慢性に経過する疾患である。病初期は消化管の炎症が中心であるが、徐々に狭窄型・瘻孔型へ移行し、手術が必要となる症例が多い。2000年に提唱されたCDの分類法であるモントリオール分類(表2)では発症時年齢、罹患範囲、病気の性質により分類されている。病型や病態は罹患期間により比率が変化し、Cosnes氏らは診断時に炎症型が85%であっても、20年後には88%が狭窄型から瘻孔型へ移行すると報告している 。累積手術率は発症後経過年数とともに上昇し、生涯手術率は80%以上になるという報告もある。海外での累積手術率は10年で34~71%である。わが国の累積手術率も、10年で70.8%、初回手術後の5年再手術率は16~43%、10年で26~67%と報告されている。とくに瘻孔型では手術率、術後再発率とも高くなっている。死亡率に関しては、Caravanらのメタ解析によるとCDの標準化死亡率は1.5(1.3~1.7)と算出されている。死亡率は過去30年で減少傾向にあるが、CDの死亡率比は一般住民よりやや高いとの報告がある。わが国では、やや高いとする報告と変わらないとする報告があり、死亡因子としては肝胆道疾患、消化管がん、肺がんが挙げられている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準厚生労働省の診断基準(表3)に沿って診断を行う。2018年に改訂した診断基準(案) ではCDAI(Crohn’s disease activitiy index)や合併症、炎症所見、治療反応に基づくECCO(European Crohn’s and colitis organisation )(表4)の分類に準じた重症度分類(軽症、中等症、重症)が記載されている。画像を拡大する■ 診断の実際若年者に、主症状である腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)が続いた場合CDを念頭に置く。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。血液検査にて炎症所見、低栄養、貧血がみられたら、CDを疑い終末回腸を含めた下部消化管内視鏡検査および生検を行う。診断基準に含まれる特徴的な所見および生検組織にて、非乾酪性類上皮肉芽腫が検出されれば診断が確定できる。病変の範囲、治療方針決定のためにも、上部消化管内視鏡検査、小腸X線造影検査を行うべきである。CDと鑑別を要する疾患として、腸結核、腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍、感染性腸炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎などがあるため、服薬歴の確認・便培養・ツベルクリン反応およびクォンティフェロン(QFT)、病理組織検査を確認する。診断のフローチャートを図に示す。画像を拡大する1)画像検査所見(1)下部消化管内視鏡検査、小腸バルーン内視鏡検査検査前に、問診やX線にて強い狭窄症状がないか確認する。60~80%の患者では大腸と終末回腸が罹患する。病変は非連続性または区域性に分布し、偏側性で介在部はほぼ正常である。活動性病変として、縦走潰瘍と敷石像が特徴的な所見である。小病変としてはアフタや不整形潰瘍が認められる。(2)上部消化管内視鏡検査胃では、胃体上部小弯側の竹の節状外観、前庭部のたこいぼびらん・不整形潰瘍が認められる。十二指腸では、球部と下行脚に好発し、多発アフタ、不整形潰瘍、ノッチ様陥凹、結節状隆起が認められる。(3)消化管造影検査(X線検査)病変の大きさや分布、狭窄の程度、瘻孔の有無について簡単に検査ができる。所見の特徴は、縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、瘻孔、非対称性狭窄(偏側性変形)、裂孔、および多発するアフタがある。(4)その他近年、機器の性能向上および撮影技法の開発により、超音波検査、CT、MRIにより腸管自体を詳細に描出することが可能となった。小腸病変の診断に、経口造影剤で腸管内を満たし、造影CT検査を行うCT enterography(CTE)や、MRI撮影を行うMR enterography(MRE)が欧米では広く用いられており、わが国の一部の医療施設でも用いられている。撮影法の工夫により大腸も同時に評価ができるMR enterocolonography(MREC)も一部の施設では行われており、検査が標準化されれば、繰り返し行う場合も侵襲が少なく、内視鏡が到達できない腸管の評価にも有用と考えられる。2)病理検査所見CDには病理診断上、絶対的な基準となるものがなく、種々の所見を組み合わせて診断する。生検診断をするにあたっては、その有無を多数の生検標本で連続切片を作成し検討する。組織学的所見として重要なものは(1)全層性炎症像、(2)非乾酪性類上皮肉芽腫の検出、(3)裂溝、(4)潰瘍である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)CDは発症原因が不明であり、経過中に寛解と再燃を繰り返すことが多い。CDの根治的治療法は現時点ではないため、治療の目標は病勢をコントロールし、炎症を繰り返すことによる患者のQOL低下を予防することにある。そのため薬物療法、栄養療法、外科療法を組み合わせて症状を抑えるとともに、栄養状態を維持し、炎症の再燃や術後の再発を予防することが重要である。■ 内科治療(主に薬物治療として)活動期の治療と寛解期の治療に大別される。活動期CDの治療方針は、疾患の重症度、病変範囲、合併症の有無、患者の社会的背景を考慮して決定する。初発のCDでは、診断および病変範囲、重症度の確定と疾患に関する教育や総合的指導のため、専門医にコンサルトすることが望ましい。また、ステロイド依存や免疫調節薬の投与経験がない場合においても、生物学的製剤の投与に関しては専門医にコンサルトすべきである。わが国における平成30年度 CD治療指針、および各治療法の位置づけ(表5)を示す。画像を拡大する1)5-ASA製剤CDに適応があるのはメサラジン(商品名:ペンタサ)、サラゾスルファピリジン(同:サラゾピリン)の経口薬である。治療指針においては軽症~中等症の活動期の治療、寛解維持療法、術後再発予防のための治療薬として推奨されている。CDの寛解導入効果および寛解維持効果は限定的であるが有害性は低い。腸の病変部に直接作用し炎症を抑えるため、製剤の選択には薬剤の放出機序に注意して病変範囲によって決める必要がある。2)ステロイド(GS)5-ASA製剤無効例、全身症状を有する中等症以上の症例で寛解導入に有効である。関節症状、皮膚症状、眼症状などの腸管外合併症を有する場合や、発熱、CRP高値などの全身症状が著明な場合は、最初からステロイドを使用する。寛解維持効果はないため、副作用の面からも長期投与は避けるべきである。ステロイド依存となった場合は、少量の免疫調節薬(アザチオプリン〔AZA〕、6-メルカプトプリン〔6-MP〕)を併用し、ステロイドからの離脱を図る。軽症あるいは中等症例の回盲部病変の寛解導入には、全身性副作用を軽減し局所に作用するブデソニド(同:ゼンタコート)9mg/日の投与が有効である。3)免疫調節薬(AZA、6-MPなど)免疫調節薬として、AZA(同:イムラン、アザニン)、6-MP(同:ロイケリン)が主なものであり、AZAのみ保険適用となっている。AZAと6-MPは寛解導入、寛解維持に有効であり、ステロイド減量効果を有する。欧米の使用量はAZA 2.0~3.0mg/kg/日、6-MP 50mg/日または1.5mg/kg/日であるが、日本人は代謝酵素の問題から用量依存性の副作用が生じやすく、欧米より少量のAZA(50~100mg/日)、6-MP(20~50mg/日)が投与されることが多い。チオプリン製剤の副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛がNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとされている。2019年2月よりNUDT15遺伝子多型検査が保険適用となっており、初回チオプリン製剤治療前には本検査を施行し、表6に従ってチオプリン製剤の適応を判断することが推奨される。AZA/6-MPの効果発現は緩徐で2~3ヵ月かかることが多いが、長期に安定した効果が期待できる。適応としてステロイド減量効果、難治例の寛解維持目的、瘻孔病変、術後再燃予防、抗TNF-α抗体製剤を使用する際の相乗効果があげられる。画像を拡大する4)抗体製剤(1)抗TNF-α抗体製剤わが国ではインフリキシマブ(同:レミケード)、アダリムマブ(同:ヒュミラ)が保険適用となっている。抗TNF-α抗体製剤は、CDの寛解導入、寛解維持に有効で外瘻閉鎖維持効果を有する。適応として、中等症~重症のステロイド・栄養療法が無効な症例、重症例で膿瘍や狭窄がない治療抵抗例、抗TNF-α抗体製剤で寛解導入された症例の寛解維持療法、膿瘍がコントロールされた肛門病変が挙げられる。早期に免疫調節薬と併用での導入が治療成績がよいとの報告があるが、副作用と医療費の問題もあり、全例導入は避けるべきである。早期導入を進める症例として、肛門病変を有する症例、穿孔型の症例、若年発症が挙げられる。(2)抗IL12/23p40抗体製剤2017年5月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてウステキヌマブ (同:ステラーラ)が使用可能となっている。導入時のみ点滴静注(体重あたり、55kg以下260㎎、55kgを超えて85kg以下390㎎、85kgを超える場合520㎎)、その後は12週間隔の皮下注射もしくは活動性が高い場合は8週間隔の皮下注射であり、投与間隔が長くてもよいという特徴がある。また、安全性が高いことも特徴である。腸管ダメージの進行があまりない炎症期の症例に有効との報告がある。肛門病変への効果については、まだ統一見解は得られていない。(3)抗α4β7インテグリン抗体製剤2018年11月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてベドリズマブ (同:エンタイビオ)が使用可能となっている。インフリキシマブ同様0週、2週、6週で投与後維持療法として8週間隔の点滴静注 (30分/回)を行う。抗TNF-α抗体製剤failure症例よりもnaive症例で寛解導入および維持効果を示した報告が多い。日本での長期効果の報告に関してはまだ症例数も少なく、今後のデータ集積が必要である。5)栄養療法活動期には腸管の安静を図りつつ、栄養状態を改善するために、低脂肪・低残渣・低刺激・高蛋白・高カロリー食を基本とする。糖質・脂質の多い食事は危険因子とされている。「クローン病診療ガイドライン(2011年)」では、栄養療法はステロイドとともに主として中等症以上が適応となり 、痔瘻や狭窄などの腸管合併症には無効である。1日30kcal/kg以上の成分栄養療法の継続が再発防止に有効であるが、長期にわたる成分栄養療法の継続はアドヒアランスの問題から困難であることも少なくない。総摂取カロリーの半分を成分栄養剤で摂取すれば、寛解維持に有効であることが示されており、1日900kcal以上を摂取するhalf EDが目標となっている。6)抗菌薬メトロニダゾール、シプロフロキサシンなどの抗菌薬は中等度~重症の活動期の治療薬として、肛門部病変の治療薬として有効性が示されている。病変部位別の比較では小腸病変より大腸病変に対して有効性が高いとされる。7)顆粒球・単球吸着療法(granulocyte/monocyte apheresis: GMA)2010年より大腸病変のあるCDに対しGMAが適応拡大となった。GMAは単独治療の適応はなく、既存治療の有効性が乏しい場合に併用療法として考慮すべきである。施行回数は週1回×5回を1クールとして、最大2クールまで施行する。8)内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilatation: EBD)CDは、経過中に高い確率で外科手術を要する疾患であり、手術適応の半数以上は腸管狭窄である。EBDは手術回避の目的として行われる内視鏡的治療であり、治療指針にも取り上げられている。適応としては、腸閉塞症状を伴う比較的短く(3cm以下)屈曲が少ない良性狭窄で、深い潰瘍や瘻孔を伴わないものである。適応外としては、細径内視鏡が通過する程度の狭窄、強度に屈曲した狭窄、長い狭窄、瘻孔合併例、炎症や潰瘍が合併している狭窄である。■ 外科的治療CDの外科的治療は内科的治療で改善しない病変のみに対して行い、QOLの改善が目的である。腸管病変に対する手術では、原則として切除をなるべく小範囲とし、小腸病変に対しては可能な症例では狭窄形成術を行い、腸管はなるべく温存する。5年再手術率16~43%、10年で32~76%と高く、可能な症例では腹腔鏡下手術が有効である。緊急手術、穿孔、広範囲膿瘍形成、複数回の開腹手術既往、腸管外多臓器への複雑な瘻孔などは開腹手術が選択される。厚生労働省研究班治療指針によるCDの手術適応は表7の通りである。完全な腸閉塞、穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症は緊急に手術を行う。狭窄病変については、活動性病変は内科治療、線維性狭窄で口側拡張の著しいもの、短い範囲に多発するもの、狭窄の範囲が長いもの、瘻孔を伴うもの、狭窄症状を繰り返すものは手術適応となる。肛門病変は、難治性で再発を繰り返す痔瘻・膿瘍が外科的治療の対象となる。治療として、痔瘻根治術、シートン法ドレナージ、人工肛門造設(一時的)、直腸切断術が選択される。治療の目標は症状の軽減と肛門機能の保持となる。画像を拡大する4 今後の展望現在、各種免疫を ターゲットとした治験が行われており、進行中の治験を以下に示す。グセルクマブ(商品名:トレムフィア):抗IL-23p19抗体(点滴静注および皮下注射製剤)Upadacitinib:JAK1阻害薬(経口)E6011:抗フラクタルカイン抗体(静注)Filgotinib:JAK1阻害薬(経口)BMS-986165:TYK2阻害療法(経口)5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関するサイト難病情報センター CD(一般利用者と医療従事者向けの情報)東京医科歯科大学消化器内科 「潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター」(一般利用者向けの情報)JIMRO IBD情報(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会に関するサイトIBDネットワーク(IBD患者と家族向け)1)日比紀文 監修.クローン病 新しい診断と治療.診断と治療社; 2011.2)難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループ 日本消化器病学会クローン病診療ガイドライン作成委員会・評価委員会.クローン病診療ガイドライン: 2011.3)NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編.潰瘍性大腸炎の診療ガイド. 第2版.文光堂; 2011.4)日比紀文.炎症性腸疾患.医学書院; 2010.5)渡辺守.IBD(炎症性腸疾患を究める). メジカルビュー; 2011.公開履歴初回2013年04月11日更新2020年03月09日

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若年性特発性関節炎〔JIA:juvenile idiopathic arthritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義若年性特発性関節炎(juvenile idiopathic arthritis:JIA)は、滑膜炎による関節の炎症が長期間繰り返す結果、関節軟骨および骨破壊が進行し関節拘縮や障害を引き起こすいまだ原因不明の慢性の炎症性疾患であり、小児期リウマチ性疾患の中で最も頻度が多い。「16歳未満で発症し、6週間以上持続する原因不明の関節炎で、他の病因によるものを除外したもの」と定義されている1)(表)。表 JIAの分類基準(ILAR分類表、2001、Edmonton改訂)画像を拡大する■ 疫学本疾患の頻度は、わが国では海外の報告と同程度の小児人口10万人対10〜15人といわれ、関節リウマチの1/50~1/100程度である。■ 病因、発症病理各病型により病態が大きく異なることが知られている。全身型は、自己免疫よりも自己炎症の要素が強い。関節型に包含される少関節型やリウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)陽性多関節型は、自己抗体の頻度が高く液性免疫の関与が強い。RF陰性多関節型や腱付着部炎関連型ではHLA遺伝子多型の関与が示されている。いずれも活性化したT細胞やマクロファージが病態に深く関わっていると推測されている。また、家族歴が参考となる病型を除き、通常家族性発症は認めない。近年、炎症のメカニズムについての知見が集積し、関節炎の炎症病態形成における炎症性サイトカインの関与が認識されるようになった。全身型ではインターロイキン(interleukin:IL)-1βとIL-6が、関節型では腫瘍壊死因子(tumornecrosis factor:TNF)-α、IL-1β、IL-6のいずれもが、炎症の惹起・維持に主要な役割を果たしている。現在治療として重要な地位を占める生物学的製剤の臨床応用が、全身炎症と関節炎症における個々のサイトカインの役割について重要な示唆を与えている。■ 症状1)全身型発熱、関節痛・関節腫脹、リウマトイド疹、筋肉痛や咽頭痛などの症状を呈する。3割は発症時に関節症状を欠く。マクロファージ活性化症候群(macrophage activation syndrome:MAS)(8%)、播種性血管内凝固症候群(5%)などの重篤な合併症に注意を要する。2)関節型(1)少関節型関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりなどに加え、ぶどう膜炎の合併が見られる。少関節型に伴うぶどう膜炎は女児、抗核抗体(antinuclear antibody:ANA)陽性例に多く無症候性で前部に起こり、放置すれば失明率が高い(15~20%)。5〜10年の経過では、3割が無治療、5割が無症状であった。ぶどう膜炎は10〜20%に認め、関節炎発症後5年以内に発病することが多い。関節機能は正常~軽度障害が98%で、最も関節予後はよい。(2)多関節型(RF陰性)関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりに加え、4割で発熱を認める。5〜10年の経過では、3割が無治療で4割が無症状であった。関節可動域制限や変形を認める例があるものの、95%が関節機能正常~軽度障害と、少関節型に次いで関節予後はよい。(3)多関節型(RF陽性)この病型は関節リウマチに近い病態である。関節痛・関節腫脹・可動域制限・朝のこわばりが著明で、初期にすでに変形を来たしている例もある。皮下結節は2.5%と欧米の報告(30%)に比べ少ない。5〜10年の経過では、無治療はわずか8%で、無症状は3割とほとんどの患者が治療継続し、症状も持続していた。可動域制限を7割、変形を2割で認め、16%に中等度~重度の関節機能障害を認める。■ 分類疾患は、原因不明の慢性関節炎を網羅するため7病型に分けられているが、病型ごとの頻度は図1に示した通りである2)。ここでは、わが国の小児リウマチ診療の実情に合わせ、本疾患群を病態の異なる「全身型」(弛張熱、発疹、関節症状などの全身症状を主徴とし、症候の1つとして慢性関節炎を生じる)、「関節型」(関節炎が病態の中心となり、関節滑膜の炎症による関節の腫脹・破壊・変形を引き起こし機能不全に陥る)の2群に大別して考えていくことにする。また、乾癬や潰瘍性大腸炎などに併発して、二次的に慢性関節炎を呈するものは「症候性」と別に分類する。図1 JIA発症病型の割合画像を拡大する■ 予後全身型、関節型JIAとも、生物学的製剤が出現する以前は全患者の75%に程度の差はあるが身体機能障害が存在していたものの、普及した後は頻度が明らかに減少した。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)日本小児リウマチ学会と日本リウマチ学会は、共同でJIAの適切な診断と標単的な治療について、わが国の一般小児診療に関わる医師のために「初期診療の手引き2015年版」3)を作成しているので、詳細は成書にてご確認願いたい。1)全身型JIA全身型JIAではIL-6とIL-6受容体が病態形成の核となっていることが判明しており、高サイトカイン血症を呈する代表的疾患である。症状としては、とくに弛張熱が特徴的で、毎日あるいは2日毎に定まった時間帯に38~40℃に及ぶ発熱が生じ、数時間すると発汗とともに解熱する。発熱時は体全体にリウマトイド疹という発疹が出現し、倦怠感が強く認められる。本病型は、敗血症、悪性腫瘍、特殊な感染症あるいは感染症に対するアレルギー性反応などを除外した上で診断される。検査所見では、左方移動を伴わない好中球優位(全分画の80~90%以上)の白血球数の著増を認め、血小板増多、貧血の進行などが特徴である。赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate:ESR)、CRP値、血清アミロイドA値が高値となる。凝固線溶系の亢進があり、D-ダイマーなどが高値となる。炎症が数ヵ月以上にわたり慢性化すると、血清IgG値も高値となる。フェリチン値の著増例では、MASへの移行に注意が必要である。IL-6/IL-6Rの他に、IL-18も病態形成に重要であることが判明しており、血清IL-18値の著増も特徴的である。関節炎の診断には前述の通り、血清MMP-3値が有用である。鑑別診断として、深部膿瘍や腫瘍性病変が挙げられるが、これらの疾患に対して通常治療薬として使用するグルココルチコイド(glucocorticoid:GC)は疾患活動性を修飾し原疾患の悪化などを来す可能性がある。これらの鑑別のため、画像検査としては18F-FDG-positron emission tomography(PET)やガリウムシンチグラフィーが有用である。全身炎症の強く生じている全身型の急性期には骨髄(脊椎、骨盤、長管骨など)や脾臓への集積が目立つことが多い。2)関節型JIA関節炎が長期に及ぶと関節の変形(骨びらん、関節脱臼/亜脱臼、骨性強直)や成長障害が出現し、患児のQOLは著しく障害される。また、関節変形による変形性関節症様の病態が出現することもある。少関節炎では下肢の関節が罹患しやすく、多関節炎では左右対称に大関節・小関節全体に見られる。関節炎症の詳細な臨床的把握(四肢・顎関節計70関節+頸椎関節の診察)、血液検査による炎症所見の評価(赤沈値、CRP)、血清反応による関節炎の評価(MMP-3、ヒアルロン酸、FDP-E)、病型の判断(RF、ANA)を行う。また、抗CCP抗体は関節型で特異的に検出されるため、診断的意義と予後推定に有用である。関節部位の単純X線検査では、発症後数ヵ月の間は一般的には異常所見は得られないため、有意な所見がなくても本症を否定できない。関節炎が長期間持続した例では、X線検査で関節裂隙の狭小化や骨の辺縁不整などを認める。また、罹患関節の造影MRIにより、関節滑液の貯留と増殖性滑膜炎の存在を確認することも重要である。関節の炎症を検出し得る検査法として、MRIに加え超音波検査が有用である。ただし、発達段階の小児の画像評価を行う際は、成人と異なり、関節軟骨の厚さや不完全骨化に多様性があるため注意して評価する。鑑別疾患として、感染性関節炎、他の膠原病に伴う関節炎、整形外科的疾患(とくに十字靭帯障害)、小児白血病が挙げられる。外来診療で多いのは「成長痛」で、夕方から夜にかけて膝や足関節の痛みを訴えるところがJIAとの相違点である。関節型では関節炎が診察により明確に認められる対称性関節炎であり、関節症状は早朝から午前中に悪化する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 全身型(図2)図2 全身型に対する治療画像を拡大する1)初期対応全身型JIAにおいて非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)で対応が可能な例は確かに存在するが一部の症例に限られる。したがってGCが全身型JIA治療の中心であるが、これまでしばしば大量GCが漫然と長期にわたり投薬されたり、種々の免疫抑制薬も併用され続けたが不応である患児、MASへ病態移行した患児などを診療する機会も多く見受けられた。NSAIDs不応例にはプレドニゾロン(prednisolone:PSL)1~2mg/kg/日が適用される。メチルプレドニゾロン・パルス療法を行い、後療法としてPSL0.5~0.7mg/kg/日を用いると入院期間の著しい短縮に繋がる場合もある。免疫抑制薬としてシクロスポリン、メトトレキサート(methotrexate:MTX)が加えられることもあるが、少なくとも単独で活動期にある全身型の炎症抑制はできず、また併用効果も疑問である。また、関節炎に対しMTXの効果が期待されるが、一般に有効ではない。このことは、関節型JIAと全身型JIAとでは関節炎発症の機序が異なることを示唆している。本病型は、基本的には大量GCだけが炎症抑制効果をもつと考えられてきた。GCは他の薬剤と異なり、副腎という器官が生成する生理的活性物質そのものである。GCの薬理作用はすでに身体に備わっている受容体、細胞内代謝機構などを介して発現するので、一定量投与の後に減量に入ると、安定していたこれらの生体内機構の機能縮小が過剰に生じるため、直ちに再燃が起こることがある。したがってGCの減量はごく微量ずつ漸減するのが原則となる。2)生物学的製剤(抗IL-6レセプター抗体:トシリズマブ〔商品名:アクテムラ〕)の投与難治性JIAの場合、以下の条件を満たしたら、速やかに専門医に相談し、トシリズマブ(tocilizumab:TCZ)の投与を検討すべきである。(1)治療経過でGCの減量が困難である場合(2)MASへの病態転換が考えられる場合(3)治療経過が思わしくなく、次の段階の治療を要すると判断された場合TCZによる全身型JIAに対する治療は、臨床治験を経てわが国で世界に先駆けて認可され、使用経験が増加することで、有効性が極めて高く、副作用は軽微である薬剤であることが現在判明している。エタネルセプトなどの抗TNF治療薬の散発的な報告によると効果は10~30%程度といわれている。また、IL-1レセプターアンタゴニストは本症に有効であるとの報告が海外であるが、わが国でもカナキヌマブ(同:イラリス)が臨床試験を経て2018年7月に適用を取得することができた。■ 関節型(図3)図3 関節型への治療画像を拡大する1)診断確定まで臨床所見、関節所見、検査所見から診断が確定するまで1~2週間は要する。この間、NSAIDsであるナプロキセン(同: ナイキサン)、イブプロフェン(同: ブルフェンほか)を用いる。鎮痛効果は得られることが多く、一部の例では関節炎そのものも鎮静化するが、鎮痛に成功しても炎症反応が持続していることが多く、2〜3週間の内服経過で炎症血液マーカーが正常化しない場合は、次のステップに移る。NSAIDsにより鎮痛および炎症反応の正常化がみられる例ではそのまま維持する。2)MTXを中心とした多剤併用療法RF陽性型、ANA陽性型およびRF/ANA陰性型のうち多関節型の症例は、できるだけ早くMTX少量パルス療法に切り替える。当初スタートしたNSAIDsの効果が不十分であると判断された場合にも、MTX少量パルス療法へ変更する。MTXの効果発現までには少なくとも8週間程度の期間が必要で、この期間を過ぎて効果が不十分と考えられた例では、嘔気や肝機能障害が許容範囲内であるならば、小児最大量(10mg/m2)まで増量を試みる。また、即効性を期待して治療の初めからPSL5~10mg/日を加える方法も行われている。この方法では効果の発現は2~4週間と比較的早い。MTX効果が認められる時期(4~8週間)になれば、PSLは漸減し、維持量(3~5mg/日)とする。PSLによる成長障害や骨粗鬆症などの副作用の心配は少なく、かえって炎症を充分に抑制するため骨・軟骨破壊は多くない。3)生物学的製剤治療前述のMTXを中核におく併用療法にても改善がみられない症例では、生物学的製剤の導入を図る。生物学的製剤の導入の時期は、MTX投与後3〜6ヵ月が適当で、以下の場合が該当する。(1)「初期診療の手引き」に沿って3ヵ月間以上治療を行っても、関節炎をはじめとする臨床症状および血液炎症所見に改善がなく治療が奏効しない場合(2)MTX少量パルス療法およびその併用療法によってもGCの減量が困難またはステロイド依存状態にあると考えられる場合(3)MTX基準量にても忍容性不良(嘔気、肝機能障害など)である場合わが国では2008年にヒト化抗IL-6レセプター抗体トシリズマブ、2009年にはTNF結合蛋白であるエタネルセプト(同:同名)、2011年にはヒト化TNF抗体アダリムマブ(同:ヒュミラ)に加え、2018年にはCD28共刺激シグナル阻害薬アパタセプト(同: オレンシア)がいずれも臨床試験の優れた安全性および有効性の結果をもって、関節型JIAの症例に対して適応拡大を取得した。安全性についても、重篤な副作用はいずれの薬剤についてもみられていない。4 今後の展望上述の通り、わが国では、JIA治療に関わる生物学的製剤(全身型:トシリズマブ、カナキヌマブ、関節型:エタネルセプト、アダリムマブ、トシリズマブ、アバタセプト)が適用を取得したことで、小児リウマチ診療は大きく変貌し、“CARE”から“CURE”の時代が到来したと、多くの診療医が実感できるようになっている。今後もさまざまな生物学的製剤の開発が予定されており、その薬剤の開発、承認および臨床現場への早期実用化を目指すために、わが国での小児リウマチ薬の開発から承認までの問題点を可視化し、将来に向けての提案を行っている。5 主たる診療科小児科、(膠原病リウマチ内科、整形外科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児リウマチ学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本リウマチ学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けの公費助成などのまとまった情報)難病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けの公費助成などのまとまった情報)患者会情報若年性特発性関節炎(JIA)親の会「あすなろ会」(患者とその家族および支援者の会)1)Fink CW. J Rheumatol. 1995;22:1566-1569.2)武井修治. 小児慢性特定疾患治療研究事業を利活用した若年性特発性関節炎JIAの二次調査.小児慢性特定疾患治療研究事業.平成19年度総括・分担研究報告書. 2008;102~113.3)日本リウマチ学会小児リウマチ調査検討小委員会. 若年性特発性関節炎初期診療の手引き(2015年). メデイカルレビュー社:2015.公開履歴初回2020年03月09日

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第32回 血管拡張薬による頭痛、潰瘍はどれくらいの頻度で生じるのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 血管拡張薬による薬剤誘発性頭痛は比較的よく知られている副作用で、私も患者さんから強度の頭痛について相談されたことが何度もあります。NSAIDsを併用することもありますが、効果が不十分なケースもあるため対応に困ることがありました。今回は、血管拡張薬の中でも特徴的な作用を持つニコランジルについて紹介します。頭痛のため9人中1人は脱落ニコランジルを用いた長期のプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験として、5,126例(平均年齢67歳)を組み入れて、平均1.6年追跡したIONA試験があります1)。これはニコランジル唯一の大規模ランダム化試験で、組み入れ基準は、男性は45歳以上、女性は55歳以上、心筋梗塞、冠動脈バイパス術の既往または過去2年間の運動負荷試験陽性例で、次のリスク因子のうち少なくとも1つを有する被験者でした。条件:心電図による左室肥大、EF≦45%、拡張終期径>55mm、糖尿病、高血圧、その他の血管疾患薬局では、心臓カテーテル治療によりステントを留置している患者さんの対応も多いと思いますが、この試験の対象ではないことに注意が必要です。介入群はニコランジル10mg×2回/日を2週間服用後、20mg×2回/日に増量した2,565例で、比較対象はプラセボ服用の2,561例でした。いずれの群もベースラインで他の標準療法(抗血小板薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、スタチンおよびACE阻害薬)を受けています。主解析項目は、冠動脈心疾患死、非致死性心筋梗塞、胸痛による緊急入院の複合エンドポイントで、ニコランジル群337例(13.1%)、プラセボ群398例(15.5%)で、ハザード比:0.83、95%信頼区間[CI]:0.72~0.97、p=0.014でした。NNTは100/(15.5-13.1)≒42ですので、複合エンドポイントでは有意差が出ています。しかし、中に入っている各イベント自体は同列に扱えるものではないことに留意が必要です。二次解析項目では、冠動脈性心疾患死および非致死性心筋梗塞を見ています。こちらはニコランジル群107例(4.2%)に対してプラセボ群134例(5.2%)で、ハザード比:0.79、95%CI:0.61~1.02、p=0.068と有意差はありませんでした。総死亡はハザード比:0.85、95%CI:0.66~1.10と減少傾向であるものの、こちらも有意差はありませんでした。頭痛による脱落は、プラセボ群の81例(3.1%)に対して、ニコランジル群では364例(14.2%)ですので、9人服用すれば1人が頭痛で脱落するという計算になります。本研究に限った話ではないのですが、このように副作用の頻度に偏りが大きいと事実上盲検化が維持できないケースもあります。高用量であるほど潰瘍が早期にできて治りにくい添付文書に頻度不明の副作用として記載がある潰瘍の頻度については、IONA試験の各種コホート研究およびIONA試験の著者から収集した未公表データを含めたシステマティックレビューが2016年に発表されています2)。ここでは、Kチャネル開口作用を持つニコランジルに特徴的な潰瘍について紹介されています。同文献によれば、口腔潰瘍は被験者の0.2%で発症し、肛門潰瘍は0.07~0.37%で発症するとされています。口腔潰瘍を発症するまでの期間は、30mg/日未満群では74週間であるのに対し、高用量群では7.5週間(p=0.47)と用量依存性がありました。また、用量と潰瘍治癒時間にも有意な相関関係がみられています。重症の場合は医師と相談のうえで中止されることがあるため、口内炎が悪化するようなら報告を求めるよう伝える必要があります。実際に口腔内や舌に生じた潰瘍の症例報告の文献がありますが3)、ニコランジルを中止後4週間前後で治癒しています。まれな副作用ではありますが、同文献内に症例写真が掲載されていますので、ご覧いただきイメージをつかむとよいと思います。1)IONA Study Group. Lancet. 2002;359:1269-1275.2)Pisano U, et al. Adv Ther. 2016;33:320-344.3)Webster K, et al. Br Dent J. 2005;198:619-621.

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第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?Q1 ABIだけで十分? それとも他の検査も行うべき?頸動脈エコーや足関節上腕血圧比(ABI)は簡便であり、後述の通り冠動脈スクリーニングの意味もあるので、糖尿病の患者であれば一度は行っておくとよいと思います。頸動脈狭窄やABI低下はいずれも冠動脈疾患とよく合併します1)。頸動脈内膜剥離術(CEA)を行った頸動脈狭窄症例での冠動脈疾患合併は約40%みられるとの報告があります2)。ABI低下がなくても無症候頸動脈狭窄と冠動脈狭窄を呈する症例もあるので、やはり頸動脈エコーは行っておくべきでしょう。また頸動脈エコーを行うとQ2で述べる不安定プラークの有無を知ることができるので有意義です。Q2 頚動脈エコーの結果と治療法選択の判断について教えてくださいIMT肥厚がその後の心血管疾患の発症予測に使えることが知られていますが、軽度のIMT肥厚は糖尿病患者では高頻度で認められるため、これらの患者においては一般的な動脈硬化のリスク因子の介入を行っています。すなわち、禁煙の他、適切な血糖・血圧・脂質のコントロールです。この段階での抗血小板薬の投与は行いません。高度の肥厚があるものについては、冠動脈病変をスクリーニングしています(後述)。無症候頸動脈狭窄の患者への抗血小板薬の投与で、脳梗塞一次予防の介入エビデンスはありません。しかし観察研究では、≧50%あるいは≧70%狭窄のある患者で抗血小板薬投与が同側の脳卒中発症抑制に関連したという報告があり、2015年の脳卒中ガイドラインでも、中等度以上の無症候頸動脈狭窄では他の心血管疾患の併存や出血性合併症のリスクなどを総合的に評価した上で、必要に応じて抗血小板療法を考慮してよいとしています3)。われわれもこれに準じ、通常50%以上(NASCET法)の狭窄例では抗血小板薬を投与していることが多いです。一方、無症候頸動脈狭窄や高度のIMT肥厚は冠動脈疾患を合併していることが多いので、これらの症例では通常の12誘導心電図だけでなく、一度循環器内科を紹介し、心エコーの他、冠動脈CTや心筋シンチグラムなどを考慮しています(高齢者ではトレッドミルテストが困難なことが多いため)。2型糖尿病患者で冠動脈インターベンションやバイパス術を必要とするような、高度な冠動脈病変を伴う患者を検出するために適正なIMT最大値(Max IMT)のカットオフ値としては2.45mmという報告があり、参考になると思います4)。冠動脈病変が疑われれば、抗血小板薬(アスピリンやクロピドグレル)を投与する意義はさらに大きくなります。抗血小板薬による消化管出血リスクは年齢リスクとともに増加し、日本人では海外の報告より高いといわれます。胃十二指腸潰瘍の既往があるものや、NSAIDs投与中の患者ではとくに消化管出血に注意を払わなければなりません。冠動脈疾患をともなわない無症候頸動脈狭窄でとくに出血リスクが高いと考えられる症例には、患者に説明のうえ投与を行わないこともあります。あるいは出血リスクが低いといわれているシロスタゾールに変更することもありますが、頭痛や頻脈などの副作用がありえます。とくに頻脈には注意が必要で、うっ血性心不全患者には禁忌であり、冠動脈狭窄のある患者にも狭心症を起こすリスクがあることから慎重投与となっています。このため必ず冠動脈病変の評価を行ってから投与すべきと考えます。なお、すでに他の疾患で抗凝固薬を投与されているものでは、頸動脈狭窄に対しての抗血小板薬の投与は控えています。なお、無症候性の頸動脈狭窄が認知機能低下5)やフレイル6) に関連するという報告もみられます。これらの患者では認知機能やフレイルの評価を行っておくことが望ましいと考えられます。頚動脈エコー所見で低輝度のプラークは、粥腫に富んだ不安定プラークであり脳梗塞のリスクとなります7)。潰瘍形成や可動性のあるものもリスクが高いプラークです。このような不安定プラークが観察されれば、プラーク安定化作用のあるスタチンを積極的に投与しています。糖尿病治療薬については、頸動脈狭窄症のある患者に対し、とくに有効だというエビデンスをもつものはありません。SGLT2阻害薬は最近心血管イベントリスクを低下させるという報告がありますが、高齢者では脱水をきたすリスクがあるので、明らかな頸動脈狭窄症例には慎重に投与すべきと考えます。Q3 専門医への紹介のタイミングについて教えてください脳卒中ガイドラインでは高度無症候性狭窄の場合、CEAやその代替療法としての頸動脈ステント留置術(CAS)を考慮してよいとされています3)。脳神経外科に紹介し、手術になることは高齢者では少ないように思いますが、内科治療を十分行っていても狭窄が進展したり、不安定プラークが残存したりする症例などはCASを行うことが多くなっています。また、TIAなどの有症状症例で50%以上狭窄の症例では紹介しています。手術は高齢者のCEAやCASに熟練した施設で行うことが望まれます。最近、CEAやCASを行った症例において認知機能の改善が認められたという報告がみられており、エビデンスの蓄積が期待されます8)。末梢動脈疾患では跛行や安静時痛のある患者や、ABIの低下があり下肢造影CTを撮影して狭窄が疑われる場合に血管外科に紹介しています。腎機能が悪い患者については下肢動脈エコーや非造影MRAで代用することが多いですが、エコーは検査者の技量に左右されることが多く、またいずれの検査も造影CTよりは精度が劣ると考えられます。最近炭酸ガスを用い、造影剤を使用しない血管造影がありますが9) 、施行している施設は限られます。このような施設で検査を受けるか、透析導入のリスクを説明のうえ造影剤検査を行うか、しばらく内科治療で様子をみるかは、外科医と患者さんで相談のうえ、決めていただいています。 Q4 頚動脈エコー検査の頻度は? 何歳まで検査を行うべき?頚動脈エコーのフォロー間隔についてのエビデンスはありませんが、われわれは通常1年に1回フォローしています。無症候の頸動脈狭窄や不安定プラークが出現した場合、内科治療の強化や冠動脈のスクリーニングの検討が必要と考えますので、80~90代でも冠動脈インターベンションを行う今日では、このような高齢の方でも評価を行っています。IMTは年齢とともに健常者でも肥厚しますが、平均IMTは90歳代でも1mmを超えないという報告もあり10)、高度の肥厚は異常と考えます。また上述のように、無症候頸動脈狭窄に対して内科治療を十分行っていても病変が進展した際には、外科医に紹介する判断の一助となります。一方、頸動脈狭窄あるいは冠動脈CTで石灰化がある方でも、すでにしっかり内科的治療が行われており、かつ冠動脈検査やインターベンションの希望がない場合は検査の頻度は減らしてもよいかもしれません。 1)Kawarada O. et al. Circ J .2003;67; 1003-1006. 2)Shimada T et al. J Neurosurg. 2005;103: 593-596.3)日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017対応].pp88-89.協和企画;2017.4)Irie Y, et al. Diabetes Care. 2013;36: 1327-1334.5)Dutra AP. Dement Neuropsychol. 2012;6:127-130.6)Newman AB, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56: M158–166.7)Polak JF, et al. Radiology. 1998;208: 649-654.8)Watanabe J, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2017;26:1297-1305.9)Merz CN, et al. Angiology. 2016;67:875-881.10)Homma S, et al. Stroke. 2001; 32: 830-335, 2001.

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