アルコール、タバコ、ヘロインなどの薬物乱用がもたらす有害な作用を、使用者自身と使用者以外に及ぼす害の判定基準で評価したところ、総合的にアルコールが最も有害で、特に使用者以外への有害度が著明に高いことが、イギリスImperial College London神経精神薬理学のDavid J Nutt氏らによる研究で明らかとなった。薬物乱用に起因する有害作用の適正な評価は、健康、規制、社会的ケアに関する施策の立案者に有益な情報をもたらすが、薬物の有害作用は多岐にわたるためこの作業は容易でない。そこで、薬物固有の身体的な有害作用から社会に及ぼす害や医療コストまでを、複数の判定基準で評価するアプローチが積極的に進められているという。Lancet誌2010年11月6日号(オンライン版2010年11月1日号)掲載の報告。
20の薬物を16の判定基準でスコア化
研究グループは、多基準決定分析(MCDA)モデルを用いてイギリスにおける薬物の有害作用の現況を広範に調査した。
2名の招請された専門家を含む薬物に関する独立科学評議会のメンバーが対話形式の1日ワークショップを開催し、20の薬物を16の判定基準でスコア化した。16の基準のうち、9つは薬物の使用者自身に対する害、7つは使用者以外に及ぶ害に関するものであった。有害度の高さは100点を満点とし、判定基準は相対的重要性が示されるよう重み付けされた。
対象となった薬物は、アルコール、タバコ、ヘロイン、コカイン、クラックコカイン、メタンフェタミン、アンフェタミン、ケタミン、メタドン、メフェドロン、GHB(ガンマヒドロキシ酪酸)、ブプレノルフィン、ブタン、ベンゾジアゼピン系薬剤、アナボリックステロイド、エクスタシー(MDMA)、LSD、チャット(アラビアチャノキ)、大麻、マッシュルーム。
低スコアの薬物が無害であることを意味しない
使用者自身に対する有害作用が最も大きかった薬物はクラックコカイン(37点)であり、次いでヘロイン(34点)、メタンフェタミン(32点)の順であった。使用者以外に対する有害作用はアルコール(46点)が最も大きく、次いでヘロイン(21点)、クラックコカイン(17点)であった。
使用者自身への害と使用者以外への害を合わせると、最も有害な薬物はアルコール(72点)であり、ヘロイン(55点)とクラックコカイン(54点)がこれに続いた。
著者は、「これらの知見は、現在の薬物分類法がその有害作用のエビデンスとはほとんど関連しないことを示したイギリスとオランダの研究や、アルコールの有害作用をターゲットとした公衆衛生戦略は妥当かつ必須とした報告を支持するものである」と結論し、「低スコアの薬物が無害であることを意味しないことに留意すべきで、特定の状況下ではすべての薬物が有害たり得る」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)