インフルエンザの予防接種は、インフルエンザを予防するだけでなく、心不全患者の肺炎を約4割、入院リスクを約15%減らすことを示す、多国籍無作為化プラセボ対照比較試験の結果が「The Lancet Global Health」12月号に掲載された。マクマスター大学(カナダ)のMark Loeb氏らの研究によるもので、同氏は、「これまでインフルエンザワクチンの効果が過小評価されていたようだ。心不全患者がインフルエンザの予防接種を受けずにいる理由はない」と語っている。
この研究は、アジア、中東、アフリカの10カ国の18歳以上の心不全患者5,129人(平均年齢57.2±15.3歳、女性51.4%)を対象に実施された。心不全の重症度〔ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類〕は、クラスII(身体活動をある程度制限しないと症状が現れる)が69.5%、クラスIII(安静にしていないと症状が現れる)が26.1%、クラスIV(安静時にも症状がある)が4.4%。
全体を無作為に2群に分けて、1群にはインフルエンザワクチン、他の1群にはプラセボ(生理食塩水)0.5mLを年に1回、最大3年間、筋肉内投与した。主要評価項目は二つ設定され、いずれも複合エンドポイントであり、一つ目の構成アウトカムは「心血管死、非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中の初回イベント」、二つ目は「心血管死、非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中の再発、心不全入院」。このほか、全死亡、心血管死、肺炎、あらゆる原因による入院などが二次評価項目として設定されていた。
研究計画時の追跡期間は3年の予定だったが、新型コロナウイルス感染症パンデミックのため、中央値2.4年に短縮された。追跡期間中の主要評価項目の発生率に、群間の有意差はなかった。ただし、二次評価項目のうち、肺炎のリスクはワクチン接種群が42%有意に低く〔ハザード比(HR)0.58(95%信頼区間0.42~0.80)〕、あらゆる原因による入院のリスクも16%有意に低かった〔HR0.84(同0.74~0.97)〕。
また、事前に設定されていたサブ解析である、インフルエンザシーズンのみでの解析では、一つ目の主要評価項目の発生率がワクチン接種群で18%低く、群間に有意差が認められた〔HR0.82(同0.68~0.99)〕。さらに、全死亡は21%〔HR0.79(0.66~0.95)〕、心血管死は23%〔HR0.77(0.63~0.94)〕、肺炎は49%〔HR0.51(0.32~0.81)〕、それぞれ有意に低リスクだった。
Loeb氏は、心不全患者は健康状態が悪化しやすく、5年以内に死亡する確率が50%程度に及び、かつ毎年約20%の患者が心血管イベントのために入院を要していると解説。また同氏によると、本研究は、インフルエンザワクチンの有効性を心不全患者で検討した、初の臨床研究だという。なお同氏は、インフルエンザの予防接種率が低く心血管イベント発生件数の多い、低中所得国を中心とする心不全患者を対象に本研究が行われたことも、重要な点の一つとして挙げている。
論文の共著者であるマクマスター大学のSalim Yusuf氏は、「インフルエンザの予防接種は、接種が容易で安全かつ低コストであることから、心不全患者の標準的な診療の一部として行われるべきだ。予防接種による心血管死や入院の抑制効果は、費用対効果が極めて高く、重要な公衆衛生対策となり得る」と述べている。
[2022年11月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら