臨床試験で脳のアミロイドβを除去する開発中のアルツハイマー病治療薬lecanemab(レカネマブ)の投与を受けていた初期段階のアルツハイマー病の65歳の女性が、重度の脳出血により死亡したことを、「ScienceInsider」が11月27日報じた。Lecanemabに関連して生じた可能性のある2例目の脳出血死であり、この薬剤の安全性に対する疑問が浮上している。
「ScienceInsider」の記事によると、この女性は脳卒中に脳腫脹や脳出血を併発していた。このような抗体薬の投与に伴う脳腫脹や脳出血は、過去にも確認されている。女性を治療した米ノースウェスタン大学医療センターの医師らによると、強力な血栓溶解薬である組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)を投与した直後、女性は脳の外層全体に相当量の出血を来したという。女性の夫は、「医師が薬剤を投与したとたん、妻の体に火がついたかのようになった。妻は悲鳴を上げ、8人がかりで押さえつけなければならないほどだった。本当に恐ろしい状況だった」と同誌に語っている。症例報告によれば、女性は数日後に死亡したという。
今回の死亡例は、lecanemabの第3相試験に参加していた80歳男性の死亡例に続き2例目となる。この男性の死亡原因については、同薬剤と抗凝固薬のアピキサバン(商品名エリキュース)の薬剤相互作用の可能性が指摘されている。今回の死亡女性の剖検を実施した同大学のRudolph Castellani氏は、患者の脳血管の多くにアミロイド沈着が認められたことを報告している。同氏は、2週間ごとのlecanemabの投与により炎症を起こして脆弱化していた患者の血管が、血栓溶解薬に曝露したことで破裂したと考えており、「治療が原因で生じた疾患と死亡であることを私は確信している。同薬剤の使用がなければ患者は今も生きていただろう」と述べている。
Lecanemabが米食品医薬品局(FDA)に承認されれば、アルツハイマー病の治療を目的とする抗アミロイド薬としては2件目となる。1件目のAduhelm(一般名アデュカヌマブ)は、その有効性を疑問視する声を押し切ってFDAによる承認を受けた。Lecanemabは日本のエーザイ株式会社とスウェーデンのBioArctic社が共同で開発している薬剤だ。エーザイが9月28日に発表したニュースリリースでは、18カ月にわたってlecanemabを投与された患者ではプラセボを投与された患者に比べてアミロイドの蓄積が少なく、認知機能の低下が27%抑制されたことが報告されている。同社は「ScienceInsider」の記事を受けて、「これまで得られている全ての安全性データは、レカネマブ治療が被験者全体の死亡リスクの上昇あるいは特定の原因による死亡リスクの上昇に関与していないことを示しています」との見解を示している。
死亡した女性は、18カ月の試験期間中はlecanemabかプラセボのいずれかを投与されていたが、試験の非盲検延長期間には実薬を選択し、死亡前の1カ月間は確実にlecanemabを投与されていた。死亡した2人にはいずれも広範囲に及ぶ脳アミロイド血管症(CAA)が認められた。CAAは脳血管内に徐々にアミロイドが沈着する病態である。CAAでは、lecanemabのような薬剤でアミロイドを剥がそうとすると血管が脆くなり、抗凝固薬や血栓溶解薬に曝露した場合に出血が起こりやすくなることがあるという。この報告書では、アルツハイマー病患者の半数近くにCAAが生じ、また多くの患者が心疾患を有し、抗凝固薬による治療を受けていることが指摘されている。
[2022年11月29日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら