男性ホルモンのテストステロンをインターネット経由で入手することに注意を喚起する趣旨の研究結果が、「JAMA Internal Medicine」12月号にレターとして掲載された。米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のJoshua Halpern氏らの研究によるもの。サイト訪問者が、自分のテストステロン値は基準値内であることを伝えているのにもかかわらず、大半のサイトが販売を断ることはなく、入手手続きを進められたという。
米国の成人男性の中には、筋力アップや勃起機能の改善などの目的のため、テストステロン療法に期待を寄せている人が少なくない。そのニーズに応え、ネット経由でテストステロンを販売するサイトが増えていて、勃起障害などへの効果をほのめかす文句を掲げている販売サイトへの訪問数は、2017年から2019年の間に1,500%増加したとされている。Halpern氏らは、それらの販売サイトが安全性にどの程度配慮しているのかを調査した。7サイトを調べた結果、ほとんどのサイトはテストステロン欠乏症でない男性に販売することをいとわず、テストステロン療法の潜在的なリスクを伝えることもなかった。
Halpern氏は、「テストステロン欠乏症は活力や性欲低下の一因であり、欠乏状態が確認された男性へのテストステロン投与は確立された治療法であって、多くの男性の生活の質(QOL)を改善し得る。また、医師の判断で適切に使用された場合、一般的に安全と見なされている」と解説。ただしその一方で、「テストステロンは米麻薬取締局によって規制物質とされ、中毒のリスクもある。通常は泌尿器科や内分泌科の医師が処方し、薬剤師を介して手渡される医薬品だ。また、適切に使用されていても、多血症、血栓・出血、心臓発作・脳卒中、不妊症などのリスクとなることがある」という。
Halpern氏らは、テストステロンのネット販売のプロセスに、同薬の使用に伴うそのような懸念が配慮されているかどうかを確認するため、活力や性欲が低下したと感じている34歳の男性を装って、販売サイトにアプローチした。それらのサイトでテストステロンを購入するには、まずテストステロン検査の結果を報告し、その上で、ナースプラクティショナー(医薬品処方などの医師に近い行為が可能な資格を持つ看護師)やその他の医療関連有資格者、または何ら医療関連の資格を持たないスタッフとの遠隔相談の過程が設定されていた。それらのプロセスを検証した結果は以下の通り。
85.7%のサイトでは、サイト訪問者がテストステロン値は基準範囲内であり、将来子どもを作る考えがあると伝えていたにもかかわらず、そのまま購入へと話が進んだ。心血管イベントや将来の挙児に関連するリスクの情報を提供したのは、7サイトのうち1サイトだけだった。販売可とするテストステロンレベルの閾値を設けていたのは1サイトのみであり、その閾値も医療ガイドラインと異なっていた。テストステロンの販売に加えて、さまざまな医薬品の適応外使用を勧めるサイトも存在していた。
この結果を基にHalpern氏は、「テストステロン療法には多くのメリットがあるがリスクもあり、誰にでも有効な治療法というわけではない。ネット販売への男性の期待が大きいことは理解できるが、購入前にまず医師に相談するべきだ」と述べている。
この研究には関与していない米ハーバード・メディカル・スクール/ケンブリッジ・ヘルスアライアンスのPieter Cohen氏は本研究を、「医療機関を受診して血液検査を受け、治療適応がないと判断された後でも、ネットを使えばテストステロンを容易に入手できてしまうという“落とし穴”があることを、見事に証明したもの」と論評している。同氏は、「多くの男性が『テストステロン不足のためではないか』と疑う症状の大半は、実際にはほかの病気、または正常な加齢現象に過ぎない」と話している。
[2022年12月8日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら