米国では農村部の病院の閉鎖が増えた影響で、その周辺の病院に患者が集中して医療現場の負担が増加しているとする論文が、「Journal of Hospital Medicine」11月号に掲載された。米ペンシルベニア州立医科大学のDaniel George氏らの研究によるもので、同氏は「農村部の病院の閉鎖によって、その地域のコミュニティーにも悪影響が生じてしまう可能性がある」と述べている。
全米で2005年以降に180を超える農村部の病院が閉鎖され、さらに1,000近くの病院が財政的な問題などにより閉鎖の危機に瀕しているとされている。閉鎖される病院が現在以上に増加した場合、残った病院の負担はさらに増加すると考えられる。このような状況をもとにGeorge氏らは、農村部の病院が閉鎖された場合の周辺病院への影響の実態を調査した。同氏は本研究を「このトピックに関する初の調査だ」としている。
この研究では、米ノースカロライナ大学のヘルスケアサービスに関するデータベースから、農村部に位置し2005~2016年に閉鎖された、25床を上回る規模の53病院と、その周辺の93病院を特定。病院が閉鎖される2年前から2年後にかけての、周辺病院の救急外来受診者数と入院患者数の変化率を解析した。なお、解析対象とした閉鎖病院の21%は、貧困率が高いアパラチア地方に立地し、全体の66%は米国南部に位置していた。
解析の結果、ある病院が閉鎖される前の2年間で、その周辺の病院の救急外来受診者数は、平均3.59%増加していた。それに対して、病院閉鎖後の2年間での増加率は平均10.22%と有意に上昇していた(P=0.0375)。入院患者数については閉鎖前の2年間は5.73%減少していたが、閉鎖後の2年間では1.17%増加していた(P=0.0259)。
George氏によると、本論文の発表前の段階で既に多くの人が、病院閉鎖による地域の医療供給への影響を懸念していたという。そして、「本研究によって、そのような懸念が実際に現実となり始めていることが確認された。今後は、閉鎖された病院の周辺の医療機関に集中する医療ニーズに対して、政策立案者やこの領域の専門家がいかなる解決策を示し得るかが、議論の的になるだろう」と話している。
また、論文の共著者で同大学トランスレーショナル科学研究所の所長であるJennifer Kraschnewski氏は、「農村部、特にアパラチアなどの地域は、住民のアルコール依存症や中毒、自殺などのリスクが高いことが知られている。そのような地域で病院が閉鎖され、周辺医療機関の負担が増加した場合、それまで行われていた公衆衛生対策が十分実施されなくなる可能性があり、結果として従来から存在していた地域固有の問題が急増するのではないか」と懸念している。
なお、この研究は、米国立先進トランスレーショナル科学センターのサポートを受けて実施された。
[2022年12月23日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら