子どもの免疫は、新型コロナウイルスの初回感染時にそれを排除する働きが優れている半面、成人のように一度感染したウイルスを記憶して再感染に備えることは苦手のようだ。ガーバン医学研究所(オーストラリア)のTri Phan氏らの研究による知見であり、同氏は「子どもたちは初回感染時のウイルス排除に優れている代償として、2回目にウイルスに曝露された時に免疫が機能するための記憶をする機会を失っていると言える」と話している。詳細は「Clinical Immunology」1月号に掲載された。
免疫には自然免疫と獲得免疫があり、自然免疫は主に皮膚や粘膜表面などで、ウイルスが体内に侵入するのをブロックするバリアのように働いたり、それを破って体内に侵入した微生物に対しても排除するように働く。ただし、微生物の種類に即した特異的で効率の良い働きはできない。一方、獲得免疫は、白血球中のB細胞やT細胞などが中心になって、一度感染した微生物の特徴を記憶しておき、同じ微生物が侵入した場合に特異的な抗体を産生して効果的に対抗する。
新生児の免疫はほぼ白紙の状態で始まり、自然免疫に依存して微生物に対抗するが、成長するに従い、侵入した微生物を記憶していき獲得免疫が構築されて再感染に備える。ウェストミード小児病院(オーストラリア)のPhilip Britton氏は、「子どもの免疫システムは、そのほとんどを出生時に備わっているシステムに依存しているが、歳を取るにつれ、バックアップとして働く獲得免疫への依存が大きくなる。それに伴って、ウイルスの素早い排除ができなくなっていく」と解説する。
Phan氏らの研究では、COVID-19に罹患した小児とその保護者(いずれも無症候か軽症)を対象に、罹患時(PCR検査陽性判定後1~10日)とその約1カ月後に検体を採取。また、ICU入室を要した重症成人患者からも急性期と回復期に検体を採取し、免疫反応の強さを比較検討した。その結果、小児患者は上気道の免疫反応を通じて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を排除していたことが分かった。またウイルスの排除に際して自然免疫だけでなく、上気道の分泌物などの物理的バリアも良く機能していたと考えられた。
しかし、小児患者はCOVID-19から回復後のSARS-CoV-2に対する記憶T細胞の反応が乏しいことも分かった。これは、免疫システムがSARS-CoV-2を特異的な標的として排除する方法を学習していなかったことを意味する。小児患者に認められた自然免疫の強力な反応は、獲得免疫の反応を弱めるように働いた可能性が示唆された。その一方、成人は正反対であり、自然免疫はあまり働かずに、記憶T細胞の反応は優れていた。これらの結果から著者らは、「子どもに対するワクチン接種の重要性を支持するデータと言える。上気道感染に対する子どもたちの免疫システムのボトルネックを解消するために、ワクチンが必要とされる」と論文中で述べている。
なお、Phan氏は、「今回の研究で示された結果を基に、高齢者ではSARS-CoV-2に対して免疫が過剰反応し、生命を脅かす重篤な症状が引き起こされやすいことの理由の一端を説明できる可能性がある」と付け加えている。COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は、ありふれた風邪の原因ウイルスの一種であるコロナウイルスの一つのタイプであるために、「成人がSARS-CoV-2に初めて感染すると、記憶T細胞は、以前に感染したことのある風邪のコロナウイルスと同じだと認識することがあるようだ。それによって、SARS-CoV-2特異的ではない、誤った免疫反応が引き起こされてしまうのではないか。そのような場合はSARS-CoV-2は排除されずに増殖し、一方で過剰な免疫反応が生じて深刻な状態になってしまう」と同氏は解説している。
[2023年1月27日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら