米国が費やす医療費は、他の裕福な国々の最大で4倍に上るが、それに見合う成果を得られていないようだ。非営利団体の米コモンウェルス基金が1月31日に発表した報告書によると、米国の医療費がGDPに占める割合は約18%に上るが、米国人の平均寿命は低下し続けているという。
この報告書を執筆した同財団のInternational Program in Health Policy and Practice InnovationsのMunira Gunja氏は、「OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)が整っていないのは米国だけだ。われわれの平均寿命は低下し続けており、他の国々に比べて回避可能な死亡率も高い」と話す。さらに同氏は、「加えて、米国ではプライマリケア医不足も深刻であり、プライマリケアに投入される資金も潤沢ではない。このような状況は人々が基本的な予防医療を受ける妨げとなり、結果的に慢性疾患を誘発している」と指摘する。
今回の報告書の作成にあたり、Gunja氏らは、2020年1月から2021年12月の間の米国の医療費とその成果を、OECD加盟国(全38カ国)のうちの高所得国(12カ国)や全加盟国の平均値と比較した。その結果、米国の2021年の医療費は対GDP比17.8%であり、比較した国々の中では最も高いことが明らかになった。また、1人当たりの医療費も最も高く、最も低い韓国の約4倍の支出額であった。
それにもかかわらず、米国人の2020年の平均寿命は77歳であり、これはOECD加盟国の平均寿命の平均値(80.4歳)と3歳の差があった。また米国では、予防や治療により回避可能な死亡率と、複数の慢性疾患を併発している人の割合についても最も高かった。さらに、米国では他の高所得国と比べて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡率も高かった(100万人当たり3,253人、最も低いのはニュージーランドの100万人当たり470人)ほか、銃による暴力などの身体的暴行による死亡率や乳幼児および妊産婦死亡率についても、OECD諸国の平均および12カ国の高所得国よりも高かった。その一方で、乳がんと大腸がんのスクリーニング検査受診率とインフルエンザの予防接種率はOECD加盟国の中でも高い方であった。ただし、COVID-19ワクチン接種率は、多くの国に遅れを取っていた。
研究グループは、「米国では近年、健康保険へのアクセス拡大に若干の進展があったものの、格差を是正し、必要な医療を全ての人に提供するには、さらなる努力が必要である」と述べる。2010年に国民皆保険を念頭に制定されたアフォーダブルケア法(ACA)、いわゆる「オバマケア」は、手頃な価格の健康保険を購入するための市場の開拓につながった。それでも、いまだに何百万人もの米国人が保険料を支払えず、医師の診察を受けられない状況に置かれたままになっている。
こうした状況についてGunja氏は、「多くの州はメディケイドを拡大していないため、手頃な価格の選択肢がないままというのが現状だ」と指摘。「誰もが手頃な価格の健康保険プランにアクセスでき、予防医療を自己負担なしで受けられるようにしなければならない。そのためには、プライマリケアの労働力に資金を投入し、インセンティブによりプライマリケア医を増やし、医学部生の奨学金の返済を免除する必要がある。そうでもしない限り、米国のこの危機を解決することは不可能だ」と主張する。
Gunja氏は、米国のこの危機的状況を好転させることはまだ可能だとし、「他の国でやってきたことなのだから、われわれにだってできるはずだ」と述べている。
[2023年1月31日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら