ディーゼル車の排ガスで脳にダメージ

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/03/03

 

 運転中に渋滞に巻き込まれたときに頭がぼんやりしてきたという経験があるなら、それは目の前を走るトラックのディーゼルエンジンからの排出ガスが原因かもしれない。ビクトリア大学(カナダ)のJodie Gawryluk氏らの研究から、わずか2時間程度であってもディーゼル排ガスに曝されると、脳の機能的結合性が低下し、思考力や記憶力の低下につながる可能性があることが明らかになった。この研究結果は、「Environmental Health」に1月14日発表された。

 Gawryluk氏らは今回、実験室で19〜49歳の成人25人(男性14人、女性11人)を、ディーゼル排ガスとフィルターで浄化した空気の両方に120分間曝露させるクロスオーバー試験を実施。MRIにより、浄化した空気への曝露前後とディーゼル排ガスへの曝露前後の4種類のデータを取得して、脳への影響を評価した。その結果、ディーゼル排ガスへの曝露後には、浄化した空気への曝露後に比べて、認知機能や意思決定、抑うつ症状に関連する脳領域における機能的結合性が低下していることが確認された。

 ただしGawryluk氏によると、幸いにもこの影響は長時間続くことはなく、通常は数時間で消失するという。一方で同氏は、長期間にわたるディーゼル排ガスへの曝露が脳に恒久的なダメージを与え得るかは「不明」としながらも、「その可能性は十分あり得る」との見方を示す。また同氏は、「ディーゼル排ガスへの曝露がアルツハイマー病などの神経変性疾患の潜在的なリスク因子となり得るのかどうかについての研究が進行中だ」と話している。

 なお、米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のAisha Dickerson氏らによる先行研究では、職場でのディーゼル排ガスへの曝露と神経変性疾患の一つである筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症リスク上昇に関連が認められたことが報告されている。同氏も、「長期的なディーゼル排ガスへの曝露が脳にダメージを与える可能性は十分考えられる」との見解を示しており、「ディーゼル排ガスに曝される機会が多い人や、大量のディーゼル排ガスに曝された人で、よりダメージが大きいと私は予測している」と付け加えている。

 ディーゼル排ガスによるリスクは、特に高速道路沿いや交通量の多い道路沿いに住んでいる人々にとって深刻である。このような人々は傾向として、経済的に貧しく、黒人やヒスパニック系、移民が多いことをDickerson氏は指摘し、「ディーゼル排ガスが脳にとって有害であることは確実だ。われわれは、道路の近くに住んでいる地域住民のディーゼル排ガスへの曝露量の削減に向けた取り組みに着手する必要がある」と主張する。そのための具体的な取り組みとして同氏は、新たな技術の導入、ディーゼル排ガスの規制、住宅地域から離れた場所での高速道路の建設を挙げている。

 Gawryluk氏は、ガソリン車の排ガスあるいは山火事の煙であっても、脳に同様の影響を及ぼすのではないかとの見方を示し、「自分が吸っている空気に注意を払い、自動車の排ガスをはじめとする有害な大気汚染物質に曝される機会をできるだけ減らすようにすべき」と助言している。

 今回の報告を受け、米マムズ・クリーン・エア・フォースのElizabeth Bechard氏は、「有害性のあるディーゼル排ガスの吸入は、肺や心臓に悪いだけでなく、脳にも悪いというわれわれの認識をより強固なものにする、深く憂慮すべき結果だ」と話す。特に厄介な問題として同氏は、2000万人もの子どもたちが毎日、多くはディーゼル車であるバスを使って通学していることを挙げ、発達過程にある子どもたちの脳への影響に懸念を示している。

 Bechard氏は、社会全体がディーゼルエンジンや燃焼機関に頼った交通手段から離れる必要性を説く。また同氏は、「都市部を自転車や徒歩で移動しやすくする必要がある。それによって無公害の移動が促されるし、そのような移動手段は、われわれの健康にとっても良い」と話している。

[2023年1月30日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら