新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後には、脳の構造的・機能的な変化が生じており、不安や抑うつ症状のある人ではそのような変化の程度が強いことを示す研究結果が報告された。カンピーナス大学(ブラジル)のClarissa Yasuda氏らの研究によるもので、第75回米国神経学会(AAN2023、4月22~27日、ボストン)での発表に先立ち、研究要旨が2月20日にオンラインで公開された。
COVID-19の急性期以降にさまざまな症状が遷延する、いわゆる「long COVID」では、不安や抑うつといったメンタルヘルス関連症状が現れることが少なくない。ただし、それらの症状の有無と、脳の構造的・機能的な変化の関連はほとんど明らかにされていない。Yasuda氏は、「long COVIDについてはまだ研究すべきテーマが数多く残されている。われわれの研究によって、急性期に軽症であった患者でさえ、罹患から数カ月後に脳の変化が観察されたことは、新たな懸念材料と言える。患者の生活の質(QOL)が長期間低下してしまうことへの予防的な介入法の確立に向けて、さらに多くの研究が必要とされる」と述べている。
この研究は、軽症COVID-19に罹患した254人(年齢中央値41歳、女性69.7%、PCR検査陽性判定からの期間中央値82日)に対して、不安や抑うつレベルを評価し、脳画像検査を施行。それらの結果を148人の非COVID-19対照群と比較検討した。不安の評価にはBAIスコア、抑うつの評価にはBDIスコアという指標を用い、BAI>10およびBDI>13の場合を不安・抑うつレベルの高い状態と判定したところ、102人が該当した。
軽症COVID-19に罹患後の不安や抑うつレベルの高い群では、脳内の記憶や感情の処理に関与する大脳辺縁系の萎縮という構造的な変化が認められた。一方、軽症COVID-19に罹患したものの不安や抑うつ症状のない人には、そのような所見が認められなかった。
不安・抑うつレベルの高い軽症COVID-19罹患者70人、その他の軽症COVID-19罹患者84人、および対照群90人に対しては、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)というより詳しい検査を施行。その結果、不安・抑うつレベルの高い群では、脳内の12カ所のネットワークに機能的な変化が生じていることが分かった。一方、不安・抑うつレベルの高くない軽症COVID-19罹患者では、機能的な変化の確認されたネットワークは5カ所だった。
これらを基に研究者らは、「われわれの研究結果は軽症のCOVID-19に罹患した患者の脳に、構造的な変化が生じている可能性を示唆している。そのような変化は主として、long COVIDにより不安や抑うつが亢進している人に多く見られる。このような変化が、記憶や思考力に問題を引き起こすことも考えられることから、COVID-19急性期の症状が軽度であったとしても、全身的な治療を検討する必要があるのではないか」と述べている。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
[2023年2月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら