BRCA1/2遺伝子変異のある女性では50歳以降もがんリスクが高い

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/03/20

 

 女性でのBRCA1またはBRCA2遺伝子の変異は、乳がんおよび卵巣がんの若年での発症リスクを高めることが知られている。しかし、これらの遺伝子変異を有する女性では、50歳以降も乳がんや卵巣がんを中心とするがんの発症リスクが高いことが、新たな研究で明らかにされた。このリスク上昇は、がんの既往歴がなくても認められたという。トロント大学(カナダ)看護学分野のKelly Metcalfe氏らによるこの研究の詳細は、「Cancer」3月15日号に掲載された。

 Metcalfe氏は、「本研究の対象女性に最も高頻度に生じたがんが、乳がんと卵巣がんであったことにわれわれは衝撃を受けた。われわれはBRCA1またはBRCA2遺伝子変異を有する女性において、これらのがんリスクをどうすれば低減できるかを知っているため、この結果に懸念を抱いている」と話している

 この研究では、世界16カ国のBRCA1またはBRCA2遺伝子変異を有するが、50歳前ではがんの既往歴がなかった女性2,211人を対象に、あらゆる種類のがんを発症する累積リスクを検討した。対象者のうちの1,470人はBRCA1遺伝子変異、残る741人はBRCA2遺伝子変異を持っていた。対象者には、50歳のときから、がんの診断を受けるか、死亡するか、75歳に達するか、追跡終了になるまで、2年ごとに質問票による調査を行った。

 対象者の15.4%が50歳になる前に予防的な両側乳房切除術を受け、43.4%が両側卵管卵巣摘出術を受けていた。50〜75歳の間に333人ががんの診断を受けた。発症例が最も多かったのは、乳がん(186人)と卵巣がん(45人)だった。解析の結果、対象者が50〜75歳の間にあらゆる種類のがんを発症するリスクは、BRCA1遺伝子変異陽性の女性では49%、BRCA2遺伝子変異陽性の女性では43%であることが明らかになった。がんの発症リスクを低減するための手術や薬剤による予防的治療(chemoprevention)を受けていなかった女性では、あらゆる種類のがんの発症リスクはさらに高く、BRCA1遺伝子変異陽性の女性では77%、BRCA2遺伝子変異陽性の人では67%であった。これに対して、50歳になる前に両側乳房切除術と両側卵管卵巣摘除術の両方を受けた女性では、50〜75歳の間にあらゆる種類のがんを発症するリスクは9%であった。

 Metcalfe氏は、「この結果は、がんの発症リスクを軽減する上でこれらの手術が有効であることを明らかにするものだ。また、医療提供者だけでなく個人に対しても、これらの遺伝子変異の影響が後年に至るまで続くことなど、がんリスクに関する臨床ガイドラインと推奨事項について考慮する必要性を強調するものでもある」と同大学のニュースリリースで述べている。

 Metcalfe氏は、本研究の限界点として、一部の国ではがん発症リスク軽減手術へのアクセスが制限されている可能性について指摘。対象者ががん発症リスクの上昇に関する遺伝カウンセリングを受けたのか、どのくらいの頻度で受けたのかなどについては、把握していなかったと説明している。その上で同氏は、「しかしながら、本研究で重要なのは、スクリーニング検査を通じてがんが早期発見され、死亡リスクが低減することはあっても、がんの発症リスクそのものが低減することはない点を指摘したことだ」と強調している。

 なお、現状では、卵巣がんに対して有効なスクリーニング方法は存在しない。National Comprehensive Cancer Networkのガイドラインでは、BRCA1遺伝子変異を持つ女性に対しては35〜40歳の間に、BRCA2遺伝子変異を持つ女性に対しては40〜45歳の間に両側卵巣卵管摘除術を受けることを推奨している。

 Metcalfe氏は、遺伝子検査の進歩により、より多くの女性が自分のリスクを知るようになることに期待を寄せている。同氏は、今後の研究で、手術に関する女性の意思決定と、遺伝的なリスクに対する理解に焦点を当てる予定だと話している。

[2023年2月28日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら