従来の推奨と矛盾するようにも感じるが、心不全患者では、ナトリウム(塩分)摂取量を過度に制限し過ぎるのも良くない可能性のあることを示唆する研究結果が、米国心臓病学会(ACC2023、3月4~6日、ニューオーリンズ)で発表された。米クレイトン大学のAnirudh Palicherla氏らの研究によるもので、ナトリウム摂取量を1日2.5g(食塩換算で約6.4g)未満を目標とする食事療法を行っていた人は、摂取量の上限がそれ以上の食事療法を行っていた人よりも、死亡率が80%高かったという。研究者らは、心臓に病気を抱えている患者にとって減塩が有益であることは間違いないが、どの程度まで減塩するかについては議論の余地があると述べている。
心不全は、心臓の血液を送り出す力が低下する病気。その結果、体液貯留傾向となってむくみを生じたり、肺に水が溜まって息切れを引き起こしたりする。このような状態に対して一般的に、ナトリウムの摂取を減らすことで体液貯留状態を改善するという介入が行われている。ナトリウム摂取制限は血圧の低下にもつながり、心臓の負担を軽くすることも期待できる。
これまでにも、心不全患者のナトリウム摂取制限の効果を検討する多くの研究が行われてきた。Palicherla氏らは、それらの既報研究から9件の無作為化比較試験を抽出して、メタ解析を行った。9件の研究のうち1件は1991年に発表されていたが、それ以外は2008年以降2022年までに発表された比較的新しい報告だった。研究参加者数は、合計約3,500人。
評価項目は多くの研究で、死亡または入院が設定されていた。解析の結果、1日のナトリウム摂取量上限2.5g未満を目標として介入を行ってもメリットが拡大することはなく、前述のように摂取量上限が2.5g以上の目標が設定されていた患者群よりもむしろ死亡率が高いというデータが示された。
研究グループによると、メタ解析の対象となった9件の研究は研究デザインが大きく異なり、介入方法もナトリウム摂取制限のみとする研究と、ナトリウムに加えて水分の摂取量も制限する研究が混在していた。ただし、解析対象とした研究件数と全体の研究参加者数が多いことから、研究手法に違いはあっても総合的な結論の信頼性は高いと言えるとしている。
Palicherla氏はACC発のリリースの中で、「われわれの研究結果は、食事中のナトリウム含有量を一般的な推奨値よりもさらに少なく制限することは、心不全の管理において逆効果となる可能性を示している。ナトリウム制限は依然として心不全の管理に有用ではあるが、上限値については議論の余地があるだろう。今後はナトリウム摂取量を過度に制限するのではなく、安全なレベルの上限値を確立するための研究が必要だ」と述べている。また、ナトリウム摂取制限でより大きなメリットを得られる患者群を特定するための研究も求められていると付け加えている。
米国の心不全患者数は600万人以上とされている。また米国の現行の食事ガイドラインでは、一般成人のナトリウム摂取量を1日当たり2.3g(食塩換算で約5.8g)以下にすることを推奨しているが、平均的な米国人は3.4g以上を摂取している。ガイドラインの推奨を達成するための方法として研究者らは、加工食品ではなく、できるだけ未加工の食材を使って調理すること、加工食品を用いる場合はパッケージに記されているナトリウム含有量を確認することを勧めている。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
[2023年2月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら