樹木が豊かな環境に暮らしている女性は、産後うつのリスクが低い可能性を示唆するデータが報告された。米カリフォルニア大学アーバイン校のJun Wu氏らの研究によるもので、詳細は「The Lancet Regional Health」に3月6日掲載された。
産後うつは、ホルモンバランスや環境の急な変化とそれに伴うストレスなどにより引き起こされるのではないかと考えられている。一方、緑の豊かな環境がメンタルヘルスに良い影響を与えることが知られている。ただし、緑の豊かさと産後うつリスクの関係に焦点を当てた研究は少なく、これまでに報告されている研究も結果に一貫性がない。また、緑に接することによるメンタルヘルスへの影響は、視線の高さによって異なり、低木や草地を見下ろした時よりも高い木々を見上げた時の方が、影響が大きいとする研究結果も報告されている。
これらを背景としてWu氏らは、緑の豊かさと産後うつとの関係を、草木の高さを考慮して検討した。また、緑が豊かな環境の方が身体活動量が多くなり、それによって産後うつリスクを押し下げるのではないかとの仮説を立て、その点の検討も行った。
研究には、南カリフォルニアの人口の約19%が加入しているカイザーパーマネンテの医療データを利用。2008~2018年の単胎妊娠女性から、死産や居住地が不明な人などを除外した41万5,020人(平均年齢30.2±5.8歳)を解析対象とした。そのうち4万3,399人(10.5%)が産後うつと診断されていた。居住地域の緑の豊富さや草木の高さは、人工衛星で収集されたデータに基づく正規化植生指数(NDVI)という指標や、ストリートビューの画像解析に基づく指標で評価した。また、最寄りの公園までの距離も評価項目に加えた。身体活動量は、妊娠から出産まで平均7回行われたインタビューの回答から把握した。
産後うつリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、BMI、人種/民族、喫煙習慣、世帯収入、保険の種類、早産および妊娠関連合併症など)の影響を調整後、自宅から500m以内の緑の豊かさと産後うつリスクとの間に有意な関連が認められた〔ストリートビューに基づく指標が四分位範囲高いごとの調整オッズ比が0.98(95%信頼区間0.97~0.99)〕。ただし、低木や草地の豊かさ、最寄りの公園までの距離は、産後うつのリスクと有意な関連がなかった。媒介分析の結果、緑の豊かさと産後うつリスクとの関連の2.7~7.2%を、身体活動量で説明できることが分かった。
論文の著者らは、本研究は因果関係を示すものではないが、緑が豊かな環境での生活が人々のメンタルヘルスに好影響をもたらすことを示す一連の研究に、新たな知見を加えられたとしている。またWu氏は、「自宅のそばに木立があり、日影があって空気も良いという環境は、産後の女性にとってより重要なことかもしれない」と語っている。その理由として、「産後間もない女性は疲れており、時間の余裕も少ないと考えられる。わざわざ公園まで出かけるよりも、自宅周辺が緑の豊かな環境なら、すぐにそこへ足を踏み入れられるからだ」としている。
Wu氏らの報告について、米ワシントン大学のKathleen Wolf氏は、「緑の豊かさとメンタルヘルスとの関連は多くの研究で示されてきている。両者の関連のメカニズムとして、この研究では身体活動量に着目しているが、緑が豊富な環境で暮らすことには身体活動量以外にもさまざまなメリットがある」と述べている。例えば、豊かな緑はストレス解消に役立ち、緑の中で時間を過ごす習慣のある人は血圧や心拍数、およびストレスホルモンであるコルチゾールのレベルが低いことが報告されているとのことだ。
さらに、Wu氏とWolf氏はともに、緑豊かな環境で暮らすことで外出の機会が増え、社会とのつながりが強まるというメリットも挙げている。一方で、都会の緑は高所得者が多く暮らす地域に集中しているという現状の問題点も指摘。Wolf氏は、「緑地の確保が公衆衛生上の課題であることを示すエビデンスが既にそろっている」とし、「今回報告された研究も、都市計画の政策立案者に対して緑地の位置付けの再考を促すものと言える。自然はわれわれの公共の財産であるべきだ」と述べている。
[2023年3月9日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら