心臓の形を評価することが、心疾患の発症リスクの予測に役立つ可能性があることが明らかになった。形が真球に近いほど、そのリスクが高いと考えられるという。米スタンフォード大学のShoa Clarke氏らの研究によるもので、詳細は「Med」に3月29日掲載された。
心臓の状態を評価する際、現在は収縮機能や心腔の大きさなどの指標を参考にすることが多い。今回の研究から、それらの指標とともに、心臓の真球度(直径の乱れの少なさ)も優れた指標である可能性が示された。ただしClarke氏は、「心臓の形が真球に近いこと自体は恐らく疾患ハイリスクの原因ではなく、真球度は何らかの疾患のマーカーと言える。より真球に近い心臓の人は、心筋症や心筋に関連している機能障害を持っている可能性がある。治療方針の決定のために参照する情報のリストに、心臓の真球度を組み込むことの有用性の有無を検討するだけの価値があるのではないか」と語っている。
研究者らは、これまでの臨床経験から、心臓の形状が心疾患のリスクと関連があるのではないかと考えていた。実際にその関連性を指摘した研究も報告されている。ただしそれらの報告は、心疾患を発症後の患者の心臓の形状について検討したものだった。今回の研究では、心疾患を発症する前の心臓の形状が、その後の心疾患の発症リスクに関連しているとの仮説の下で行われた。Clarke氏によると、「今日では、情報処理技術を用いることで、大量の医療画像データを短時間で解析できるようになった。それにより、従来はあまり注目されていなかった心臓の評価項目の有用性を検討できるようになった」という。
この研究のためにClarke氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報ベース「UKバイオバンク」から、心臓MRI検査で正常と判定されていた3万8,897人(平均年齢54.9±7.6歳、男性46.2%)のデータを解析に用いた。それらの解析対象者のその後の医療記録を参照して、心筋症、心房細動、心不全などの発症を把握。心臓MRI検査のデータから求めた真球度を表す指標との関連を調べた。
性別や年齢、BMI、脈拍数、高血圧・糖尿病・心臓病・心筋梗塞の既往、左室駆出率などを調整後、心臓の真球度の指標が1標準偏差高いごとに、心筋症のリスクが47%増加するという関係が示された〔ハザード比(HR)1.47(95%信頼区間1.10~1.98)〕。また、心房細動のリスクは20%増加していた〔HR1.20(同1.11~1.28)〕。心不全に関しては、性別、年齢、BMI、脈拍数、高血圧・糖尿病・心筋梗塞の既往で調整したモデルでは有意だったが〔HR1.23(同1.10~1.38)〕、調整因子として左室駆出率などの収縮機能の指標を追加した場合には非有意となった。
論文の共同責任著者の1人で、米シダーズ・サイナイ医療センター、シュミット心臓研究所のDavid Ouyang氏は、「『百聞は一見にしかず』と言われるが、過去の画像データを用いたわれわれの研究の背景と結果も、そのことわざどおりではないか。現在、医師は従来活用していた情報をはるかにしのぐ量のデータを利用可能になった。心臓の大きさと予後に関連のあることは古くから知られていたが、心臓の形状も予後と関係があったようだ」と語っている。
なお、この研究からは、心臓が真球に近い形状になることと関連のある遺伝的因子も明らかになった。その一部は、心筋症のリスクと関連のある遺伝的因子と重複していた。著者らは、「従来の検査指標からは正常と判定される人における心筋症などのリスクを、真球度によって予測できるのではないか」と結論付けるとともに、「この知見を臨床に生かすにはさらなる研究が必要」と述べている。
[2023年3月30日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら