モノクローナル抗体薬は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療において有効なツールであったようだ。米ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)のKevin Kip氏らが、UPMCのCOVID-19患者データベースを分析したところ、検査での陽性判定から2日以内にモノクローナル抗体薬による治療を開始した患者では、同薬による治療を受けなかった患者と比べて入院や死亡のリスクが39%低下していたことが明らかになった。この研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に4月4日掲載された。
米食品医薬品局(FDA)は、2020年から2022年にかけて、COVID-19治療薬として5種類のモノクローナル抗体薬に緊急使用許可(EUA)を付与した。新型コロナウイルスは人間の細胞に侵入すると増殖して重症化をもたらすが、これらのヒトモノクローナル抗体薬はウイルスが細胞に侵入するのを阻害するよう設計されている。しかし、新型コロナウイルスの進化に伴い、モノクローナル抗体薬も新たなものが導入される一方で、効果を失ったものはEUAが取り消されて使用されなくなった。
UPMCは、2020年後半にCOVID-19治療薬としてモノクローナル抗体薬が初承認された段階から、米ペンシルベニア州やニューヨーク州、メリーランド州に多くのクリニックを開設し、救急部門のインフラ整備を行い、訪問診療を手配して、患者にこの抗体薬を届けるための体制を強化してきた。
2022年11月、FDAはCOVID-19治療薬として残っていた最後のモノクローナル抗体薬のEUAを取り消した。その時点でUPMCは、モノクローナル抗体薬による治療を受けた2,571人(モノクローナル抗体薬群)の臨床データを収集。さらに、モノクローナル抗体薬使用群と背景を一致させた、モノクローナル抗体薬の治療対象となる条件を満たしていたが同薬による治療は受けなかったCOVID-19患者5,135人(対照群)を比較した。
その結果、新型コロナウイルスの陽性判定から28日時点で入院または死亡が生じた患者の割合は、モノクローナル抗体薬群4.6%、対照群7.6%であり、前者では後者よりも同リスクが39%低いことが明らかになった〔リスク比(RR)0.61、95%信頼区間0.50〜0.74〕。また、オミクロン株流行期と比べて、アルファ株やデルタ株の流行期の方が、同薬による治療のベネフィットが大きかったことも示された(RRは、アルファ株流行期で0.55、デルタ株流行期で0.53、オミクロン株流行期で0.71)。これについてKip氏らは、「初期の流行株はより致死率が高かったことと、当時は過去の感染やワクチン接種によって免疫を獲得した人が少なかったことが影響したのではないか。オミクロン株流行期には、全般的に感染者の死亡や入院のリスクが低下していたため、モノクローナル抗体薬による治療の全体的なベネフィットも減少した」との見方を示している。
Kip氏は、「今回の研究では、モノクローナル抗体薬による治療を受けた患者のデータベースとしては米国で最大規模のUPMCのデータベースを用いた。その結果、同薬による治療を武器にCOVID-19に立ち向かったことで人々の命を救い、入院を予防できていたという、明確な結論を得ることができた」と同大学のニュースリリースで語っている。
共同研究者の1人でUPMC感染症向上・臨床研究イノベーション部門のErin McCreary氏は、「現時点では、一般集団におけるCOVID-19による死亡リスクは比較的低い。しかし、このウイルスがいかに短期間で変異して広がっていくかは、これまで見てきた通りだ。今後、致死率がさらに高い変異株が現れることはないと確信を持って言える人はいないはずだ」と指摘。その上で、「もし今後、そのような変異株が現れたとしても、早めに抗体薬による治療を行えば、感染者の命を救い、入院も回避できるという安心材料が、今回の研究によって得られた」と述べている。
[2023年4月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら