肺がんになる前に禁煙していた人は、肺がんが見つかった時にも喫煙していた人よりも、発がん後の死亡リスクが低いことを示すデータが報告された。米ハーバードT. H.チャン公衆衛生大学院のDavid Christiani氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に5月5日掲載された。
喫煙者の肺がんリスクが高いことは広く知られているが、喫煙者が禁煙した後に肺がんに罹患した場合の予後への影響はよく分かっていなかった。今回の研究によって、肺がんと診断された時点で喫煙習慣のあった人は、喫煙歴のない肺がん患者に比べて死亡リスクが68%高いのに対して、診断前に禁煙していた人のリスク上昇幅は26%であることが示された。また、禁煙期間が長ければ長いほど、肺がん診断後の死亡リスクが低いという関連があることも明らかになった。Christiani氏は、「この結果により、禁煙すれば、たとえ肺がんになってもメリットを得られると、力強く言えるようになった」と語っている。
この研究の対象は、米マサチューセッツ総合病院で1992~2022年に非小細胞肺癌(肺がんの85%を占めるとされる最も一般的なタイプ)の患者5,594人(平均年齢65.6±10.8歳、男性53.4%)。このうち喫煙歴のない患者が14.2%(非喫煙群)、以前に喫煙習慣があり肺がん診断前に禁煙していた患者が59.1%(元喫煙群)、診断時点で喫煙していた患者が26.7%(現喫煙群)だった。肺がん診断後は、12~18カ月ごとに追跡調査が行われた。
全生存期間(OS)は非喫煙群が中央値58.9カ月、元喫煙群が同51.2カ月、現喫煙群が34.0カ月だった。年齢、性別、がん組織学的悪性度、臨床病期などを調整後に死亡リスクを検討すると、非喫煙群を基準として元喫煙群はハザード比(HR)1.26(95%信頼区間1.13~1.40)、現喫煙群はHR1.68(同1.50~1.89)となった。
喫煙指数(1日の喫煙本数と喫煙年数の積)が2倍になるごとに、死亡リスクは7%高くなることも分かった〔HR1.07(同1.04~1.11)〕。その一方、禁煙から肺がん診断までの期間が長いほど、死亡リスクが低いことも分かった。喫煙指数と禁煙から肺がん診断までの期間の双方を説明変数に含めた多変量解析では、喫煙指数は死亡リスクと有意な関連が示されなかった一方で、肺がん診断までの期間が2倍長いごとに死亡リスクは4%有意に低下するという関連が示された〔HR0.96(同0.93~0.99)〕。
著者らは本研究の限界点として、肺がんに対してどのような治療を行ったのかという点や、生活習慣関連因子が考慮されていないことなどを挙げている。元喫煙者は禁煙をするタイミングで、喫煙以外の生活習慣も改善する傾向があり、そのことが死亡リスクに対して保護的に働いていた可能性もあるという。
なお、この研究は米国立がん研究所の資金提供を受けて実施された。
[2023年5月8日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら