買い物袋の持ち運びや車の運転のような努力を要する身体動作を行う際に、高齢者は若年者よりも、その動作とは関係のない物事に気を取られやすいことが、米カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)のLilian Azer氏らの研究で示唆された。この研究結果は、「Psychology and Aging」に4月27日掲載された。
この研究には65~86歳の高齢者19人と18~28歳の若年成人31人が参加した。全ての参加者に、短期記憶の課題に取り組みながら、同時に握力計を最大努力時の5%または30%の力で握ってもらった。握力の強さは、階段を上るときや車の運転時、食料品の入った袋の運搬時に発揮する力を想定したもので、視覚的尺度により参加者にリアルタイムで発揮している力の強さをフィードバックした。なお、車の運転では最大努力時の約30%、買い物袋を持ち運ぶ際には最大努力時の約20%の握力が使われることが多いという。
参加者が受けた短期記憶テストは、妨害が入らないパターンと妨害が入るパターンの2パターンが用意された。妨害が入らないパターンのテストは、3本の赤色の棒が配置された図を一瞬だけ見た後に、それらの棒の配置(向き)を思い出すという内容。一方、妨害が入るパターンのテストは、赤色の棒3本と青色の棒5本が配置された図を見て、赤色の棒の配置のみを覚えるという内容。青色の棒は、色鮮やかな看板や車のクラクション、自分には関係のない会話などに近いレベルの妨害要因を想定している。
その結果、高齢者では、高い運動努力を要する状況下で妨害が入ると、それを無視する能力と、課題に集中して正確な回答を出す能力が低下することが明らかになった。若年成人ではこのような能力低下は認められなかった。
Azer氏は、「今回の研究から、高齢者は若年成人と比べて、認知力を要する課題と努力を要する身体動作の課題に同時に取り組んでいる最中に、周囲からの妨害を無視できにくいことが明らかになった。人は加齢に伴い、取り組んでいる課題には関係のないことを無視する力は低下していく。特に、日常生活で遭遇するような身体的な課題を行っている最中には、その低下が顕著になる」と説明している。
論文の上席著者でUCR心理学准教授のWeiwei Zhang氏によると、人間は加齢に伴い、短期記憶力や情報処理速度の低下、注意散漫さの程度の増大などの認知機能の変化を経験する可能性が高いという。同氏は、「認知機能と身体動作の相互作用を解明することで、周囲からの気が散る情報がいかにわれわれのワーキングメモリ(作業記憶)を低下させ得るのかに対する意識を高められる可能性がある」と付け加えている。
Azer氏は、努力を要する身体動作の多くは認知力も要するものであると指摘。「そのような課題を周囲からの妨害が全くない状況で取り組めることはまれであるため、できるだけ妨害を少なくすることが重要だ」と話す。その上で同氏は、「それが不可能であるなら、努力を要する身体的課題によって、ワーキングメモリの課題を実行する能力と、周囲からの気が散る情報を無視する能力が低下する可能性があることを、認識しておく必要がある」と述べている。
[2023年5月16日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら