早期膵臓がんに対する、腹腔鏡下またはロボット支援下でがんを切除する侵襲性の低い「低侵襲膵体尾部切除術(以下、低侵襲切除術)」では、開腹してがんを切除する「開腹膵体尾部切除術(以下、開腹切除術)」と同程度の手術成績が得られ、手術後の患者の回復も早いことが、新たな臨床試験で示された。Fondazione Poliambulanza(イタリア)のMohammad Abu Hilal氏らによるこの試験の結果は、米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023、6月2~6日、米シカゴ)で発表された。Hilal氏は、「この種のものとしては初となる今回の臨床試験において、切除可能な膵臓がんの治療で低侵襲切除術は、開腹切除術に代わる安全かつ有効で効率的なアプローチになり得ることが確認された」と説明している。
今回Hilal氏らが報告した臨床試験では、1,100人以上の膵臓がん患者のスクリーニングが実施され、このうち258人が、化学療法による治療を開始せず手術で腫瘍の切除が可能な早期膵臓がんと診断された。試験は2018年5月8日から2021年5月7日にかけて、12カ国に所在する35カ所の医療機関で実施された。258人の早期膵臓がん患者は、腹部の何カ所かを小さく切開して膵臓と脾臓を切除する低侵襲切除術群(117人)と、腹部を大きく切開して切除する標準的な開腹切除術群(114人)のいずれかにランダムに割り付けられた。
その結果、がんを完全に切除できた割合は、低侵襲切除術群で73%、開腹切除術群で69%だった。また、手術中に切除されたリンパ節の数(平均)は同順に22個、23個、腹腔内のがん再発率は同順に41%、38%と、いずれもほぼ同程度であった。
この試験結果について、ASCOのチーフメディカルオフィサーであるJulie Gralow氏は、「低侵襲切除術には、医師の追加のトレーニングや技術的なスキルが必要となるものの、患者の術後の回復は驚くほど早い。侵襲性が低い方法で、がんを残さず切除でき、再発率も開腹手術と同程度であるなら、患者にとっては低侵襲手術の方が良い」とする見解を示し、「今後の標準治療を変える可能性がある」と期待を示す。
その一方でGralow氏は、現時点では誰もが低侵襲手術を受けられる状況にはないことを指摘。「米国の農村部の多くや、膵臓がん手術を一般外科医が担っている所では、医師が低侵襲切除術の方法を習得していない可能性がある」と話す。Hilal氏も、「小規模病院の外科医は、低侵襲切除術のトレーニングや施行経験がない場合が多い。低侵襲手術はかなり複雑で、開腹手術と比べて難易度も高い」と説明している。
また、膵臓がんは進行した段階で見つかることが多いため、手術を治療選択肢として考慮できる膵臓がん患者が少ないことにもGralow氏やHilal氏は言及。Gralow氏は、「残念ながら、手術が適応となる段階で膵臓がんと診断される患者の割合は、膵臓がん患者全体のわずか15%に過ぎない。ほとんどの膵臓がん患者は、診断時にはすでに腫瘍を切除できない段階にまで進行している」と現状について説明する。なお、ASCOによると、手術による治療が可能な早期膵臓がんの5年相対生存率は44%である。
一方Hilal氏は、「今回のランダム化比較試験の結果がきっかけで、幸いにも早期の段階で膵臓がんが見つかった患者に対して、これまで以上に低侵襲切除術が施行されるようになるはずだ」との見方を示している。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
[2023年5月26日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら