点眼薬によって子どもの近視の進行を抑制できることが、新たな研究から明らかになった。米オハイオ州立大学のKarla Zadnik氏らが行った、低用量アトロピンを用いた3年間にわたる二重盲検無作為化比較試験の結果であり、詳細は「JAMA Ophthalmology」に6月1日掲載された。
アトロピンは副交感神経の働きを抑える薬で、多くの症状の治療目的で用いられていて、眼科領域では検査のために瞳孔を広げる用途で使われている。今回の研究では、このアトロピンを毎日点眼した子どもはプラセボを点眼した子どもよりも、視力の低下が少ないことが示された。ただし専門家によると、この結果が近視に伴う問題の全てを解決するわけではないという。
Zadnik氏によると、「近視は眼軸長(眼球表面から網膜までの距離)が長くなった時に生じる。それによる視力低下は眼鏡やコンタクトレンズで解決できるが、子どもの近視は少なくとも10代半ばまで進行し続けることが多い。また、成人後の重度の近視は網膜剥離や緑内障などのリスクを高めることがある」という。そして「われわれの研究結果から言えることは、アトロピン点眼による3年以内の視力の変化への影響だけであって、成人後に発症する近視に伴う疾患のリスクをこの薬が抑制するのか否かの確認には、非常に長期に及ぶ研究が必要とされる」と話している。
アトロピンが近視の進行抑制に働く機序についてZadnik氏は、「眼軸長が長くなるのを抑える作用によるものと考えられている」と解説。また、現状でも多くの眼科医が、低用量のアトロピンを子どもの近視進行抑制のために適応外で処方しているという。ただし、薬に含まれている防腐剤のためにドライアイなどの角膜疾患の副作用の懸念があるとのことだ。今回の研究は、眼科用薬メーカーのVyluma社が開発中の防腐剤が含まれていない低用量アトロピンの有効性と安全性を検討する、第3相臨床試験として実施された。同社は同薬について昨年末、米国食品医薬品局(FDA)の承認申請に向けての計画を発表している。
この研究の解析対象は、平均年齢8.9±2.0歳の近視のある子ども573人(女児54.7%)。無作為に3群に分け、それぞれ濃度0.01%のアトロピン、0.02%のアトロピン、プラセボを1日1回点眼してもらった。3年後、視力低下や眼軸長の延長の抑制が認められた割合は、プラセボ群が17.5%であったのに対してアトロピン0.01%群は28.5%、0.02%群は22.1%だった。0.01%群はプラセボ群より有意にそのオッズ比(OR)が高く〔OR4.54(95%信頼区間1.15~17.97)〕、0.02%群は非有意だった〔OR1.77(同0.50~6.26)〕。
この研究から、新たな疑問も生じた。その一つは、アトロピンの点眼をいつまで続けるのかという点だ。本研究には関与していない米マウントサイナイ眼科耳鼻咽喉科のRudrani Banik氏は、「いつになったら中止すべきかについて、指針となるデータはない。これまでアトロピンを適応外使用してきている眼科医は、視力低下が停止した場合はいったん処方を中止し、再び視力が低下し始めたら処方を再開するといった対応をしている」と話す。
なお、同氏はアトロピン点眼以外の近視進行抑制方法として、屋外で過ごす時間を増やすことを提案している。「理由は明らかになっていないが、屋外で多くの時間を過ごす子どもたちは近視の進行が遅いことが分かっている」とのことだ。
[2023年6月2日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら