超高精細CTによる冠動脈の血管造影検査(UHR CCTA)により、重度の冠動脈石灰化があったりステントを留置している高リスク患者でも冠動脈疾患を正確に診断できることが新たな研究で示された。フライブルク大学(ドイツ)のMuhammad Hagar氏らによるこの研究結果は、「Radiology」に6月20日掲載された。
冠動脈疾患は、狭心症、心筋梗塞の総称であり、冠動脈の内壁にコレステロールなどが蓄積することで血管が狭まって血流が悪くなり、心筋への血液供給が不足したり途絶えたりすることで生じる。静脈から造影剤を注入して、冠動脈内に脂肪やカルシウムの沈着がないかなどをCTで確認する非侵襲的なCCTAは、冠動脈疾患のリスクが低度から中等度の患者では、同疾患の除外診断に極めて有効な手段だ。しかし、冠動脈の石灰化が進んでいたり、すでにステントを留置していることの多い高リスク患者に対するCCTAの場合には、石灰化が実際以上に広範囲に描写されることがあり、それが閉塞やプラークの過大評価、偽陽性判定の多発につながる。「その結果、患者に、本来は不必要で多くの場合は侵襲的な検査が行われることになる。このため、現行のガイドラインでは、高リスク患者に対するCCTAの使用は推奨されていない」とHagar氏は説明する。
今回の研究は、こうしたCCTAの欠点を克服できる可能性が期待されている、フォトンカウンティング検出器を搭載した次世代CTによる冠動脈の血管造影検査(UHR CCTA)の臨床上の有効性を検討したもの。フォトンカウンティング検出器はX線の最小単位であるフォトン(光子)を個々に検出し、そのエネルギーレベルを測定できるため、従来のCTよりも高精細でコントラスト表現の豊かな画像を取得することができる。
研究対象者は、重度の大動脈弁狭窄症を有し、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)のためのCT検査が必要な68人(平均年齢81±7歳、男性32人、女性36人)。全対象者に、UHR CCTAが実施された。これらの対象者は、臨床上のルーチンとして侵襲的冠動脈造影(ICA)も受けていた。
その結果、UHR CCTAで取得した画像の総合画質スコアは、1を「非常に優れている」とする5点満点で1.5点(中央値)と高いことが示された。次に、ICAを参照基準として、UHR CCTAによる冠動脈疾患の検出能をROC曲線下面積(AUC)で検討したところ、狭窄が50%以上の冠動脈疾患検出のAUCは、対象者レベルで0.93、血管レベルで0.94、血管セグメントレベルで0.92と算出された。また、UHR CCTAの狭窄が50%以上の冠動脈疾患検出に対する感度、特異度、精度は、対象者レベルで96%、84%、88%、血管レベルで89%、91%、91%、血管セグメントレベルで77%、95%、95%であった。こうした結果から、研究グループは、UHR CCTAは冠動脈疾患の高リスク患者においても同疾患を正確に診断できることが示されたと結論付けている。
Hagar氏は、「フォトンカウンティング検出器の技術開発により、非侵襲的CCTAにより恩恵を受けることができる患者を大幅に増やせる可能性がある」と述べ、「これは、患者や画像診断業界にとって素晴らしいニュースだ」と喜びを表す。
ただし、UHR CCTAは、解像度を向上させるためにより多くの光子を放出するため、従来のCTスキャナーよりも放射線被曝量が増加するという問題がある。とはいえ、この技術はまだまだ初期段階にあり、放射線被曝量を減らすための方法の開発も進められているとHagar氏は説明する。
Hagar氏は、「現状では、この技術による検査を行う対象は、ベネフィットがリスクを上回る冠動脈疾患の高リスク患者に限定すべきだ。だが、この技術は今後10年以内にもっと普及する可能性がある」との期待を示す。そして、「30年前のマルチスライスCTが登場したときと同様に、フォトンカウンティングCTは次世代のCTスキャナーの始まりだと私は確信している。今後の展開が楽しみだ」と話している。
[2023年6月20日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら