腎機能が低下している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対するレムデシビルの安全性を検討した研究結果が報告された。eGFR30mL/分未満と以上の患者群を比較した結果、死亡率や有害事象発生率に有意差はなかったという。公立陶生病院薬剤部の梅村拓巳氏らによる研究であり、詳細は「Healthcare」に11月17日掲載された。
レムデシビルはCOVID-19治療薬として世界的に使用されている抗ウイルス薬。ただし、添加剤のスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウム(SBECD)の尿細管への蓄積により、腎機能の低下が促される可能性があるとの理由で、重度の腎機能障害患者への投与は推奨されていない。レムデシビルを用いた臨床試験の対象者も多くの場合、腎機能が低下している患者が除外されているため、腎機能低下症例での安全性に関する情報はいまだ十分でない。しかし実臨床では、腎機能が低下しているCOVID-19患者であっても同薬が必要とされることが少なくない。このような背景のもと梅村氏らは、同院入院患者での後方視的症例対照研究により、同薬の安全性を検討した。
2020年3月~2022年4月に同院で入院治療を受けレムデシビルが投与されていたCOVID-19患者から、18歳未満、腎代替療法を行っている患者、および解析に必要なデータの欠落者を除外。残った227人の中に、eGFR30mL/分未満の重度腎機能障害患者が23人含まれていた。傾向スコアによって、年齢、性別、COVID-19重症度(WHO分類)、重症化リスク因子(BMI30以上、高血圧、糖尿病、心・脳血管疾患、免疫不全、慢性肝疾患、慢性肺疾患、がんの既往など)、および腎毒性のある薬剤の処方状況をマッチングさせたeGFR30mL/分以上の患者を抽出し、各群23人のデータセットを作成した。
主要評価項目として、レムデシビル投与開始から30日以内の死亡を設定。そのほかに、同薬投与終了から48時間後までの急性腎障害(AKI)、肝機能障害、貧血、血小板減少症などの有害事象の発生状況を比較した。
レムデシビル投与開始から30日以内の死亡は、両群ともに3人(13%)であり有意差がなかった〔リスク比(RR)1.00(95%信頼区間0.18~5.56)〕。死因については、eGFR30mL/分未満群の2人はCOVID-19関連死であり、1人は細菌性肺炎に関連するものだった。eGFR30mL/分以上群はCOVID-19関連死が2人、重度の脱水に関連する死亡が1人だった。
有害事象に関しては、AKIはeGFR30mL/分未満群では発生せず、eGFR30mL/分以上群では1件発生〔RR1.05(同0.96~1.14)〕、肝機能障害は同順に2件と1件が発生し〔RR0.48(同0.04~5.66)〕、いずれも有意差がなかった。さらに、貧血や血小板減少症の発生率も有意差がなかった。なお、eGFR30mL/分未満群でもレムデシビル投与開始後に血清クレアチニン(sCr)値が急に上昇するような症例は認められず、投与開始後のsCrは時間経過に伴い徐々に低下する傾向が見られた。
著者らは本研究が単施設での後方視的研究であること、レムデシビル投与に伴う腎機能低下のリスク要因とされるSBECDのレベルを測定していないことなどを限界点として挙げた上で、「腎機能障害の有無は、レムデシビルによるCOVID-19治療の安全性にほとんど影響を及ぼしていなかった。本研究の結果は、重度腎機能障害を有するCOVID-19患者の治療選択肢の判断において重要な意義を持つのではないか」と述べている。
[2023年2月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら