世界的な新型インフルエンザのパンデミックが懸念される中、Tom Jefferson氏らイタリア・Cochrane Collaboration急性呼吸器感染症研究グループは、呼吸器系ウイルスの感染防御策に関するシステマティックレビュー解析を行い、BMJ誌2009年10月3日号(オンライン版2009年9月22日号)で報告した。結果は、より低コストな対策(手洗い、マスク着用、外出規制・自粛の要請)については効果的とのエビデンスが確認されたが、高コストの対策については確たるエビデンスは確認できていないことが明らかになったという。
物理的な介入効果のエビデンス検証を目的にシステマティックレビュー
レビューは、ウイルスの感染拡大を防ぐ、もしくは減じるための物理的な介入効果のエビデンスを検証することを目的とした。
文献データベース(Cochrane Library、Medline、OldMedline、Embase、CINAHL)で、呼吸器感染症ウイルスの感染拡大防止介入(隔離、検疫、外出規制・自粛の要請、検問所等のバリア設置、個々人による予防、手洗いなどの励行)に関する研究論文(無作為化・コホート・ケースコントロール・前向き・後向き・前後比較に研究デザインされたもの)を選定し検討した。論文選定に関して、適格性、バイアスについても留意された。
2007~2009年分から該当すると思われる研究論文は2,958件あったが、最終的にレビューに相当する研究論文として、59試験・58論文が選ばれた。
オッズ比は、手洗い0.45、マスク着用0.32、ただし高価なN95マスク着用は0.09
対象研究の質は、無作為化対照試験4件すべてと、対象論文として最も多かった14件のクラスター無作為化試験は、いずれも不十分なもので、観察研究の質は玉石混合だった。
メタ解析されたのは、6件のケースコントロール試験で、物理的な介入が、重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染拡大に非常に効果的であることを示すものだった。具体的には、「1日10回以上の手洗い」は、オッズ比:0.45、治療必要数(Number needed to treat;NNT):4例。「マスク着用」では、オッズ比:0.32、NNT:6例。高性能とされ高価格の「N95マスク着用」は、オッズ比:0.09、NNT:3例。「グローブ着用」は、オッズ比:0.43、NNT:5例。「ガウン着用」は、オッズ比:0.23、NNT:5例。「手洗い・マスク・グローブ・ガウン着用の複合」は、オッズ比:0.09、NNT:3例だった。
複合対策は、家庭でインフルエンザが拡がるのを防ぐのにも有効であることが示されていた。
また、クラスター無作為化試験で最も質の高かった研究報告では、手洗い励行等の衛生対策が、若年者および家庭でのウイルス感染の拡大に有効であることが示されていた。
手洗い後の消毒液の効果はなお不明
一方で、高価で付け心地も悪いN95マスク着用は、マスク機能は優れていたが、皮膚刺激を起こすという点で限界が認められた。
手洗い後に消毒液を付加することの効果については、なお不明のままだった。検疫については、適切な評価が行われていなかった。外出規制・自粛についてのエビデンスは限定的で、特に曝露リスクがより高く、リスクが高い疾患で、長期間にわたるような場合は効果的とは言えなかった。
これらを踏まえ研究グループは、「呼吸器系ウイルス感染拡大防御の長期に有効なルーチン策として、これと言えるものは今のところない。ただし、シンプルかつ低コストな対策が感染拡大を減じることは確認できた。最も有効でフレキシブルで費用対効果の高い対策を講じるためにも、研究費を投じて検証をする必要がある」と報告をまとめている。