2000年、イギリス保健省は救命救急医療改革の提唱を支持し、ベッド数を35%増やすための資金を投入した。その結果、治療プロセスや患者転帰(死亡リスク)が大幅に改善したといわれている。ロンドン大学公衆衛生・熱帯医学校のAndrew Hutchings氏らの研究グループは、2000年後半にイギリス全土を対象に始まった救命救急医療改革を評価するため、時系列で費用対効果の分析を行った。BMJ誌2009年11月14日号(オンライン版2009年11月11日号)より。
改革前後のインプット、プロセス、アウトカムをコスト換算し財政効果を算出
研究では、医療制度改革前後(1998~2000年と2000~2006年最終四半期)の、インプット、プロセス、アウトカムの評価が行われた。対象施設は英国内96の救命救急診療ユニットで、分析対象は同ユニットへの入院患者34万9,817例。各ユニットは、2000年時の改革の鍵となった「ケアバンドル」(臨床ガイドライン群)の導入状況と受け入れ体制増量の状況によって分類され評価された。
主要評価項目は、インプット(ベッド数、コスト)、プロセス(他ユニットへの転送、退院時の状況、入院期間、再入院率)、アウトカム(ユニット内死亡率、院内死亡率)で、いずれもケースミックス補正が行われた。またケースミックス補正後の年間コストとQALYs(生活の質を調整した生存年)との差で正味財政効果が算出された[このとき個々人の生涯QALYは20,000ポンド(33,170ドル、22,100ユーロ)と見積もられ正味財政効果から差し引かれた]。最終的に、2000年の改革以前と以後との差の正味財政効果が報告された。
救命救急医療改革はひとまず成功と評価
2000年の改革以後6年間は改革前3年間と比べて、ユニット内死亡率リスクは11.3%減少し、院内死亡率リスクも13.4%低下していた。このことによってユニット間の転送、予定外の夜間退院もかなり低下していた。
平均の年次正味財政効果の増大は、2000年以降は402ポンド(667ドル、445ユーロ)から1,096ポンド(1,810ドル、1,210ユーロ)と有意で、費用対効果が優れていることが見て取れた。ただし、これらの改善にどのようなことが寄与しているかは確認できなかった。
研究グループは、英国NHSの救命救急医療は2000年以降、実質的にかなりの改善がもたらされたとしたうえで、どの因子が主要な要因であったかは不明だが、様々な要素をあわせて介入したことが、NHS資源の高度な費用対効果をもたらす活用に結びついたと結論づけている。