退職は健康の素?

提供元:ケアネット

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公開日:2009/12/17

 



現役期間中の主観的に不良な健康状態は、退職によって実質的に改善されることが、スウェーデンStockholm大学ストレス研究所のHugo Westerlund氏らが行ったGAZELコホートに関する調査で明らかとなった。人口の高齢化が進み、多くの先進国政府は定年延長による労働力人口の増加を模索しているが、低年齢化の傾向にある引退年齢を逆行させるのは難しく、特に健康状態が不良で退職後の健康的な生活に期待を寄せながら働いている高齢の労働者の場合はそうである。「健康意識」は罹病率や死亡率とともに早期退職率の強力な予測因子であるが、仕事と退職が高齢勤労者の健康意識に及ぼす影響についてはほとんど知られていないという。Lancet誌2009年12月5日号(オンライン版2009年11月9日号)掲載の報告。

退職の前後で自己評価による健康状態を調査




研究グループは、高齢労働者において仕事および退職が自己評価による主観的な健康に及ぼす影響について検討する縦断的なコホート研究を実施した。

1989~2007年まで毎年、GAZELコホートの労働者1万4,714人を対象に、最長で退職前7年~退職後7年までの14年にわたって自己評価による健康状態を調査した。GAZELコホートは、フランス電力・ガス公社(EDF-GDF)の労働者で構成される。彼らは公務員に準じる地位にあり、典型的には20歳代に雇用されて定年まで勤める終身雇用である。

参加者の健康やライフスタイル、家族や仕事の背景に関する情報はフランス国立衛生研究所(INSERM)によって収集された。解析には、一般化推定方程式(GEE)による反復測定ロジスティック回帰を用いた。

退職により不良な健康状態が有意に5%低減、労働生活を再設計すべき




全体として、自己評価による不良な健康状態は加齢とともに増加した。一方、退職前後の8~10年間で主観的な健康が増進し、退職前と退職後では不良な健康状態の推定有病率が19.2%から14.3%へと低減した。この退職による主観的な健康の改善は男女ともに、また職能等級の高い者、低い者ともに有意であり、その効果は退職後7年間を通じて持続した。

退職前の劣悪な労働環境および健康上の愁訴は、不良な健康状態有病率の急峻な年次増加を現役期間中持続的に促進し、退職による健康改善効果はさらに増大した。その一方で、職能等級が高くて需要が低く、かつ仕事に対する満足度の高い労働者においては、このような退職関連の改善効果は示されなかった。

これらの知見は、「主観的な健康問題に関しては、理想的な就労環境にある者は別にして、すべての労働者が退職によって実質的に不健康の負担から解放されることを示唆する」と著者は結論し、「労働力人口を増やすには、高齢勤労者がより高度な労働市場へ参画できるよう、労働生活(working life)を再設計する必要がある」と指摘する。

(菅野守:医学ライター)