中~高リスクの待機的非心臓手術を受ける患者は、術前の非侵襲的心臓負荷検査によって1年生存率が改善され、入院期間が短縮することが、カナダ臨床評価学研究所(ICES)のDuminda N Wijeysundera氏が実施したコホート研究で示された。術前の非侵襲的心臓負荷検査は術後の心臓合併症を予防する可能性があるという。また、虚血性心疾患を検出したり、術前のインターベンション、術中の積極的な血行動態管理、術後のサーベイランス、手術の回避が有効な患者を同定するだけでなく、周術期のβ遮断薬使用の指針ともなる。それゆえ、ACC/AHAガイドラインは術前心臓検査を推奨しているが、対象は心臓合併症のリスク因子を有する患者に限られ、リスク因子のない患者を含めた術後の予後への影響は明確ではないという。BMJ誌2010年1月30日号(オンライン版2010年1月28日号)掲載の報告。
10年間の後ろ向きコホート研究
研究グループは、中~高リスクの待機的非心臓手術施行前の非侵襲的心臓負荷検査が生存率および入院期間に及ぼす影響を評価するために、レトロスペクティブなコホート研究を行った。
対象は、1994年4月1日~2004年3月31日までにカナダ・オンタリオ州の救急施設に収容され、中~高リスクの待機的非心臓手術を施行された40歳以上の患者で、術前6ヵ月以内に非侵襲的心臓負荷検査を受けた者とした。
全体の1年生存率、入院期間は改善されたが、低リスク患者ではむしろ有害な可能性も
全コホート27万1,082人のうち、非侵襲的心臓負荷検査を受けたのは2万3,991人(8.9%)であった。傾向スコア法で術前心臓負荷検査を受けた患者と受けない患者の差を補正し、背景因子をマッチさせたコホート(4万6,120人)を設定した。
術前心臓負荷検査により、1年生存率が有意に8%上昇し(ハザード比:0.92、p=0.03)、入院日数は有意に0.24日短縮した(p<0.001)。
サブグループ解析として、改訂版心リスク指標(Revised Cardiac Risk Index;RCRI)に基づく検討を行ったところ、術前心臓負荷検査は低リスク(RCRIスコア:0)患者ではむしろ有害であった(ハザード比:1.35)が、中リスク(RCRIスコア:1~2)患者(ハザード比:0.92)および高リスク(RCRIスコア:3~6)患者(ハザード比:0.80)では有意なベネフィットが得られた。
著者は、「術前の非侵襲的心臓負荷検査により、中~高リスクの待機的非心臓手術施行例患者の1年生存率が改善され、入院期間が短縮された」と結論し、「このベネフィットがもたらされるのは、主に3つ以上のリスク因子を有する周術期心臓合併症の高リスク患者である。一方、リスク因子が1~2つの中リスク患者ではベネフィットが少なくなり、リスク因子のない低リスク患者ではむしろ有害な可能性が示唆される。これらの知見は、術前心臓検査を推奨するACC/AHAガイドラインを支持するものである」としている。
(菅野守:医学ライター)