妊産婦および新生児の周産期アウトカムを改善するには、帝王切開は医学的適応がある場合に限って施行すべきであることが、タイKaen大学産婦人科のPisake Lumbiganon氏らがWHOの世界調査として実施した出産法と妊娠アウトカムに関する研究で明らかとなった。近年、帝王切開施行率が世界的に上昇しており、その妥当性について議論が起きているという。不必要な帝王切開の実施は、産科領域におけるエビデンスと実臨床のミスマッチの古典的な実例とされ、その議論を通じて実臨床における必然的な帰結を変更する試みの複雑さに注目が集まっている。Lancet誌2010年2月6日号(オンライン版2010年1月12日号)掲載の報告。
日本を含むアジア9ヵ国が参加
研究グループは、WHOの世界調査の一環として、2004~2005年にアフリカとラテンアメリカで、2007~2008年にはアジアにおいて、個々の出産法の施行率を推算し、出産法と妊産婦、新生児の予後の関連を検討した。
アジアの調査には9ヵ国(カンボジア、中国、インド、日本、ネパール、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナム)が参加した。各国の首都と2つの地域あるいは行政区が無作為に選ばれた。
施設の詳細と産科治療のリソースのデータを集め、妊婦の診療記録を収集して産科および周産期イベントのデータを解析した。
帝王切開で妊産婦、新生児の周産期リスクが増加
登録された122施設から11万2,152件の出産が報告され、そのうち10万9,101件(97%)のデータが得られ、10万7,950件が解析可能であった。帝王切開は分娩前と分娩中、医学的適応の有無で4群に分け、経膣分娩は自然分娩(対照)と手術分娩の2群に分けて解析した。
全体の帝王切開の施行率は27.3%(2万9,428件)、経膣分娩率は72.7%(7万8,522件)であった。経膣分娩のうち、自然分娩が69.5%(7万5,057件)、手術分娩は3.2%(3,465件)であった。
妊産婦の周産期リスクを妊産婦死亡/罹病インデックス(妊産婦死亡、集中治療室入院、輸血、子宮摘出術、内腸骨動脈結紮術のうち一つ以上)で解析したところ、経膣自然分娩に比べ他の5群はいずれもリスクが高かった(補正ハザード比:経膣手術分娩2.1、分娩前非適応帝王切開2.7、分娩前適応帝王切開10.6、分娩中非適応帝王切開14.2、分娩中適応帝王切開14.5)。
骨盤位(逆子)の周産期アウトカムは、分娩前帝王切開(補正ハザード比:0.2)、分娩中帝王切開(同:0.3)ともに改善されたが、7日以上の新生児集中治療室(NICU)入室リスクは分娩前帝王切開(同:2.0)、分娩中帝王切開(同:2.1)ともに高かった。
著者は、「妊産婦および新生児の周産期アウトカムを改善するには、帝王切開は医学的適応がある場合に限って施行すべき」と結論し、「帝王切開による出産を計画している妊婦と医療者は、可能性のあるリスクについて十分に話し合ったうえで決定すべき」と指摘する。
(菅野守:医学ライター)