急性心筋梗塞が疑われる患者に対する搬送中の上肢の虚血プレコンディショニングは、primary PCI施行後の心筋救済(myocardial salvage)を改善し安全性も良好なことが、デンマークAarhus大学Skejby病院のHans Erik Botker氏らが実施した無作為化試験で明らかとなった。虚血プレコンディショニングは、心筋を事前に短時間の虚血状態に曝露するとその後に起きる心筋障害が軽減される現象で、内因性の心保護作用として重視されている。上肢や下肢の遠位虚血プレコンディショニングは待機的手術や血管形成術施行時の心筋障害を抑制することが示されている。Lancet誌2010年2月27日号掲載の報告。
遠位虚血プレコンディショニングの有無で、primary PCI後30日の心筋救済インデックスを比較
初回経皮的冠動脈インターベンション(primary PCI)が予定されているST上昇心筋梗塞患者に対する遠位虚血プレコンディショニングは心筋救済を改善するとの仮説を検証するために、プロスペクティブな単施設無作為化対照比較試験が行われた。
2007年2月~2008年11月までに初回心筋梗塞が疑われる18歳以上の患者333例が登録され、primary PCI施行前に遠位虚血プレコンディショニングが行われる群(166例)あるいはprimary PCIのみが施行される群(167例)に無作為に割り付けられた。
遠位虚血プレコンディショニングは病院への搬送中に間欠的上腕虚血法で行われた。上腕に装着した血圧測定用のカフを5分間加圧したのち5分間減圧し、これを4回繰り返すこととした。両群とも病院でprimary PCIが施行された。
主要評価項目はprimary PCI施行後30日における心筋救済インデックスとし、治療によって救済されたリスク領域の割合を心筋灌流画像(SPECT)で評価した。解析はper protcolで行った。
心筋救済インデックスの中央値、平均値がともに優れる
患者選択基準を満たさなかった82例が病院到着時に除外された。32例はフォローアップされず、77例はフォローアップが完遂されなかった。解析の対象となったのは、遠位虚血プレコンディショニング群が73例、primary PCI単独群が69例であった。
primary PCI施行後30日の心筋救済インデックス中央値は、遠位虚血プレコンディショニング群が0.75と、primary PCI単独群の0.55に比べ有意に改善された(差の中央値:0.10、p=0.0333)。心筋救済インデックスの平均値はそれぞれ0.69、0.57であり、やはり遠位虚血プレコンディショニング群が有意に優れた(差の平均値:0.12、p=0.0333)。
冠動脈関連の重篤な有害事象としては、死亡が両群ともに3例ずつ、再梗塞が1例ずつ、心不全が3例ずつ認められた。
「急性心筋梗塞が疑われる患者に対する搬送中の遠位虚血プレコンディショニングは心筋救済を改善し、安全性も良好である」と著者は結論し、「これらの知見は、遠位虚血プレコンディショニングが臨床的な予後に及ぼす効果の確立を目的に、より大規模な試験の実施を促すものである」としている。
(菅野守:医学ライター)