外来診療における小児の臨床徴候のうち、重症感染症の危険信号(red flag)としてチアノーゼ、速い呼吸、末梢循環不全、点状出血発疹が重要であり、両親の心配や臨床医の直感も危険なことが、ベルギーLeuvenカトリック大学一般医療科のAnn Van den Bruel氏らが行った系統的なレビューで明らかとなった。小児重症感染症の死亡率や罹患率を低減するには早期の正確な診断が要件となるが、重篤な病態の罹患率は低く、また重症度が明確でない早期の時点で重篤な病態を呈する患児はほとんどいないため診断は容易でないという。プライマリ・ケアでは重篤な病態に至る患児は1%未満だが、臨床医には心配する両親を安心させ、重症患児を診断する義務がある。Lancet誌2010年3月6日号(オンライン版2010年2月3日号)掲載の報告。
危険信号としての臨床徴候を尤度比で評価
研究グループは、先進国における外来診療時の小児重症感染症の鑑別に有用な臨床徴候の同定を目的に系統的なレビューを行った。
小児の重症感染症の臨床徴候を評価した論文を同定するために、データベース(Medline、Embase、DARE、CINAHL)を検索し、関連研究の参考文献リストに当たり、各研究者と連絡を取った。1,939の関連文献を同定し、さらに以下の6つの基準で論文の絞り込みを行った。
1)診断精度や予測基準を評価する研究、2)対象は感染症以外の疾患がみられない1ヵ月~18歳の小児、3)外来診療、4)予後:重症感染症、5)外来診療で評価が可能な徴候、6)十分なデータが提示されている。
試験の質の評価は、Quality Assessment of Diagnostic Accuracy Studiesの判定基準で行った。各臨床徴候について、重症感染症発現の尤度比(陽性尤度比)および非発現の尤度比(陰性尤度比)を算出した。
陽性尤度比>5.0の臨床徴候を重症感染症の危険信号とし、陰性尤度比<0.2の場合は除外徴候とした。
リスクのレベルに応じてとるべき臨床行動を同定すべき
30の試験が解析の対象となった。チアノーゼ(陽性尤度比:2.66~52.20)、速い呼吸(同:1.26~9.78)、末梢循環不全(同:2.39~38.80)、点状出血発疹(同:6.18~83.70)が複数の研究で危険信号として同定された。
プライマリ・ケアに関する一つの研究では、両親の心配(陽性尤度比:14.40、95%信頼区間:9.30~22.10)および臨床医の直感(同:23.50、同:16.80~32.70)が強力な危険信号であった。40℃以上の発熱は、重症感染症の罹患率が低い状況でも危険信号としての価値はあることが確認された。
単一の臨床徴候のみで重症感染症の可能性を除外することはできなかったが、いくつかの徴候を組み合わせると可能であった。たとえば、呼吸困難がみられず、かつ両親の心配がない場合は、肺炎は高い確率で除外できた(陰性尤度比:0.07、95%信頼区間:0.01~0.46)。
観察所見で重症度を判定するYale Observation Scaleは、重症感染症の確定(陽性尤度比:1.10~6.70)にも、除外(陰性尤度比:0.16~0.97)にも有効ではなかった。
これらの結果を踏まえ、著者は「今回の検討で同定された重症感染症の危険信号はルーチンに用いるべきだが、効果的な予防措置を講じなければ重篤な病態は今後も見逃されるだろう」とし、「リスクのレベルに応じてとるべき臨床行動を同定する必要がある」と指摘する。
(菅野守:医学ライター)