収縮期血圧(SBP)の受診ごとの変動および最大SBPは、平均SBPとは独立に、脳卒中の強力な予後予測因子であることが、イギリスOxford大学John Radcliffe病院臨床神経内科のPeter M Rothwell氏らによる検討で明らかとなった。血管イベントの原因として一定期間の血圧の平均値が重視され、広く高血圧の診断や治療の指針となっているが、血圧の上昇が脳卒中などの血管疾患を引き起こすメカニズムは完全には解明されていないという。平均血圧が重要なことは明確だが、受診ごとの血圧変動や最大血圧が血管イベントの発症に部分的に関与している可能性があり(特に高齢者)、著者らはすでに脳卒中の高リスク集団では受診ごとの血圧変動幅が大きいことを示している。Lancet誌2010年3月13日号掲載の報告。
UK-TIA、ASCOT-BPLA、ESPS-1、Dutch TIA試験のデータを解析
研究グループは、血圧の受診ごとの変動、最大血圧、未治療のエピソード的高血圧、治療中の患者の残存的な血圧変動が予後に及ぼす影響について検討した。
UK-TIAアスピリン試験とその妥当性を検証した3つのコホート試験(ASCOT-BPLA、ESPS-1、Dutch TIA)に参加した一過性脳虚血発作(TIA)の既往歴を有する患者、およびASCOT-BPLA(Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial Blood Pressure Lowering Arm)試験に参加した既治療の高血圧患者を対象に、脳卒中のリスクと受診ごとの血圧変動、最大血圧との関連について解析を行った。ASCOT-BPLA試験では24時間自由行動下血圧測定(ABPM)の検討も行われた。
治療中の高血圧患者ではSBPの受診ごとの変動幅の増大が重要なリスク因子
個々のTIAコホートでは、SBPの受診ごとの変動は脳卒中の強力な予測因子であり(UK-TIAの7回の受診におけるSBPの標準偏差の最大10分位ハザード比:6.22、p<0.0001)、平均SBPとは独立の因子であったが、測定の正確性とは依存性の関係がみられた(10回の受診の最大十分位ハザード比:12.08、p<0.0001)。
最大SBPも脳卒中の強い予測因子であった(7回受診の最大10分位ハザード比:15.01、p<0.0001)。ASCOT-BPLAでは、治療中の高血圧患者における受診ごとのSBPの残存的な個体内変動も、脳卒中や冠動脈イベントの重要な予測因子であり(脳卒中の最大10分位ハザード比:3.25、p<0.0001)、受診時およびABPMの平均SBPとは独立の因子であった。
ABPMの変動は弱い予測因子であったが、いずれのコホートでも血圧変動に関する測定項目はどれも、若年者や平均SBP低値(<中央値)の患者において脳卒中を予測した。
著者は、「SBPの受診ごとの変動および最大SBPは脳卒中の強力な予測因子であり、平均SBPとは独立の因子である。治療中の高血圧患者における受診ごとのSBPの残存的な変動の増大は血管イベントの高いリスク因子である」と結論し、「今後は、血圧の受診ごとの変動に関連する予後情報をルーチンの日常診療で簡便に使用可能にする方法を確立する必要がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)