社会経済状況が低階層の人は、高階層に比べ、総死亡リスクが1.6倍に増大することが、英国公務員を対象とした「Whitehall II」調査の分析で明らかになった。特に、食事内容や運動など、健康に関する行動様式の違いが主な原因だという。フランス国立衛生医学研究所(INSERM)疫学・国民健康研究センターのSilvia Stringhini氏らの調べで明らかになったもので、JAMA誌2010年3月24/31日合併号で発表された。
低階層と高階層の死亡率格差は1.94/1,000人・年
「Whitehall II」調査は1985年にスタートし、35~55歳の英国ロンドンに住む公務員を対象とした、前向きコホート試験。研究グループはそのうち、2009年4月まで追跡した、合計9,590人について、分析を行った。
社会経済状況については調査開始時点で、公務員の等級によって、高・中・低の3段階に分類。また、喫煙やアルコール摂取、食事内容、運動については、追跡期間中4回にわたり調査を行った。
追跡期間中の死亡は、654人だった。これについて、性別と誕生年について補正を行った後、社会経済状況の違いについてみてみると、低階層の死亡リスクは、高階層に比べ、1.60倍だった(死亡率格差:1.94/1,000人・年)。
階層による死亡リスク格差の72%は行動様式が原因
試験開始時点における健康に関する行動様式をモデルに盛り込むことで、先の階層による死亡率格差は、42%減少した。さらに、同行動様式を時間依存性共変数として盛り込んだところ、同格差は72%も減少した。
なかでも、心血管疾患による死亡リスクの格差は、行動様式を試験開始時点のみ入れた場合で29%、時間依存性共変数として入れた場合で45%それぞれ減少し、非がん・非心血管疾患による死亡リスクは、それぞれ61%、94%減少した。
これは、試験開始後以降の行動様式もモデルに盛り込むことで、食事内容や運動、アルコール摂取の総死亡リスクに関する説明力が、7%から17%、5%から21%、3%から12%へ、それぞれ増大したことによるという。なお、喫煙については、行動様式を試験開始後以降も盛り込んだ場合でも、32%から35%と、大きな差はみられなかった。
(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)