院外で非心原性の原因で心停止をきたした子どもに対する処置として、胸部圧迫に人工呼吸を併用する従来の心肺蘇生(CPR)は、胸部圧迫のみのCPRに比べ神経学的予後が良好な生存の可能性を高めることが、京都大学保健管理センターの北村哲久氏らが実施したコホート試験で明らかとなった。アメリカ心臓協会(AHA)は、成人の院外心停止例にはその場に居合わせた目撃者による胸部圧迫のみのCPRを推奨しているが、子どもはその限りでない。これは、成人の心停止は心原性の場合が多く、従来型CPRと胸部圧迫のみのCPRに生存率の差はなく、また胸部圧迫単独の方が簡便であるのに対し、小児の心停止は心原性よりも呼吸器疾患(窒息、溺水など)を原因とする場合が多く、動物実験では呼吸器疾患による心停止には人工呼吸併用CPRの方が予後が良好なことが示されているためだ。Lancet誌2010年4月17日号(オンライン版2010年3月3日号)掲載の報告。
種別、年齢、心停止の原因などでCPRの効果を比較する前向きコホート試験
研究グループは、小児の院外心停止例に対するその場に居合わせた目撃者による処置として、胸部圧迫に人工呼吸を併用する従来型CPRと胸部圧迫のみのCPRの効果を比較する地域住民ベースのプロスペクティブなコホート試験を行った。
2005年1月1日~2007年12月31日までに、院外で心停止をきたした17歳以下の小児5,170例が登録され、年齢、心停止の原因、目撃者の有無、CPRの種別などが記録された。
主要評価項目は、院外心停止後1ヵ月の時点における良好な神経学的予後(Glasgow-Pittsburgh脳機能カテゴリーが1あるいは2)とした。
1~17歳の非心原性心停止例の良好な予後率:従来型7.2%、胸部圧迫のみ1.6%
全心停止例のうち、3,675例(71%)が非心原性、1,495例(29%)は心原性であった。居合わせた目撃者によって、1,551例(30%)に人工呼吸を併用する従来型CPRが施行され、888例(17%)は胸部圧迫のみのCPRを受けた。12例でCPRの種別が同定されなかった。
CPRの有無別の解析では、良好な神経学的予後の割合は、居合わせた目撃者によるCPRを受けた小児が4.5%(110/2,439例)と、CPRを受けなかった小児の1.9%(53/2,719例)に比べ有意に高かった(補正オッズ比:2.59、95%信頼区間:1.81~3.71)。
次に、年齢別(1歳未満の幼児、1~17歳の小児)、心停止の原因別(非心原性、心原性)の解析を行った。
1~17歳の非心原性心停止例の良好な神経学的予後率は、居合わせた目撃者によるCPR施行例が5.1%(51/1,004例)と、CPR非施行例の1.5%(20/1,293例)に比べ有意に優れた(補正オッズ比:4.17、95%信頼区間:2.37~7.32)。
CPRの種別では、従来型CPRの良好な予後率は7.2%(45/624例)と、胸部圧迫単独CPRの1.6%(6/380例)に比べ有意に優れた(補正オッズ比:5.54、95%信頼区間:2.52~16.99)。
1~17歳の心原性心停止例においては、良好な神経学的予後率は居合わせた目撃者によるCPR施行例が9.5%(42/440例)と、CPR非施行例の4.1%(14/339例)に比べ有意に高値を示した(補正オッズ比:2.21、95%信頼区間:1.08~4.54)が、種別間の比較では従来型CPRが9.9%(28/282例)、胸部圧迫単独CPRは8.9%(14/158例)と差を認めなかった(補正オッズ比:1.20、95%信頼区間:0.55~2.66)。
1~17歳の小児に比べ、1歳未満の幼児の院外心停止例の神経学的予後は、一様に不良であった[4.1%(127/3,076例)vs. 1.7%(36/2,082例)、補正オッズ比:1.60、95%信頼区間:1.07~2.36]。
これらの結果から、著者は「院外で非心原性の心停止をきたした小児に対しては、居合わせた目撃者が胸部圧迫に人工呼吸を併用したCPRを行うのが好ましいアプローチである。心原性の心停止の場合は、従来型と胸部圧迫単独のCPRの効果は同等であった」と結論している。
また、「医療従事者、安全監視員、教師、子どもを持つ家族など、小児の非心原性心停止に遭遇する機会の多い人々には2つのCPRの訓練を行うのがよいと考えられるが、一般市民には、従来型CPRに比べ、教える側、学ぶ側の双方にとって簡便な胸部圧迫のみのCPRの普及を図る方が、CPRがまったく行われない場合に比べれば望ましいと言えるだろう」と考察を加えている。
(菅野守:医学ライター)