ミレニアム開発目標5(MDG 5、2015年までに妊産婦の死亡率を1990年の水準の4分の1に削減する。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html)は、国によってばらつきはあるものの、その達成に向け大きく前進していることが、アメリカWashington大学のMargaret C Hogan氏らの調査で明らかとなった。妊産婦死亡は、「妊娠中、分娩時、出産後42日までの女性の死亡」と定義される。世界的に、妊産婦の死亡は医療制度上の主要課題であり、MDG 5に向けた医療資源の動員や、計画を立案しその進行状況を評価するには妊産婦死亡率およびその傾向に関する信頼性の高い情報が不可欠だという。Lancet誌2010年5月8日号(オンライン版2010年4月12日号)掲載の報告。
29年間に181ヵ国で実施された2,651の観察研究をデータベース化して解析
研究グループは、1980~2008年の世界181ヵ国における妊産婦死亡に関する2,651の観察研究(健康状態登録データ、国勢調査、聞き取りによる検死などに基づく研究)のデータベースを構築し、妊産婦死亡の水準および傾向について検討した。
ロバスト統計解析法を用いて1980~2008年の各年度の妊産婦死亡数および妊産婦死亡率の推定値を算出した。本試験のデータをモデルとなる規格に当てはめて感受性を評価し、使用した推定法の妥当性をout-of-sample分析で検証した。
死亡数、死亡率とも低下傾向に、HIVによる死亡を除けばさらに低下
世界的な推定妊産婦死亡数は、1980年の526,300[不確かさ区間(uncertainty interval):446,400~629,600]人から2008年には342,900(同:302,100~394,300)人まで低下した。生児出生10万人当たりの推定妊産婦死亡率は、1980年の422(同:358~505)人から1990年には320(同:272~388)人に、2008年には251(同:221~289)人にまで低下した。
1990年以降の妊産婦死亡率低下の年率は1.3(同:1.0~1.5)%であった。1990~2008年の妊産婦死亡率低下の年率には国によってばらつきがみられ、モルディブでは8.8(同:8.7~14.1)%であったのに対し、ジンバブエではむしろ5.5(5.2~5.6)%増加していた。
2008年の全妊産婦死亡数の半分以上がわずか6ヵ国(インド、ナイジェリア、パキスタン、アフガニスタン、エチオピア、コンゴ民主共和国)で占められていた。死亡原因がHIVの場合を除けば、2008年の妊産婦死亡数は281,500(243,900~327,900)人と推定された。
著者は、「国によって実質的なばらつきがみられるものの、ミレニアム開発目標5はその達成に向け前進していると言えよう。2015年までに妊産婦死亡率の75%低減を達成できるのは23ヵ国だけだが、エジプト、中国、エクアドル、ボリビアは達成に向けた進展が加速している」と結論し、「妊産婦が必要とすればいつでもどこでも介入が行えるように、すべての国が目的意識を持った施策をとるべき」と指摘する。
(菅野守:医学ライター)