2009年6月22日から6月25日にかけて、シンガポール軍キャンプ内で新型インフルエンザ(H1N1ウイルス)による4つの集団感染が発生した。防衛省バイオ防御センターのVernon J. Lee氏らは、このケースでオセルタミビル(商品名:タミフル)投与(1日1回75mg)による包囲予防薬物療法(ring chemoprophylaxis)を試み、その有効性を検証した。NEJM誌2010年6月10日号掲載より。
感染者を隔離、感染者が出た部隊全員に予防投与
試験では、感染が疑われた全隊員が検査を受け、感染が確認された隊員は入院隔離とした。そのうえで、ウイルスが拡散しないよう、オセルタミビルによる包囲予防薬物療法を施した。なお、部隊単位での隔離(感染者が出た部隊は他の部隊と接触しないよう隔離)も行われた。
全隊員は毎週3回、ウイルス学的感染症有無のスクリーニング(鼻腔・咽頭スワブを採取し、定量的逆転写RT-PCR法と塩基配列決定法による)と、質問票による臨床症状評価のスクリーニングを受けた。
4集団で、感染の危険に曝されていた隊員は計1,175人。1,100人がオセルタミビルによる予防投与を受けた。
介入後は感染率が有意に低下
介入前に感染していた隊員は75人(6.4%)だったが、介入後の感染は7人(0.6%)だった。
全体の再生産数(1人の感染者が生産する2次感染者数)は、介入前の1.91(95%信頼区間:1.50~2.36)に対し、介入後は0.11(95%信頼区間0.05~0.20)と有意に減少した。
4集団のうち3集団は、介入後の感染率が有意に減少した。分子疫学的解析の結果、この集団感染は4例ともニューヨーク由来のA/ニューヨーク/18/2009(H1N1)型ウイルスによるもので、感染各事例は集団内感染によるもので、無関係な事例からの感染ではないことが明らかにされた。
オセルタミビルの投与を受けた隊員816例を調べたところ、63例(7.7%)で軽度の非呼吸器系の副作用が報告されたが、重度の有害事象はみられなかった。
研究グループは、オセルタミビルの包囲予防薬物療法と、感染者(隊員)の迅速な同定と隔離は、セミ・クローズドな環境での新型インフル集団感染の封じ込めに有効だったと報告している。
(医療ライター:朝田哲明)