2009新型(A/H1N1)インフルエンザ・パンデミックに関して、WHOが非常事態を宣言したのは2009年4月25日だった。同日、ニュージーランドの開業医から、3週間のメキシコ旅行を終え米国ロサンジェルスから6時間前に帰国した高校生グループに、インフルエンザ様症状を認めたことが報告された。フライト中12人が症状を申告、後に9人が新型インフルだったことが特定された。旅客機内での感染伝播リスクは示唆されるが、機内でのインフルエンザ感染拡大が特定された例はこれまで3件しかなく、本件はそのうちの貴重な一つ。この事例を対象に、ニュージーランドのオタゴ大学公衆衛生学部門のMichael G Baker氏らは、旅客機内での感染伝播リスクと、着陸後の乗客に対するスクリーニングおよび追跡調査の効果について調査を行った。BMJ誌2010年6月12日号(オンライン版2010年5月21日号)掲載より。
感染者がいた後部座席搭乗者の、到着後3.2日以内の罹患状況を追跡
Baker氏らは、乗客に対し行われる健康調査票と、症状を呈した乗客への追跡検査の結果を利用し後ろ向きコホート研究を行った。
対象としたのは、ニュージーランド、オークランドの国際空港に、2009年4月25日に到着したボーイング747-400機(定員379名)の後部座席搭乗者(定員128名)で、高校生グループ24人(学生22人、教師2人)と、周辺座席の搭乗者102人(うち74人はニュージーランド居住者、19人は外国人観光者、9人は乗継)のうちインタビュー調査に応じてくれた97人(95%)について検討された。
主要評価項目は、到着後3.2日以内に新型インフル罹患が検査確認された搭乗者で、感染感度および特異度、またコンタクト追跡の完遂度およびタイムリーさについても調べられた。
せき単独症状の感染感度92.3%と非常に高かった
高校生グループでフライト中に症状を訴え、後に新型インフルと検査確定されたのは9人だった。
その他の乗客のうち、到着後に新型インフルを発生した人は5人いたが、機内感染拡大例と検査確定されたのは12時間後に症状を発症した1人と、48時間後に症状を発症した1人の計2人だった。この2人は、フライト中以外の感染が考えられなかった。
またこの2人の座席は、機内で罹患していたことが検査確定された乗客の座席から2列以内の範囲にあった。同範囲内の乗客は57人いて、感染リスクは3.5%(95%信頼区間:0.6~11.1%)と推計された。なお、後部座席全体での同リスクは1.9%(同:0.3~6.0%)と推計された。
感染感度は、「せき」単独症状が非常に高く(症状を訴えなかったのは1例のみ)92.3%だった。その他の発熱、咽頭痛、鼻水などは30%台と低かった。また複数症状でのインフルエンザ様症状定義づけの感度は相対的に低く、米国版を用いた感度は38.5%、ニュージーランド版は米国版よりは高かったが61.5%だった。
公衆衛生従事者による追跡精密検査が行われたのは93%だった。到着後72時間以内でコンタクトが取れたのは、52%にすぎなかった。
以上からBaker氏は、「現代の商業飛行には、低いながらも確実に新型インフルエンザ・パンデミックの伝播リスクが、感染者の近くに集中し存在する。また曝露搭乗者の追跡調査、スクリーニングは、彼らがいったん空港を立ち去ってしまうと緩徐で困難であることが明らかになった」とまとめている。