角膜再生医療に関して、患者本人の角膜輪部幹細胞の培養組織を移植する細胞治療の長期臨床成績(最高10年)が報告された。約8割近くで角膜上皮再生の永久修復が確認されたという。角膜の表面を覆う「上皮」は再生と修復を繰り返し透明度を保つが、それに寄与するのが角膜と眼球結膜の間にあるごく狭い角膜輪部の幹細胞である。眼熱傷などを受けるとこの角膜輪部が損傷を受け、角膜上皮幹細胞疲弊症(LSCD)が生じる可能性が高く、たとえばドナー提供の角膜移植を行っても角膜輪部が損傷されたままだと再移植が必要になる。本治験報告は、イタリア・San Raffaele Scientific InstituteのPaolo Rama氏らの報告によるもので、NEJM誌2010年7月8日号(オンライン版2010年6月23日号)に掲載された。
角膜損傷患者112例に自家角膜輪部幹細胞治療
Rama氏らは、角膜損傷患者112例に対してフィブリン培養の自家角膜輪部幹細胞を用いた治療を行った。患者の大半は、熱傷LSCDを有していた。
臨床成績は、Kaplan-Meier法、Kruskal-Wallis法、一変量または多変量ロジスティック回帰分析法で評価された。また、臨床アウトカムは、ホロクローン形成幹細胞の割合によっても評価が行われた。ホロクローン形成幹細胞は、培養細胞中にp63 bright細胞として強く染色される。
透明な角膜上皮再生の永久修復76.6%で確認
結果、透明な角膜上皮再生の永久修復は、76.6%で確認された。
治療失敗は、治療後1年以内に起きていた。一方、最長追跡期間10年の間中、回復した眼球は安定していた(追跡期間平均:2.91±1.99年、中央値:1.93年)。
事後解析から、ドナー移植角膜に正常上皮が形成した成功例と、培養細胞中のp63 brightホロクローン形成幹細胞の割合との関連が認められた。p63 bright細胞が、全クローン原性細胞数の3%を超えると、78%で移植が成功していた。一方で3%以下の場合はわずか11%だった。
また再生失敗は、最初の眼球損傷の程度や術後の合併症とも関連していた。
(医療ライター:武藤まき)