親しいパートナーからの暴力[intimate partner violence:IPV;一般にドメスティックバイオレンス(DV)と知られる]を受けた女性に対し、暴力からの自衛手段を教えるなどのエンパワメントおよび電話カウンセリングを行っても、被害者のメンタルヘルスへの影響、うつ症状の改善にはつながらないことが報告された。IPV生存者のうつ症状に対する効果的な介入については明らかになっていないことから、アドボカシー的介入の効果を検討するため、中国・香港大学のAgnes Tiwari氏らが、200人の女性を対象に行い無作為化試験を行ったもので、JAMA誌2010年8月4日号で発表した。なお、香港におけるIPV発生率は、4.5~10%に上るという。
通常ケアに加え、エンパワメントおよび電話カウンセリング介入
同氏らは、2007年2月~2009年6月にかけて、IPVを受けたことのある18歳以上の女性200人について、調査を行った。研究グループは被験者を2群に分け、一方の群(介入群、100人)には、通常のコミュニティサービスの他に、介入開始時に約30分間1対1で「Dutton氏のエンパワメントモデル」に基づいた防御およびよりよい選択と問題解決方法を教示し、その後12週間にわたり週1回の電話によるカウンセリングを行った。
もう一方の群(対照群、100人)には、通常のコミュニティサービス、医療的ケア、運動・趣味のサークル活動の提供にとどめる介入を行った。
なお被験者全員には、24時間対応の電話ホットラインが提供された。
主要評価項目は、9ヵ月後の「中国版ベックうつ病調査表II」によるうつ症状の変化。副次評価項目は、IPV発生率、健康関連QOL、ソーシャルサポート利用についての変化とした。
3~9ヵ月後のうつ症状スコア、介入群で対照群に比べ2.66減少したが……
その結果、試験開始後3ヵ月後のうつ症状スコア変化の平均値は、介入群が14.9に対し対照群が11.6、9ヵ月後はそれぞれ23.2と19.6で、3ヵ月時点および9ヵ月時点の治療効果の有意差は認められなかった(p=0.86)。
また試験開始3~9ヵ月で、うつ症状スコアは、介入群で対照群に比べ、2.66(95%信頼区間:0.26~5.06、p=0.03)有意に減少したものの、臨床的に意味のある変化と規定していた5ポイントには達しなかった。
一方、パートナーからの心理的攻撃については有意な減少が認められ、介入群で対照群に比べ、3~9ヵ月で1.87(p=0.01)の有意な減少がみられた。また、ソーシャルサポート利用は同2.18(p=0.01)で有意に増えていた。しかし、身体への暴行や性的暴力、健康関連QOLの変化については、両群で有意差はなかった。
なお、IPV被害者に対するサポートの強化が、有用であると回答したのは、対照群で81.7%に対し介入群で93.8%(両群差12.1%、p=0.02)、親しいパートナーとの対立を解決する手助けとなると回答したのは、対照群で84.1%に対し介入群で97.5%(両群差13.4%、p=0.001)と、いずれも介入群の方が有意に高率ではあった。
(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)