MRI上の高信号域として発見される大脳白質病変は、脳卒中、認知症、死亡のリスクと有意な相関を示すため、その予測因子となり得ることが、イギリスSt George’s University of London臨床神経科学部のStephanie Debette氏らが実施したメタ解析で示された。大脳白質病変と脳の疾患や死亡との関連を評価した試験の結果は必ずしも一致していない。その原因として、試験デザインや画像法、研究施設、サンプル数、フォローアップ期間の不均一性がデータの解釈を難しくしていることが挙げられるという。BMJ誌2010年8月7日号(オンライン版2010年7月26日号)掲載の報告。
MRI上の高信号域と脳疾患、死亡との関連のエビデンスを系統系にレビュー
研究グループは、MRI上の大脳白質の高信号域と脳卒中、認知機能低下、認知症、死亡との関連のエビデンスについて系統系なレビューを行い、メタ解析を実施した。
1966~2009年11月23日までのデータベース(PubMed)を検索し、MRIを用いて大脳白質の高信号域が脳卒中、認知機能低下、認知症、死亡に及ぼす影響を評価したプロスペクティブな縦断的研究や、大脳白質の高信号域をカテゴリー別に分けてこれらの疾患のリスクを予測した試験を抽出した。
対象集団、フォローアップ期間、大脳白質高信号域の測定法、アウトカムの定義、大脳白質高信号域とアウトカムの関連について評価した。
脳卒中の発症リスクは3.5倍、認知症は1.9倍、死亡は2.0倍
46の縦断的研究が抽出され、そのうち大脳白質の高信号域と脳卒中のリスクを評価したものが12試験、認知機能低下のリスクを検討したのは19試験、認知症は17試験であり、死亡については10試験が検討を行っていた。これらの試験について系統的なレビューを行い、メタ解析は22の試験(脳卒中9試験、認知症9試験、死亡8試験)ついて実施した。
脳卒中のリスクについては、一般住民を対象とした6試験では大脳白質の高信号域と脳卒中は有意な相関を示し(ハザード比:3.1、95%信頼区間:2.3~4.1、p<0.001)、高リスク群を対象とした3試験でも有意な関連が確認された(同:7.4、同:2.4~22.9、p=0.001)。これらを合わせた9試験の解析では、大脳白質病変の存在は脳卒中の発症リスクを3.5倍に高めていた(同:3.5、同:2.5~4.9、p<0.001)。
認知症のリスクについては、一般住民を対象とした3試験では大脳白質の高信号域と認知症は有意な相関を示したが(ハザード比:2.9、95%信頼区間:1.3~6.3、p=0.008)、高リスク群に関する6試験では有意な関連はみられなかった(同:1.4、同:0.9~2.3、p=0.14)。これら9試験の統合解析では、大脳白質病変の存在は認知症の発症リスクを1.9倍に高めていた(同:1.9、同:1.3~2.8、p<0.002)。
死亡率との関連については、一般住民に関する4試験では大脳白質の高信号域は死亡を有意に増大させており(ハザード比:2.3、95%信頼区間:1.9~2.8、p<0.001)、高リスク群を対象とした4試験でも有意な相関が認められた(同:1.6、同:1.01~2.7、p=0.04)。8試験を合わせて解析したところ、大脳白質病変により死亡のリスクが2.0倍に増大していた(同:2.0、同:1.6~2.7、p<0.001)。
著者は、「大脳白質病変は、脳卒中、認知症、死亡のリスクの予測因子である。すなわち、診断中に発見されたMRI上の大脳白質の高信号域は脳血管イベントのリスクの増大を示している」と結論し、「この知見を研究分野における中間的な指標として使用することも可能であり、脳卒中や認知症のリスク因子の詳細なスクリーニングに道を開くことになろう」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)