大動脈弁疾患の弁移植術、長期予後は自家移植が同種移植よりも優れる

提供元:ケアネット

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公開日:2010/08/26

 



大動脈弁疾患に対する弁移植術では、患者自身の肺動脈弁を大動脈弁として移植する自家大動脈起始部移植の方が、ドナーの提供による同種大動脈起始部移植よりも長期予後が優れることが、イギリスRoyal Brompton and Harefield NHS Trust心臓外科学のIsmail El-Hamamsy氏らが行った無作為化試験で示された。世界人口の増加や医療への近接性の改善に伴い、大動脈弁の手術数は今後30年以内に3倍に増大すると予想される。大動脈弁移植術は重篤な症状を呈する大動脈弁疾患患者の予後を改善するが、術後の生存率は一般人口に比べて低く、改善の程度は使用された移植片の種類に依存する可能性があるという。Lancet誌2010年8月14日号(オンライン版2010年8月3日号)掲載の報告。

単一施設の1名の術者による2種類の移植術の10年生存率を評価




研究グループは、大動脈弁疾患患者においては、患者自身の肺動脈弁を大動脈弁として移植する方法が、ドナーから提供された肺動脈弁を移植する方法よりも長期予後の改善効果が優れるとの仮説を検証するために、自家大動脈起始部移植(Ross procedure)と同種大動脈起始部移植の予後を比較する無作為化対照比較試験を実施した。

大動脈弁移植を要する69歳未満の患者が登録され、イギリスの単一施設で自家大動脈起始部移植あるいは同種大動脈起始部移植を受ける群に無作為に割り付けられた。すべての移植術が一人の術者(Dr. Magdi H Yacoub)によって施行された。

治療割り付け情報は試験関係者および患者に知らされていた。主要評価項目は、移植術後10年における生存率とした。

同種移植群の死亡率は自家移植群の4倍以上、自家移植群の生存率は一般人口に匹敵




228例が登録されたが、12例は18歳以下のため除外された。両群ともに108例ずつが割り付けられた。

周術期死亡率は、自家移植群が1%未満、同種移植群は3%であったが、有意差は認められなかった(p=0.621)。

移植術後10年の時点で、自家移植群の4例、同種移植群の15例が死亡した。10年生存率は自家移植群が97%(SD 2)、同種移植群は83%(SD 4)であった。同種移植群の死亡ハザード比は4.61であり、有意差がみられた(95%信頼区間:1.71~16.03、p=0.0060)。

同種移植群の生存率(97%)は、年齢および性別で補正したイギリスの一般人口の生存率(96%)と同等であった。

著者は、「これらの知見は、患者自身の肺動脈弁を大動脈弁として移植する自家大動脈起始部移植は、大動脈弁疾患患者の長期予後を改善するという仮説を支持する」と結論している。

(菅野守:医学ライター)