観察研究のメタ解析としては最も信頼性の高いProspective Studies Collaboration(PSC)が、血清脂質と心血管系イベントに関する解析をLancet誌12月1日号で公表した。虚血性心疾患死のリスクは予想通り、血清総コレステロール(TC)低値例で年齢を問わず低かった。一方、脳卒中死では、TC高値がリスクとなっていたのは、相対的若年者と収縮期血圧がほぼ正常である場合のみだった。
約90万例、1千万例・年のデータを解析
解析対象となったのは、観察開始時に心血管系疾患の既往がなかった40~89歳の89万2,337人。前向きコホート研究61件のデータが集められた。わが国からのデータも含まれているが、主として欧米人の成績である。また一般的なメタ解析と異なり、PSC解析では原則として、オリジナルデータが入手可能だった。
1,160万人・年のサンプル(平均追跡期間13年)中、55,262例が血管系イベントで死亡していた。内訳は「虚血性心疾患死」が33,744例、「脳卒中死」11,663例、「その他の血管死」が9,855例である。
虚血性心疾患リスクはTC低値に従い減少
性別、年齢と参加した試験で補正後、血清脂質と死亡リスクの関係を検討すると、以下が明らかになった。
まず虚血性心疾患死のリスクだが、リスク対数値とTC値の間に正の相関を認めた。年齢の高低、性別を問わず、TC値が37.8mg/dL(1mmol/L)低いと虚血性心疾患死のリスクも有意に低かったが、相対リスクの減少率は若年者で顕著であり、高齢になるに従ってTC低値による相対リスク減少率は小さくなっていた。
また、このTC低値における虚血性心疾患リスクの減少は、収縮期血圧の高低、喫煙習慣の有無、BMIの高低を問わず認められた。
脳卒中リスクは血圧145mmHg以上では有意に大きい
一方、脳卒中死リスク(対数値)とTC値は、40~59歳で弱い正の相関が認められるのみで、それより高齢では相関していなかった。
試験開始時の収縮期血圧別に検討すると、「145mmHg未満」ではTC値が37.8mg/dL低値であれば脳卒中死リスクは有意に低くなっていたが、「145mmHg以上」であった場合、リスクは逆に有意に大きくなっていた。この脳卒中と総コレステロールの関係については、更に検討する必要があると著者らは記している。
なお本コホートにおける「非血管系死亡」は42,865例。TCが37.8mg/dL低値だとリスクは相対的に10%有意に増加していた(95%信頼区間:1.08~1.11)。この結果を著者らは、TCを低下させる基礎疾患などによりリスクが増加した結果であろうと記している。
TC値と総死亡の関係は示されていないが、TC低値は「虚血性心疾患死」のリスクは低いが、血圧コントロール不良例では「脳卒中」抑制に注力が必要であり、また一般的にTC低値例では続発性の低コレステロール血症を除外する重要性が示された。
(宇津貴史:医学レポーター)