線維筋痛症には太極拳が有用な治療である可能性が、米国ボストンにあるタフツ大学リウマチ科のChenchen Wang氏らの研究グループによる無作為化試験の結果、報告された。線維筋痛症治療ガイドラインでは、薬物療法、認知行動療法と並んで、健康教育と運動療法を含む集学的治療が提唱されている。なかでも運動は線維筋痛症に有効とされ、治療の中心的な構成要素として提唱されてきたが、患者の多くは診断後、何年にもわたって重篤な疼痛に悩まされ、症状のコントロールに薬物療法を必要としている。Wang氏らは、これまでの研究で太極拳が線維筋痛症に効果があるとの示唆を受け、試験を行った。NEJM誌2010年8月19日号より。
太極拳と従来療法の2群に無作為化
Wang氏らは、線維筋痛症(米国リウマチ学会の1990年診断基準で定義)患者66例を対象に、伝統的な楊式太極拳を治療に取り入れた群(1セッション60分を週2回12週間継続、太極拳群、33例)と、健康教育とストレッチからなる従来療法群(対照群、33例)とを比較する、単純盲検無作為化試験を行った。
主要評価項目は、12週の介入が終わった時点の、繊維筋痛症質問票(Fibromyalgia Impact Questionnaire:FIQ)スコア(スコア:0~100ポイント、スコアが高いほど症状が重いことを示す)の変化とした。
副次評価項目は、SF健康調査票(SF-36)の身体的および精神的項目のサマリースコアとした。また、効果の持続性を確かめるため、24週時点にも全員に対する評価が行われた。
FIQスコア、SF-36スコアとも太極拳に軍配
結果、太極拳群33例には、FIQスコアおよびQOLにおいて臨床上重要な改善がみられた。FIQスコア平均値(±SD)のベースラインと12週の値は、太極拳群は62.9±15.5と35.1±18.8だったのに対し、対照群は68.0±11と58.6±17.6で、太極拳群のベースラインからの変化の差の方が対照群の同変化の差よりも18.4ポイント大きかった(P<0.001)。
SF-36の身体的項目スコアのベースラインと12週の値は、太極拳群が28.5±8.4と37.0±10.5で、対照群は28.0±7.8と29.4±7.4だった。両群の変化の差は7.1ポイントだった(P=0.001)。精神的項目スコアについては、太極拳群が42.6±12.2と50.3±10.2に対し、対照群は37.8±10.5と39.4±11.9で、両群の変化の差は6.1ポイントだった(P=0.03)。
なお、改善は24週時点でも持続していた。FIQスコアに関する両群の変化の差は18.3ポイントだった(P<0.001)。有害事象はみられなかった。
Wang氏は、「より大規模な集団を対象とした長期の研究を行う価値がある」とまとめている。
(朝田哲明:医療ライター)