メタ解析で、強化血糖コントロールは心筋梗塞リスクを減じ死亡リスクへの重大な影響はないながらも、重症低血糖のリスクが上昇することが示されている。ACCORD試験では、強化血糖コントロール群で観察された超過死亡はそうした治療の有害反応によるとの推論をあおったが、事後解析で、超過死亡は低血糖の高率な発症が直接的原因ではないことが示されている。そこで、オーストラリア・シドニー大学ジョージ国際保健研究所のSophia Zoungas氏らADVANCE試験共同研究グループは、同試験被験者における重症低血糖と有害臨床転帰との関連を調べた。NEJM誌2010年10月7日号掲載より。
重症低血糖患者を中央値5年にわたって追跡
研究グループは、ADVANCE試験の被験者1万1,140例の2型糖尿病患者について、重症低血糖と大血管・細小血管イベントリスク、および死亡リスクとの関連について検討した。解析は、ベースライン時とランダム化後の測定共変量値を補正した、Cox比例ハザードモデルを用いて行われた。
被験者のうち、追跡期間中央値5年の間に1回以上の重症低血糖を起こしていたのは、231例(2.1%)だった。そのうち150例は強化血糖コントロール群(5,571例の2.7%)、81例が標準血糖コントロール群(5,569例の1.5%)に割り付けられた被験者だった。
重症低血糖の発症から初回主要イベント発生までの期間中央値は、大血管イベントが1.56年(四分位範囲:0.84~2.41)、細小血管イベントが0.99年(同:0.40~2.17)、死亡が1.05年(同:0.34~2.41)だった。
低血糖は重大な有害イベントが起きやすいことのマーカーか
追跡期間中、重症低血糖は、主要なイベント補正後リスクの有意な上昇と関連していた。大血管イベントのハザード比は2.88(95%信頼区間:2.01~4.12)、細小血管イベントのハザード比は1.81(同:1.19~2.74)、心血管系起因の死亡のハザード比は2.68(同:1.72~4.19)、全死因死亡のハザード比は2.69(同:1.97~3.67)だった(いずれもP<0.001)。
また同様の関連性が、呼吸器症状、消化器症状、皮膚症状など非血管系の転帰に関しても認められた(いずれもP<0.01)。
重症低血糖の繰り返しエピソードと血管系転帰または死亡との関連は見いだされなかった。
これらから研究グループは、「重症低血糖は、様々な有害臨床転帰のリスクの上昇と強く関連していることが認められた」と述べた上で、「重症低血糖が有害転帰の原因である可能性は排除できないが、一方で本解析は、低血糖はそうしたイベントのマーカーというだけなのかもしれないことを示唆している。いずれにせよ重症低血糖が患者の有害転帰への気づきと速やかな対処を高めるはずだ」とまとめている。
(朝田哲明:医療ライター)