変形性膝関節症の新しい疼痛治療として開発中の、神経成長因子(NGF)を標的とするヒト型モノクローナル抗体tanezumabの、安全性と鎮痛効果を検討するproof-of-concept試験の結果が、NEJM誌2010年10月14日号(オンライン版2010年9月30日号)に掲載された。米国カリフォルニア大学デイビス校のNancy E. Lane氏らによる発表で、tanezumab投与により、中等度~重度の変形性膝関節症患者の関節痛軽減と機能改善が認められたこと、軽度~中等度の有害事象との関連などが報告された。
変形性膝関節症患者450例を、tanezumab投与群かプラセボ投与群に無作為化し検討
試験は、2006年3月~2007年5月に40~75歳の変形性膝関節症患者450例を募集し、tanezumab投与群かプラセボ投与群に無作為化し行われた。tanezumab投与群の患者は、10、25、50、100、200μg/kg体重のいずれかを投与。投与は、1日目と56日目に行われた。
有効性の主要評価基準は、歩行時の膝の痛み、患者の総合評価による治療の実感とした。また試験者側も、疼痛、こわばり、身体的機能についてはWOMACを用い、OMERACT-OARSIの効果判定基準を用いて治療反応率を評価した。安全性の評価も行った。
有望な治療法であることは示された
1~16週の平均で、基線からの、歩行時の膝の痛みの平均減少率は、tanezumab群は投与量により45~62%であった一方、プラセボ群は22%だった(P<0.001)。
患者の総合評価による治療改善の実感も、プラセボ群と比べてtanezumab群の方が有意に大きかった。平均スコアが、tanezumab群は投与量により29~47%増加した一方、プラセボ群は19%だった(P<0.001)。
OMERACT-OARSIによる治療反応率は、tanezumab群が投与量により74~93%、プラセボ群は44%だった(P<0.001)。
また有害事象の発生率は、tanezumab群68%、プラセボ群55%で、tanezumab群で最もよくみられた有害事象は、頭痛(9%)、上気道感染(7%)、感覚異常(7%)だった。
本試験完了後2010年5月24日までに、tanezumabに関する第3相試験13試験のうち1試験の膝・股関節変形性関節症に関する試験で、被験者16例に骨壊死進行の所見が確認され関節全置換術が施された。この報告を受けたFDAは6月22日に、正確な発生率と因果関係が明らかになるまでtanezumabの変形性関節症臨床プログラムの中断を要請した。さらに最近では、腰痛患者と糖尿病神経障害患者を対象とした2試験の一時停止も要請している。
こうしたことを踏まえLane氏は、「tanezumabが、中等度~重度の変形性膝関節症に対し有望な治療法であることは示された。安全性と認容性の問題をより明らかにするため、また主流の薬理的治療に代わる治療法としての可能性を探るためにも、長期かつ大規模な試験が必要である」と報告をまとめている。
(武藤まき:医療ライター)