イギリスに住む少数民族においては、自民族密度の高い地域に居住することで、一般的な精神障害が低減し、社会的支援の改善や差別体験の減少がもたらされることが、イギリスKing’s College London精神医学研究所のJayati Das-Munshi氏らの研究で示された。差別の経験は精神的健康に有害な影響を及ぼすのに対し、社会的支援やネットワークは保護的に作用することが示されている。自分と同じ民族の密度が高い地域で生活する人々は人種差別を経験する機会が減少し、このような生活環境は、イギリスに居住する少数民族にとって精神的、身体的な健康リスクの低減につながる可能性があるという。BMJ誌2010年10月23日号(オンライン版2010年10月21日号)掲載の報告。
国の調査データを多層的に解析
本研究は以下の問題の評価を目的に行われた。(1)同じ民族の人々の居住率が高い地域で生活することが、一般的な精神障害に対し保護的に作用し、差別の経験を低減して社会的支援を改善する、(2)民族密度の保護効果は、人種差別の経験の低減や社会的支援の改善によってもたらされる。
イギリスの892地域から無作為に抽出された16~74歳の4,281人(アイルランド系、黒人カリブ系、インド系、パキスタン系、バングラディシュ系、白人イギリス系)を対象に、国の調査データに関して多層ロジスティック回帰モデルを用いた解析を行った。
一般的精神障害は構造的面接で評価し、差別や社会的支援、ネットワークは構造的質問票で評価した。
民族密度の保護効果は完全には説明できない
民族密度が高い地域のほとんどが最貧地区であったが、交絡因子を補正すると、自民族密度が10%増加するごとに、一般的な精神障害のリスクが全少数民族(オッズ比:0.94、95%信頼区間:0.89~0.99、p=0.02)、アイルランド系(同:0.21、0.06~0.74、p=0.01)、バングラディシュ系(同:0.75、0.62~0.91、p=0.005)において有意に低減するとのエビデンスが得られた。
いくつかの人種では、自民族密度が高い地域に住むことで差別体験の報告が減少し、社会的支援やネットワークが改善されたが、これらの因子が民族密度の保護効果をもたらすことはなかった。
著者は、「イギリスに住む少数民族では、自民族密度の高い地域への居住による一般的精神障害に対する保護効果が確認された。自民族密度が高い地域で生活する人々は、社会的支援が改善され、人種差別体験が減少する可能性が示唆されるが、これらの関連性によって密度効果が完全に説明できるわけではない」と結論している。
(菅野守:医学ライター)