心停止を起こした入院患者に対する自動体外式除細動器(AED)の使用は、退院時生存率の改善にはつながらず、むしろ同生存率が約15%低下するという。米国Saint Luke’s Mid America Heart InstituteのPaul S. Chan氏らが、院内心停止をした約1万2,000人を対象に行ったコホート試験で明らかにしたもので、JAMA誌2010年11月17日号(オンライン版2010年11月15日号)で発表された。これまでに、院外心停止に対するAEDの使用が生存率を改善することは報告されていたが、院内心停止へのAED使用に関する研究は、単一医療機関におけるものに限られており、その効果が普遍性のあるものかは明らかになっていなかった。
院内心停止の82%がショック非適応の波形
研究グループは、2000年1月1日~2008年8月26日の間に、AEDを一般病棟に設置している米国内204ヵ所の病院で、院内心停止をした1万1,695人について追跡調査を行った。主要評価項目は、退院時生存率とAED使用との関連だった。
被験者のうち、ショック非適応の波形(心静止と無脈性電気活動)患者は9,616人(82.2%)、ショック適応の波形(心室細動と無脈性心室頻拍)患者は2,079人(17.8%)だった。
AEDを使用したのは、4,515人(38.6%)だった。
ショック非適応の波形患者へのAED使用は、さらに退院時生存率を低下
結果、退院時に生存していたのは、2,117人(18.1%)だった。被験者全体で、院内心停止後にAEDを使用しなかった人の退院時生存率が19.3%だったのに対し、AEDを使用した人の同生存率は16.3%であり、補正後生存率比は0.85(95%信頼区間:0.78~0.92、p<0.001)だった。
ショック非適応の波形患者の心停止についてみてみると、AEDを使用しなかった人の同生存率は15.4%だったのに対し、使用した人の同生存率は10.4%と、さらに低下していた(補正後生存率比:0.74、同:0.65~0.83、p<0.001)。
一方で、ショック適応の波形患者の心停止については、AED使用の退院時生存率は38.4%、非使用の同率は39.8%で、両群に有意差はなかった(p=0.99)。
こうした傾向は、AEDを使用した病室の監視モニターの有無別にみても、また各病院病室に関するマッチングや傾向スコア分析後も、一貫していた。
(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)