生活習慣が対照的な北アイルランドとフランス2ヵ国の50代男性の、飲酒パターンが虚血性心疾患に及ぼす影響を調査した結果、毎日決まって中等量(平均アルコール消費量32.8g、参考値:ビール中瓶20g http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-001.html)の飲酒を習慣とするフランス男性の虚血性心疾患リスクは低く、一方、1日の平均アルコール消費量、飲酒者割合ともフランスより低かったものの不節制飲酒(毎週1日以上50g以上消費)が多くみられた北アイルランド・ベルファストに住む男性の同リスクは高いことが明らかにされた。フランス・トゥールーズ医科大学校疫学部門/INSERM U558のJean-Bernard Ruidavets氏らの報告による。BMJ誌2010年11月27日号(オンライン版2010年11月23日号)掲載より。
生活習慣、虚血性心疾患発病率が対照的と知られるフランスと北アイルランドで評価
飲酒パターンと虚血性心疾患との関連については、相関、逆相関ともに報告があり、またワイン、ビール、蒸留酒といった酒類別に言及したものもあるが、生活習慣や酒癖が対照的と知られる国と国との比較を検討したものはほとんどないという。そこでRuidavets氏らは、虚血性心疾患の発病率が対照的である両国(フランスは低く、北アイルランドは高い)における関連について、「PRIME(Prospective Epidemiological Study of Myocardial Infarction)」試験のコホートデータを解析し評価した。
評価は、週のアルコール消費、不節制飲酒(週1日以上50g以上アルコール消費)の発生率、定期飲酒(毎週1日以上、1回のアルコール消費は50g未満)の発生率、アルコール摂取量、飲酒頻度、酒の種類について包括的に行われた。
コホートは10年追跡され、その間に起きたすべての冠動脈イベントが前向きに記録され、Cox比例ハザード回帰分析法により、基線における被験者の特徴と、心筋梗塞または冠動脈死(hard冠動脈イベントと規定)との関連、および狭心症イベントとの関連が評価された。
hard冠動脈イベント発生、1,000人年あたり北アイルランド5.63、フランス2.78
解析されたコホートは、1991~1994年に、北アイルランド(ベルファスト)の1施設から2,405例、フランス(リール、ストラスブール、トゥールーズ)の3施設から7,373例、いずれも50~59歳の虚血性心疾患を有していない被験者、計9,778例だった。
1週間に1日以上飲酒をする人は、ベルファストでは1,456例(60.5%)、フランスは6,679例(90.6%)だった。
そのうち、毎日飲むと回答した人は、ベルファストでは12%(173/1,456例)だったが、フランスでは75%(5,008/6,679例)だった。平均アルコール消費量は、ベルファストは22.1g/日、フランスは32.8g/日だった。
不節制飲酒者の割合は、ベルファスト9.4%(227/2,405例)に対して、フランス0.5%(33/7,373例)だった。
追跡期間10年の間に、虚血性心疾患イベントはコホート全体(9,778例)で683例(7.0%)が記録された。内訳は、hard冠動脈イベント322例(3.3%)、狭心症イベント361例(3.7%)だった。
hard冠動脈イベントの年間発生率は、1,000人年あたり、ベルファストでは5.63(95%信頼区間:4.69~6.69)、フランスでは2.78(同:2.41~3.20)だった。
多変量(代表的な心血管リスク因子、登録施設)調整後の、定期飲酒者との比較によるhard冠動脈イベントのハザード比は、不節制飲酒者1.97(95%信頼区間:1.21~3.22)、非飲酒者2.03(同:1.41~2.94)、元飲酒者1.57(同:1.11~2.21)だった。
ベルファストとフランスとの比較によるhard冠動脈イベントのハザード比は、補正前は1.76(同:1.37~2.67)、飲酒パターンとワイン飲酒で補正後は1.09(同:0.79~1.50)だった。
なおワイン飲酒者だけの解析では両国とも、hard冠動脈イベントリスクは低かった。
(朝田哲明:医療ライター)