65歳で前立腺がんの診断を受けた仮定的コホートで、選択した治療の違いによるQOL調整後の期待余命(Quality-adjusted life expectancy ;QALE)について検討した意思決定解析の結果、積極的経過観察を選択した患者群が、他の放射線治療や手術などを選択した患者群に比べアウトカムは良好で、積極的経過観察が妥当な治療戦略であることが示された。米国ハーバード大学医学部ダナファーバーがん研究所のJulia H. Hayes氏らの報告によるもので、「治療か積極的経過観察かの選択は個々人が中心的に担うもの」と結論している。JAMA誌2010年12月1日号掲載より。
仮想患者のPSA値は10ng/mL未満、病期分類T2a以下、グリーソン・スコア6以下
本研究の背景には、米国では、2009年には前立腺がん患者が19万2,000人に上り、そのうち低リスク患者が70%を占め、90%以上が初期治療として手術や放射線治療を受けるものの、その大半が一つ以上の副作用を有するとの報告を踏まえ、「PSAスクリーニングを受けた人の最大60%で前立腺がんが診断される時代に、治療を義務づけることはないであろう」という著者らの提起がある。しかし、低リスク前立腺がんに対する積極的経過観察と、放射線治療や外科治療について、その長期アウトカムや生活の質(QOL)に与える影響を分析した試験はほとんどなかった。
研究グループは、65歳で初めて診断を受けた、臨床的限局性の低リスク前立腺がんの仮想コホートについて、過去の研究結果に基づくシミュレーション・モデルを作り、意思決定解析を行った。仮想患者のPSA値は10ng/mL未満、病期分類T2a以下、グリーソン・スコア6以下の患者とされた。
患者の選択肢は、近接照射療法、強度変調放射線治療(IMRT)、前立腺全摘除術、または積極的経過観察だった。積極的経過観察では、定期的な直腸内診、PSA値検査と、生検(診断の1年後、それ以降は3年ごと)を行い、グリーソン・スコアが7以上や、その他疾患の進行が認められた場合や、患者の選択意思が示された場合に処置が行われた。
主要評価項目は、それぞれの選択肢におけるQALEだった。
QALEは積極的経過観察が最高、次いで近接照射療法、最低は前立腺全摘除術
結果、QALEが最高だったのは積極的経過観察群で、質調整後の生存年数は11.07 QALYだった。次いで、近接照射療法の10.57 QALY、IMRTの10.51 QALY、前立腺全摘除術の10.23 QALYだった。
前立腺がんでの死亡の相対リスクは、診断時にいずれかの治療をした場合が、積極的経過観察群と比べ0.6倍と低かった。それにもかかわらず、QALEは積極的経過観察群が最高のままだった。QALE増加、最適治療は、個々人が積極的経過観察かいずれかの治療を行うかによっていることが認められた。
(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)