新たに開発されたQRISKの心血管疾患に関する生涯リスクスコア(http://www.qrisk.org/lifetime/)は、従来のQRISKモデルの10年リスクスコアでは確認し得ない、より若い年齢層における高リスク例の同定を可能にすることが、イギリス・Nottingham大学プライマリ・ケア科のJulia Hippisley-Cox氏らの検討で示された。QRISK2などのリスク予測アルゴリズムは、通常、心血管疾患の10年絶対リスク≧20%の場合に高リスク例と判定しているが、この20%という閾値では、若年者のうち10年絶対リスクは低いものの相対的に高リスクな例を見逃す懸念がある。生涯リスクによる予測は、特に若年例についてより多くの情報をもたらし、マネジメントの決定やライフスタイルの改善に役立つ可能性があるという。BMJ誌2011年1月8日号(オンライン版2010年12月9日号)掲載の報告。
ルーチンのプライマリ・ケア・データを用いた前向きコホート試験
研究グループは、心血管疾患の生涯リスクを予測する新たなQRISKモデルを開発し、その妥当性を検証、評価するためのプロスペクティブなコホート試験を実施した。
解析には、イングランドとウェールズの一般医(GP)563名からルーチンに登録されたQResearchデータベースのプライマリ・ケア・データを用いた。対象は、1994年1月1日~2010年4月30日までに登録された30~84歳の患者で、心血管疾患の既往歴がなく、スタチンの処方歴がない例とした(導出コホート:234万3,759例、検証コホート:126万7,159例 )。
生涯リスクの推算に用いた因子は、喫煙状況、人種、収縮期血圧、総コレステロール/HDLコレステロール比、BMI、冠動脈心疾患の家族歴(60歳未満で発症した一親等内の親族の有無)、Townsend貧困スコア、治療中の高血圧、関節リウマチ、慢性腎疾患、2型糖尿病、心房細動であった。
生涯リスクに基づく介入が有益か否かは、さらなる検討を要する
検証コホート126万7,159例のデータセットの解析では、生涯リスクが50パーセンタイルの場合の心血管疾患の生涯リスクは31%であり、75パーセンタイルの場合は39%、90パーセンタイルでは50%、95パーセンタイルでは57%であった。
検証コホートにおいて生涯リスクモデルあるいは10年リスクモデルのいずれかでリスクが最上位の10%に相当すると判定された例のうち、双方のモデルのどちらもが高リスクと判定した例は14.5%(1万8,385例)にすぎなかった。
10年リスクモデルで高リスクと判定された例に比べ、生涯リスクモデルで高リスクと判定された患者は、より若く、少数民族に属する例が多く、冠動脈心疾患の家族歴を有する傾向が強かった。
著者は、「新たなQRISKの生涯リスクスコアを用いれば、QRISKモデルの10年リスクスコアでは確認し得ない、より若い年齢層における高リスク例の同定が可能になる」と結論する一方で、「より若い年代でのライフスタイルへの介入は有益な可能性があるが、65歳未満ではその恩恵は小さく、薬物による介入には薬物そのもののリスクが伴う。今後、生涯リスクスコアに基づく介入の費用効果や、このアプローチが許容可能か否かにつき、詳細な検討を行う必要がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)