冠動脈硬化発生の促進因子としてADAMTS7遺伝子座が、また冠動脈硬化存在下における心筋梗塞発症の促進因子としてABO遺伝子座が新たに同定された。アメリカ・ペンシルベニア大学循環器研究所のMuredach P Reilly氏らの検討による。冠動脈疾患(CAD)や心筋梗塞の遺伝子的構造が解明されれば、リスク予測の改善や治療法の開発によって大きなベネフィットが得られる可能性がある。最近のゲノムワイド関連解析(GWAS)では、これらの疾患に関連する新たな遺伝子座が同定されているが、遺伝的素因に関連するものは少ないという。Lancet誌2011年1月29日号(オンライン版2011年1月15日号)掲載の報告。
二つのゲノムワイド関連解析で評価
研究グループは、遺伝的因子と冠動脈硬化の発生、および冠動脈硬化の存在下における心筋梗塞の発症との関連を評価する二つのGWASを実施した。
PennCathおよびMedStarに登録されたヨーロッパ系人種の患者を対象に、冠動脈造影上のCAD患者を同定した。遺伝子情報は、ヒトゲノムの遺伝子マーカー検査で遺伝子型が判明している患者から収集した。遺伝子マーカーと遺伝子型の関連を検出し、感受性遺伝子マップを作成した。
CADの発症と関連する遺伝子座を同定するために、CAD患者1万2,393例と非CADの対照群7,383例について比較した。心筋梗塞を促進する遺伝子座の同定には、CADで心筋梗塞を発症した患者5,783例とCADで非心筋梗塞の患者3,644例を比較した。
リスク評価の個別化や治療法の開発に役立つ可能性も
CAD患者と非CAD患者の比較では、CADと有意な関連を示す新たな遺伝子座として
ADAMTS7遺伝子が同定された。心筋梗塞を併発したCAD患者と非心筋梗塞CAD患者の比較では、
ABO遺伝子座が心筋梗塞関連遺伝子として新たに同定された。
ABO遺伝子と心筋梗塞の関連は、ABO式血液型O型の遺伝子型をコードするglycotransferase-deficient enzymeに起因していたが、この酵素は以前、心筋梗塞に対し保護的に作用することが示唆されていた。
著者は、「特定の遺伝的素因が、冠動脈硬化の発生や、冠動脈硬化からの心筋梗塞の発症を促進していることが示唆された」と結論し、「これらの新規遺伝子座は、CADのリスク評価の個別化や新たな治療法の開発に役立つ可能性がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)